・紅郎との日々

□煩悩退散…? 蓮巳視点
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ある日、鬼龍が相談したいことがあると言うのでOFFの日に待ち合わせたが、どうにもせわしない。

学生時代からどっしりと構え、どんなことにも動じなかった鬼龍にしては珍しいほど、始終そわそわと落ち着きが無かった。

なじみの店に入って食事をしたものの、その場で問いただしても口が重く一向にはき出そうとしない。外では話せないほど深刻な案件なのだろうと思い、俺は鬼龍を自宅へ招き話を聞くことにしたのだが…

「その…我慢できねぇんだ。嬢ちゃんと一緒にいると、頭では分かっちゃいるんだが最後はいつもがっついちまって…。」

数刻前こいつを本気で心配した俺が馬鹿だったようだ。こいつは何を言い出すかと思えば、恋人との関係について蕩々とのろけ始めたのだ。

恐らく本人は真剣に悩んでいるのだろうが、俺からすればどうでも良い話だった。しかもよりによって自宅の、更に言えば寺で!友人とその恋人の夜の話など微塵も聞きたくなかった。

「貴様…ここがどこだか分かっていっているのだろうな。」

「すまん…。」

俺が青筋を浮かべているのが伝わったのか、鬼龍の赤く染まっていた頬は一気に血の気が無くなった。

「まったく…心配して損したな。どんな悩みかと思えば、度し難い。」

「すまん。だがこの手の話は旦那にするのが一番良いと思ってよ…。」

「ふん…まぁ確かに、俺に助言を求めるのは賢明な判断だな。しかし…俺に出来ることと言えばその煩悩を退散させる手伝いぐらいだ。」

さてどうしたものか…と思うが、やはり俺が出来ることと言えば写経や座禅を勧めることぐらいだ。しかしよく考えればこいつは坊さんでもなんでもない。恋人とそういった行為をすることに何ら不自然はないはずだ。

「鬼龍、こんなことを言うのも野暮な話だが…恋人の同意が得られていればそういった行為に興じることに何ら問題は無いと思うが。」

「まぁ、そうなんだけどよ。もちろん無理矢理したりとかはしてねぇ。大事だからよ。ただなんつーか、たまにどうしようもなく抑えが効かねぇせいで、失神させるまで抱いちまうんだ。あんまりにも可愛くて止まらねぇせいで、そうなると最後は欲望が果てるまで求めちまうんだよ…。」

「ちなみに…その…一晩でどのくらいするんだ?」

「時間は二・三時間の時もあるが、休みだと半日くらいか?」

「お前ら…そんなにかかるのか?」

「いやずっとじゃねぇよ。何度もするから…そうだな箱半分くれぇか?」

前言撤回。俺が想像していた以上にこいつの性欲はとめどないらしい。体格は良いし体力もある分、恋人に掛かる負担も大きいだろう。俺は密かに心中で蒼生に同情しつつ、重たいため息を吐きながらげんなりとする。こいつを根本からは変えられないだろうが、精神を鍛えれば少しは冷静になれるだろう。

「貴様はあれだな…例えるなら除夜の鐘を108回打つだけでは到底足りないようだな。いいか、今夜は覚悟しろよ。その精神が正されるまで嫌と言うほど説教を聞かせてやる。」

俺はそのまま色欲に溺れた人間がどのような地獄に落ちるのかひたすらに聞かせ、写経セットを用意してやった。正直こんな事でどうにかなるとは思えなかったが、どうにかしようとしていう友人を見捨ててもおけなかった。

後日、二・三日修行させてくれと尋ねて来た鬼龍を見て自分に先見の目があったことに複雑な心境を抱いたのは言うまでもなかった。


題:煩悩退散…?



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