・No one…
□百のパンツ
1ページ/1ページ
小鳥遊事務所から千斗の家までは、思ったほど時間はかからなかった。リュックはあまり良い状態とは言えなかったので玄関に置かせてもらい、ギターだけ持って入る。
「朔、今日帰国したんでしょ。シャワー、お先にどうぞ。そこ入って左ね。」
「ありがとう。」
正直、日本に来る前にいたところがあまり良い環境とは言えないところだったので、ありがたく千斗の好意を受け取る。
洗面道具は荷物の中だったため、一度玄関に戻り荷ほどきしていると百瀬が小走りでやってきた。
「朔さん、荷ほどきするの大変だと思うのでこれ、俺のですけどよかったら使ってください。」
百瀬はタオルとシャツ、スウェットを差し出してきた。
タオルは蛍光ピンクだったが、服は白と黒の無難な色合いだった。
間に何か挟まってるなと思いつつありがたく受け取ると、百瀬は屈託のない笑顔を見せた。
「パンツは未使用未開封なんで、安心して使ってください!」
「そうか……ありがとう。」
今までも、こうして男性用の下着を渡されることはあった。
特に身につけるのに不具合もなかったので大抵はそのまま使っていたのだが、まさか千斗の新しい相方にまで男に見られているは思っていなかった。というのも、百瀬が千斗の家に付いてきたのは、てっきり千斗が昔の知り合いとはいえ女と一夜を明かすことに不安を感じたからだと思っていた。
吹き出しそうになるのを堪えながらも、洗面所に鍵を掛ける。
一応百瀬が男だと思い込んでいるならそう思わせておくべきだろうし、なにより素っ裸の時に入ってきて鉢合わせるのも笑えない。
渡された封を開けると、黒のボクサーが出てきた。
タオルと同じ蛍光ピンクでなくてよかったと正直ホッとした。
人様から頂く物に文句を付けてはいけないが、流石に蛍光ピンクは抵抗があった。
幸いサイズは問題なさそうだ。
翌朝、カーテンの隙間からうっすら差し込む光で目が覚める。
長いこと旅をしていたせいで、太陽の光を感じると自然と目が覚める身体になってしまっていた。
千斗も百瀬も、まだぐっすり眠っている。
起こさないようにそっと抜け出すと、洗面所で身支度をする。
昨日、千斗の申し出に甘えて拝借した洗濯乾燥機から衣類を出すと、適当に見繕って着る。
残りはリュックにしまおうと思い畳んでいると、洗面所の扉が開いた。
「あ、朔さんおはようございます!早いですね〜。」
「おはよう、百瀬。昨日は色々気を遣ってくれてありがとう。」
「いえいえ!俺も昔のユキとバンさんの話が聞けて楽しかったです!」
そう言うと、百瀬はその場でためらいなく着ていたスウェットを脱いだ。そしてそのままTシャツも脱ぐとザブザブ顔を洗い出した。
百瀬が履いていたパンツは、昨日もらった物よりずっと派手だった。
ひとまず見なかった振りをして、衣類を抱えて洗面所を出る。
とりあえず、昨日のパンツといい今日のパンツといい、千斗には黙っていよう…。
そんな朔の気持ちを全く知らないモモは、現在小鳥遊寮にて相方のユキから朔が女性だと聞いて青い顔をしていた。
「モモ?」
「どうしようユキ…俺朔に土下座しても許してもらえないかも…。」
「何かしたの?」
「この前朔がユキん家来たとき、シャワー浴びた後着替えいるかなって思って俺が予備でユキん家に置いといた未開封のパンツあげちゃった…。」
「…それ、冗談でしょ?」
「ホントの話だよ〜!うわ〜っどうしよ−!しかも朝ユキが起きる前に俺朔の前で思いっきりパンツ一枚になった…。」
「うわ…なにそれ…想像したら…。」
「ユキ!笑い事じゃないよ!うわぁぁあもうどうしよう!せめて勝負パンツの時ならよかったのに−!俺バンさんに殺される−!」
「ないない。大丈夫だから。とりあえず朔が元気になったら一緒に事情を説明しに行くよ。」
「ダーリン…!優しい!超イケメン!」
「そういえば朔、モモのパンツ履いたのかな。」
「そこ!?そこは触れないでおこう?!ね?!ね?!」