・No one…
□#5
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「TRIGGERは、もうDanny boyを歌わなくていい。その代わり、明日20分程度のライブをしてほしい。TRIGGERの音源は用意してある。必要なら言って」
「は?!随分いきなりだな」
「待ってください。なんで急に方向転換したんですか?」
「君たちがDanny boyを歌うのが窓の外から聞こえた。それを聞いて十分な力があると感じたから、TRIGGERの1番得意なTRIGGERの曲を聞こうと思っただけだよ」
「そっか。朔に認めてもらえるなんて嬉しいよ!」
「お腹すいた。ご飯食べたいな。これ食べていい?」
「あ、ああ……待っててな、今温めるから」
「ありがとう三月」
「朔、寝る前にも歌ってくれる?」
「いいよ。今日は特別な日だからね。陸は、何かリクエストある?」
「ん〜そしたらこの間のCDの曲がいいな」
「ワタシからは、彼方の光をお願いします」
「ボクもいいですか」
「いいよ。天は何をリクエストするの?」
「You raise me up をお願いできますか?」
「いいよ。今の IDOLiSH7とTRIGGERにピッタリの曲だね。今度はピアノでも弾きたいよ」
約束通り、就寝前に集まった面々を前に、リクエスト曲を弾いて歌う。そこそこ歌ったところで、せっかくだからと全員でDanny boyを歌い、解散となった。
各々割り当てられた部屋に戻り就寝するよう言われたが、TRIGGERの3人は部屋に戻るなり明日のライブについて話し合いをすることにした。
20分という限られた時間の中で、ようやく見えてきた光を手にできそうとなれば、熱も入る。しかしああでもないこうでもないと白熱する空気を破るように、突然大和が訪ねてきた。
「よ、困ってるんじゃないかと思ってさ。先輩にすることじゃないけど、助太刀に来た。」
「手助けはタブーなんじゃないの?」
「直接的なヤツはダメだけど、ダメって言われてないこともあるから、そこを掻い潜るんだよ。朔もそこまでは縛りはしないし。ってかむしろ朔からのお達し?みたいな?少しだけヒントを投げかけてきて欲しいってさ。これを聞いて、TRIGGERがどう変化するか知りたいんだと」
「うわ……趣味悪い」
「そう言うなよ天。もらえるもんは貰っとこうぜ」
「そうだよ、せっかく大和君が来てくれたんだし」
「朔さんって何考えてるの?よく分かんないんだけど……」
「朔は、根っからの自由人だし旅人なんだよ。ただ、何より自分の作った”音楽”が愛されることを一番大事にしている。自分が作ったからじゃなく、その曲…音楽を愛してくれることを望んでる。本人の言葉を借りるなら、音楽は歴史であり、人と人とを繋ぐ風であり光なんだと。だから音楽そのものを愛して歌えてるかがなにより重要になってる。歌詞はもちろん、きちんと曲を理解して歌えていないと合格はもらえない。ちゃんと自分たちの色で染めて、自分たちのものにしないと誰が歌っても一緒だって言ってくる。朔はよく、音楽に正解はないけど不正解はあるって言うんだ。その不正解は、言い換えれば違和感だって。合わないとか不自然とか、そういう奏でる側と譜面の乖離が気持ち悪いって。自分と……音楽に向き合うのは、ずっと鏡を見てやるような気分になるし、なによりかなりしんどい。ただ、わるくないもんだよ。先輩アイドルにいうセリフじゃないだろうけどさ。TRIGGERも頑張れよ。」
大和は言いたいことだけ言い終わると、さっさと部屋からいなくなった。
「天、お前どう思う?」
「今日初めて朔さんの音楽を生で聞いて、素直にすごいなって思ったよ。その一方でどうしてデビューしないんだろうって。不思議というか、意味がわからないというか、正直変な気持ち。人に歌わせないで、自分で歌えば彼女の言う違和感のない音楽が常に出来上がるし、何より煩わしくない。一番いいのにって。表に出る覚悟がないようにも見えないし、腑に落ちない部分はたくさんある」
「そういやそうだな……大勢の人に幸せになって欲しいなら、ライブやったりテレビ出た方がずっといいはずだよな。ファンの喜ぶ顔が直接見られるしよ。幸せじゃねぇか」
「俺たち、まだまだ朔さんのこと知らないんだね」
「そうだな。でもこれから知っていけばいい。アイツが表に出ないなら、俺たちが表に出て、アイツの曲を世界中に歌って届ければいい。俺たちも朔も、世界中のファンが幸せになれるようにすればいいんだろ」
「うん、そうだね」
「そのためにも、やっぱりTRIGGERに曲を書きたいと思わせたい。あれだけの実力がある人に、認めてもらいたい」
「ああ。絶対TRIGGERの曲を書くって言わせてやる」
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