・紅郎との日々

□彼シャツ
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仕事を終え帰宅すると、洗面所からピーという電子音が鳴る。覗いてみると洗濯乾燥機の中にある洗濯物の乾燥が終わったことがわかる。

いつもなら部屋干しでも…と思うのだが、最近は雨ばかりなので洗濯物の回転が追いつかないのだ。荷物を置き、着替えて洗濯物を取り出すと、お日様にはないほかほかとしたぬくもりがあった。
あまりの温さに思わず顔を埋めたくなる。なんなら体ごとダイブしたいくらいだ。そう思った私は急いでシャワーを浴びる。化粧も落として、体も綺麗にすれば問題ない。

幸い紅郎もいなかったため、バスタオル一枚で出て来る。普段こんな事をしたらきっとものすごくはしたなく思われるだろう。

私は一人きりなのを良いことに、そっと洗濯物の山へ倒れ込む。

取り出しておいた洗濯物は幾分か冷めてしまっていたが、中はまだほかほかと温かい。その暖かさを求めるように身をよじると、急に影が差した。

「なにしてんだ嬢ちゃん。」

「…お、おかえりなさい」

そもそも考えが浅はかだった。乾燥機が回っていると言うことは、紅郎が回したということだ。いつも私の帰りの方が早いので紅郎はいないものだと錯覚してしまったが、どうやら近所にお夕飯の買い物へ行っていたようだ。

「あ、あのですね、とても温かくてですね、思わず…。ゴメンナサイ。」

「そんなにいいのか?」

ふっとおかしそうに笑うと、買い物袋を置いて私の肩を掴む。

「ほら、皺になっちまうだろ。」

そういって洗濯物の中から体を起こされる。と、同時にバスタオルがはらりと落ちた。

「…!わ、わりぃ…!」

「だ、大、丈夫。」

とりあえず隠そうとかろうじて掴んだものは紅郎のシャツだった。ほかの洗濯物同様、まだほかほかと温かいそれで、とりあえず体を隠す。
ちらっと紅郎の方を見ると、赤い顔をしながら目を明後日の方へ向けている。

何も着ないよりはと思い手に持っていた紅郎のシャツを羽織る。タオルだとまた落ちてしまうかもしれない。その点紅郎のシャツは大きいので私が着るとミニワンピのようになる。

ボタンを留めようとしたとき、タイミングの悪いことにくしゃみが1つ。

「ほら、そんな恰好してっからだ。」

紅郎はひょいと何かをつまむように私をお姫様だっこする。一瞬目が合うものの、はっとした顔をされすぐそらされる。もう着てるんだからそらさなくても…と思い自分の体を見ると、ボタンがちゃんと留まっていないせいで、胸や下半身が見えそうで見えないという何とも言いがたい姿になっていた。あわててボタンを閉めようとするものの、自分のしでかしたことに恥ずかしくなり手が震える。

「刺激的だな。そんなにあったけぇのがいいなら、俺が今から温めてやるよ。」

いえ、もう十分です。そう言う前に自分の顔に熱が集まって赤くなるのが分かる。

でもせっかくだから、このままおとなしく、温めてもらおうかな。


題:彼シャツ


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