・夢の先には…

□31 あらしのひに
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その日、学院中の木々の葉がなくなるのではないかと言うくらい強い雨が降った。午後になるとさらに雨脚は強くなり、とうとう放課後には雷まで鳴り出した。

あまりにひどい天気だったため、ユニットの練習や部活動を早めに切り上げて下校する生徒が多くいる中、敬人と真緒は生徒会役員として生徒の安全確認をしていた。

「帰宅できる生徒は速やかに帰宅しろ。」

「どうしても帰宅が困難な生徒は体育館に集まるようにしてください!」

真緒は念のため蒼生の部屋に行くと、蒼生は不安そうな顔をしつつも体育館に行くと申し出てくれた。

「窓ガラスが割れたら危ないし、ひとまず帰れないって事で誰かといた方がいい。俺も残るし、副会長も残るから心配するな。」

二人は体育館に着くと、そこにはなぜかレオを除いたKnightsのメンバーが座っていた。

「あらァ蒼生ちゃん、今夜は一蓮托生ね♪」

「皆さんは…どうしてお揃いで?」

蒼生が言うやいなや、司は蒼生のもとに駆け寄りその手をぎゅっと握る。

「お姉さま!私たちは防音室でPracticeしてたのですが、放送が入らないようSwitchを切っていたせいでこのような状況になっていると知らず…取り残されてしまったのです。」

蒼生は目の前でがっくりとうなだれる司が不憫に思えて、つい自然と手が頭へと伸びていた。慰めるようによしよしと頭を撫でてあげると、司は嬉しそうにしながらも急にきりっと態度を改める。

「ですがお姉さまとこうして一晩ご一緒できるのはとてもLuckyです。今晩は司がお供いたします故、なにも心配しないでくださいね。」

そういうと蒼生を安心させるように手を取り、中央へと誘う。そこへ見回りを終えた敬人が合流してきた。

「今夜は大荒れになる予報で、ひどいと明日は休校かも知れないような状況だ。とりあえずと思ってここに集まってもらったが、体育館も決して安全とは言えないとの判断がでたため、今夜は使っていない防音練習室で一晩過ごすことになった。」

で、だ。お前はどうする。と敬人が蒼生に目を向ける。するとその場にいた全員が自然と蒼生の方を向く。

「…っ…えっと…。」

突き刺さる。一言で表せばそんな感覚が蒼生の心に走る。アルバイトのおかげで少しは人前も慣れたかと思っていたが、あの仕事は殆ど注目されることはない。蒼生は視線にいたたまれなくなり顔をそらすと、真緒がそれを遮るよう蒼生の前にしゃがんだ。

「蒼生。もし嫌じゃなければ俺たちと一晩すごそう。約束する。蒼生のいやがることは絶対しないし、不安な思いもさせない。でも…やっぱり落ち着かなくてどうしても一人がいいなら、隣に部屋を用意する。」

「ま〜くん、いやがることしないって…その言い方じゃまるで…」

「凛月ちゃん!ちょーっとお姉ちゃんとお話してましょうねェ!」

「まぁ、でも確かにその言い方じゃちょっとねぇ〜。まぁでも他の奴らはともかく、Knightsは騎士道を重んじるユニットだから蒼生に危害を加えることは絶対ないって保証できるけどぉ?」

「ほぉ、他の奴とは俺と衣更のことか…?」

いつぞやの再来とでもいうように赤と青の火花が散る中、真緒は赤くなった顔を何とかごまかしながら蒼生に再び言葉をかける。

「蒼生…ごめん、言い方がちょっとアレだったよな。ただ、やっぱりこんな時に一人にはさせられない。だから、今夜は俺たちとすごそう。」

真剣な声に顔を上げると、真緒が張り詰めたような顔で見つめていた。大丈夫。みんないた方がいいに決まってる。自然とそう思えた瞬間、蒼生はこくりと首を縦に振った。

話がまとまったところで、厨房で夕飯を作る人と合宿などで使う布団を練習室に運ぶ人で手分けして作業を進めることになった。

敬人、泉、真緒、蒼生の4人は厨房で夕食を作っていた。意外にも蒼生の手際がいいことや、きちんとした栄養学の知識を持ち合わせていることに三人が驚きを隠せないでいると、蒼生が察したのかおもむろに口を開く。

「通っているのが女子校ということもあり、料理やもてなしの基本は学校でみっちり教わりました。私たちが実生活で料理することなんてほとんどありませんけどね。」

するのはお茶会に呼んだり呼ばれたりしたときのお菓子や軽食ぐらいだと告げれば、真緒は物珍しそうに質問する。

「他にも、女子校ならではの授業とかってあるのか?」

「女子校ならではかどうかは分かりませんが…私の学校は和洋どちらのマナーにも厳しい学校ですので、お茶やお花、伝統舞踊にワルツ、もちろんテーブルマナーや挨拶の授業などもございました。」

「ふ〜ん…いわゆるお嬢様ってことなんでしょ。その割に蒼生は意外としっかりしてるんじゃないの。歌もダンスもいい物持ってるし、先輩も敬える。いい子だねぇ。」

「あ〜、セッちゃんが蒼生口説いてる〜。」

声のする方を向くと、布団を運び入れていた三人が厨房に来ていた。

そのままみんなで食事をとり、順番にシャワーを浴びる。途中誰が蒼生の見張りをするかで一悶着あったが、結局敬人と真緒が見張りをすることになった。しかし入れ違いで真緒と敬人がシャワーを浴びたために一人で防音室に戻ってきた蒼生の髪が半乾きなのにモデル組二人が激怒し、現在お人形の如く世話を焼かれていた。

「まさかとは思うけど、蒼生ちゃんいつもなにもケアもしてないのォ?!」

「えっと…ハンドクリームは塗るよ。」

「あのねぇ、髪は濡れたままだと傷むからちゃんと乾かしな。それと肌もきちんとケアしないと荒れたりくすんだりするんだから少しは気を遣いなよねぇ。」

今度色々持って来て肌に合うものを確かめてあげる。なんていつになくご機嫌な泉を嵐が横目でにやにやと見つめるも、泉は気づかないのか一生懸命蒼生の世話を焼いていた。

「え、蒼生ちゃん手袋して寝るの?」

「ええ、手に傷がついたりしたら困るので…」

蒼生はアルバイトを始めてから、できる限りの時間は手袋をして生活するように心がけていた。他のメンバーも大事なコンサートやコンクールの前にそうしていたことを思い出したのでトランクを漁ると、案の定奥から保護用の手袋が出てきたのだ。

「ねぇ、蒼生。ところで今夜は誰と寝る?」

なんだろう。今凛月はなんて言ったのだろう。多分聞き間違いだと思うけれど、何か物騒な質問だった気がする。

「ねぇ質問の意味わかんないの?今日はよりどりみどりいるから、誰と一緒に寝たいかって聞いてんの。いつもは一人で眠れないから兄者っぽいのと寝てるんでしょ。でも今夜はいっぱいいるから、一緒に寝たい人選びなよ。」

もちろん、俺は大歓迎だよ。と凛月に至近距離で顔を包まれる。

「え…いや、その…。」

「ちょっとぉ!くまくん!」

ばりっと音がするような勢いで剥がされた凛月君は不満げである。

「なぁに、セッちゃんは蒼生と一緒に寝ないでしょ?」

「なっ…べ、別にぃ、蒼生がどぉ〜してもって言うなら、寝てやらなくも無いけどぉ?」

「はい!はい!お姉さま!是非司と一緒に夜を共にしてください!」

「まぁ司ちゃんたら積極的ねェ♪でもォ、せっかくなんだしやっぱり蒼生ちゃんはお姉ちゃんとガールストークしながら寝たいわよね?」

「いや、その…木曜日はいつも寝てないから、今夜も寝ないつもり…なんですけれども…。」

「ちょっとぉ、お兄ちゃんとは眠れないっていうのぉ?素直じゃないなんてチョ〜むかつく。照れ隠しも大概にしなよね。寝ないとか身体に悪いでしょ。」

「そうよォ蒼生ちゃん、睡眠不足はお肌の大敵よっ!」

「お姉さま…司では、ダメでしょうか。」

「寝ないならさぁ、今夜は一晩中俺と遊ぼう。俺も夜は寝ないからさ。」

「お前等…どこが騎士道だ!消灯!藤崎も子供じゃないんだから一人で寝ろ!」


結局割って入った敬人により、部屋の電気はあっという間に落とされた。

「え〜」だの「はぁ〜?!」だの方々から声が上がるものの、部屋にはすぐに静寂が訪れたのだった。



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