・No one…

□#11
1ページ/1ページ



その晩、大和は特別に朔の病室に一泊することになった。

朔は今までのことを大和から根掘り葉掘り聞き出す。自分が半年近くも眠ったままであること、みんなに迷惑をかけまくり、血まで分けてもらったこと、そして大和と婚約していたことを知る。

「ごめん。勝手に」

「いや、多分逆の立場なら同じようにしたと思う。ねぇ、それで、これ…どうする?」

まだ上手く出ない声を掠れさせながら、左手を大和の方へ向ける。

「朔が嫌じゃなかったら、そのまま俺と婚約してて欲しい」

「結婚、じゃなくて?」

「うん、そこは……まぁ、おいおい2人で考えよう」

「分かった。ありがとう。いつも大和の人生においてくれて、とても嬉しい。こちらの意思を大切にしたいという思いもあるから、ここで生きていけるんだろうな。だから…同じように、この先の人生に大和が、欲しい」

だめ?と大和の方を向くと、大和の目は潤んでいた。

ベッドに腰掛けた大和に寄り掛かって、病室の窓から月を見上げる。痩せすぎたのか、骨があちこちに当たって痛かった。それでもぬくもりが欲しくて、大和に寄りかかる。

「クリスマスまでには帰れるかな?」

「多分な。」

「よかった。もみの木とヤドリギを出して、プレゼントを用意しなきゃね。あと、アドベントカレンダーも買おう。お菓子やオーナメントが入ってるやつがいい。寮のみんなで毎日代わりばんこに開けよう」

「そうだな。朔が退院したらな」

「ねぇ、あの丘にもまた連れて行って欲しい。この指輪をくれたあの丘に、今年も行きたい」

「んじゃ、今度はたんまり着こんでいこうな」

「ふふ。去年はものすごく寒かったからね。ああ、そうだ…すぐに曲も書こう。あの時書くと決めていたものがいくつかそのままなんだ」

「そりゃありがたい。IDOLiSH7としてはそろそろ新曲が欲しかったんだ」

「そういえばあの時の新曲は?TRIGGERはどうした?」

「朔があの合宿で書き上げて仕上げさせた曲は、死ぬほど売れたよ。もちろんTRIGGERの曲も。TRIGGERの曲はIDOLiSH7が責任を持ってリリースを手伝ったよ。朔ならこうしないとか、こうした方がいいとか散々喧嘩したけどな。今は千さんがうかうかしてられないから作曲に専念してるって百さんが泣いてた」

「それ、どういう涙なんだろう…」

「まぁ、いろんな涙なんだろうな」

「ねえ、大和…キスしてほしい。沢山、してほしい」

「お前さん、寝てる間に随分素直になったんだな」

「甘えたいんだ。ごめんね。退院したら戻るから、今だけ。ね、手貸して。大和に触れたい。頭も撫でて」

「お兄さんとしては、ずっとこのまま甘えん坊の朔でもいいんだけど。ま、朔の好きにしなさい」

「ふふ、ありがとう。あー、大和あったかい。もっと抱きしめて」

「お前さんは、そうやってもっと人に甘えた方がいいよ」

「じゃあ、大和にうんと甘やかしてもらわないと」

「お兄さんのことも、たまにでいいから甘やかして欲しいんだけど?」

「もちろんだよ」

「朔……随分痩せたな。寮に帰ったら手料理死ぬほど食べさせて太らせないと」

「最後に食べるために?」

「ヘンゼルとグレーテルか。懐かしいな。おお兄さん…って言い方やめないとなんだけど、つい癖で出ちゃうんだよなぁ。とりあえず別の意味で早く朔のこと食べたいよ」

「大和のお兄さんって自称好きだから、やめないで」

「はいはい」

「あと食べるのは…もう少し元気になってからね」

「ん、ありがとう」

「なぁ朔……元気になったら、イギリスに帰ったら?」

予測もしていなかった大和の言葉に絶句していると、唇に一つキスが落ちてきた。柔らかく笑った大和の顔を見て、大和が本気で言ってると自覚できた。

「……なんで?」

「マリーは、朔の唯一の肉親だろ?イギリスから帰る時も、ずっと何度も振り返ってたし、帰ってきてからも、バリバリ働く割には時々ぼーっとしてたよな。TRIGGERの歌うDanny boyを聞いて、帰りたいって呟いてたし」

「聞こえてたのか……」

「ちゃんとは聞こえてなかったけどな。朔、無理しなくていい。朔は朔の生きたいところで、好きに生きていいんだ。会いに行くよ。遠くても、離れていても、俺はずっと朔が好きだよ」

「うん、ありがとう……。あのね……いろんな人にDanny boyを歌ってもらうのは、自分が必要な存在だと請われたいからだよ。好きな曲だよ。思い出深いし、大事な曲だ。イギリスに帰りたくないかと言われたら、もちろんそれは嘘になる。あそこを継いで、マリーを看取りたいとさえ思うよ。でも……あそこは帰る場所じゃない。厳密に言えば、生きる場所じゃない。感覚的にはあの場所に帰りたいし恋しいと感じるけれど、生きるなら、大和の隣がいい。大和の側で、大和と生きていきたい。帰る場所は、大和の隣だよ」

ありがとうと、涙声で告げてきた大和の頭をよしよしとなでる。
昨日と何も変わらない感覚に、ようやく目が覚めたと実感できた気がした。


Next…#12





次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ