・紅郎との日々

□一緒に
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紅郎も私も結構仕事で一杯一杯だ。だからこそ、一緒に住もうとなった。

確かに自分の事は自分で、という生活スタイルの方がお互い理に適っている。気兼ねもしなくて良いかもしれない。
でも会えるように時間を作ったり、リークされることを心配するのはなかなか辛いものがある。例え生活時間が合わなくても、同じ空間に一緒に生活する。それだけで、たったそれだけでも互いの励みになると思った私たちは、少し前に少し広めのマンションを借りた。

今夜は満月だ。私はスーパーの袋を下げて帰路につく。久しぶりに定時で上がった私は紅郎の為に夕飯を作ろうと考えて買い物を済ませた。

鍵を開けると、朝出て行った時より少し片付いていた。紅郎は昨日深夜に帰ってきたせいか、朝は私が出るときもまだ寝ていた。きっと紅郎は仕事に出る前に片付けてくれたのだと思うと、夕飯作りになおさら気合いが入る。

夕飯作りだけでは気合いが有り余ってしまったので、日は沈んでいたが窓を全開にして洗濯機を回し掃除機を手早く掛ける。いろいろなところを水拭きして、家の中を整える。お風呂もカビ取りまでばっちりしておいた。

「ただいま。」

帰ってきた!まるで何かの競技のように声に反応した私はすっ飛んで玄関に向かう。

「おかえり。紅郎。今朝片付けてくれてありがとう。ごめんね、助かっちゃった。」

久しぶりに広い胸に抱きつく。外の空気をまとった体からはほんのり体温を感じる。

「たいしたことじゃねぇよ。気にすんな。それより嬢ちゃん、随分頑張ったみたいだな。」

よしよしと、いつもみたいに頭を撫でてくれる。かと思ったら、ひょいとお姫様だっこされる。紅郎は額をコツンと合わせると、ちょっと悪巧みするような目でにやりと笑う。

「ご褒美に、たまには一緒に入るか。風呂。」

「え?!えぇっ?!」

全身の熱が顔に集まるような感覚がする。あまりに突然のことであわあわしていると、「冗談だ」と眉を八の字にして笑われてしまう。

「う…」

「ん?どうした嬢ちゃん。」

紅郎はすたすたと私を抱えたままリビングにやってくる。そのままそっと私を床に下ろそうと腰をかがめるが、私は紅郎の首に回した手にぐっと力を入れる。

「う…受けて立とうじゃない。」

「なっ…」

今度は紅郎の顔が真っ赤だった。今日着ているパーカーと同じくらい耳元まで真っ赤だ。そのまま耳にかぷっと一瞬かみつくと、体がふわっと浮く。

「女の子なんだから、そういうことを俺より先にするんじゃねぇよ。」

紅郎は私を抱えてたった今来た道を戻る。「取り消しはなしだからな…。」というつぶやきに頷くと、なんだかおかしくなって二人して吹き出してしまう。

「お風呂からでたらご飯にしよう。紅郎の作るご飯には敵わないかもしれないけど。」

「そんなことねぇよ。俺にとっちゃ何よりのごちそうだ。」


題:一緒に


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