・紅郎との日々

□眠る前に、ハグがしたい
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「紅郎〜ハグして。」

別にお酒を飲んだわけじゃない。仕事で何か失敗があったわけでもない。それでも時々べたべたにくっついて甘えたくなる。もはやそれは突然やってくるにわか雨のような現象だった。我慢できるときもあるけれど、今夜はダメ。我慢できない。ぐだぐだに甘やかされたい。大きな手で包まれたい。大きな身体に自分の身体を預けきってしまいたい。

そう思い最初はあぐらを掻く紅郎の上に座る。前に針仕事をしているところを邪魔したらめちゃめちゃ怖い顔をされたので、今日は事前に確認済みだ。

「こらこら、俺は座椅子じゃねぇんだぞ〜。」

「だって〜後ろから抱きつこうとすると紅郎の肩幅広くて腕回らないんだもん。」

座椅子だと思ったつもりはないがそう言われては仕方ないのでくるりと身体を反転させる。ちょっとアレだけど、跨がるように向かい合うと一瞬ぎょっとされる。

「蒼生…時々おっかないくれぇ過激なことするよな。」

「紅郎のえっち。くっつきたいだけなのに〜。ねぇねぇハグして。ね?」

「わかったよ。俺の負けだ。ほらベッドにはいってな。すぐ行くからよ。」

大人しくベッドに入ったものの、ひんやりとして冷たい。心地良いけど何となく淋しくて早く来い〜と念を込めてじいーっと紅郎を見つめる。紅郎はそれに気づいたのか、手早く電気を消した。

そっと掛け布団をめくって入ってきたところに両手をまっすぐ伸ばすと、紅郎も同じように腕を伸ばす。そうして二人して正面からぎゅうぎゅうと抱きしめあう。

「なぁ、なんかあったか?」

「ううん、なんにも。でも甘えたいの。」

「ん、ならいいけどよ。よしよし。」

「子供扱いしないでよ〜。」

「悪い悪い。つい、な。」

吐息が頬をかすめた瞬間、耳をはまれる。
固い歯で甘噛みされるのと同時に、熱い息が耳を包む。

「なぁ、大人な扱いならいいのか?」

いつのまにか私の両足には紅郎の両足が絡みついていて身動きが取れない。

「そういうつもりじゃなかったんだけどな〜。」

「無理強いはしねえから、心配すんな。」

「ん〜、今日はこのまま寝たい。」

「はいよ。んじゃおやすみ。嬢ちゃん。」

「おやすみ紅郎。…明日なら良いよ。」

「おう。んじゃ明日まで楽しみにしとくかな。」

くくくと楽しそうに笑う紅郎の声が心地よくて、もっと聞きたくて、こちょこちょと指を動かしてみるも、すぐに掴まってしまう。

「こら、寝るんじゃなかったのか。」

「ん〜だって〜、紅郎の声が聞きたいの。ね、名前呼んで。」

「蒼生、おやすみ。愛してるぜ。良い夢見ろよ。」



題:眠る前に、ハグがしたい。



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