Celestial keeper

□黒い影
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「ありがとうございましたー!」
「またよろしくねー。」

ジョミーは今日もいつも通り配達の仕事を終え、帰路についていた。
日はもうすっかり暮れている。

ジョミーの生まれ育ったサンレイヤ国は、かなり治安の良い国であった。
その為、このように夜でも平気で出歩けるのである。

どこからともなくトォニィがすっとジョミーの隣に現れた。これもいつものことである。
トォニィは小さい頃からの幼馴染で、今では兄弟のような仲だ。
トォニィはジョミーの仕事が終わると必ずジョミーのもとまできてジョミーを家まで送っていくのだった。

「今日も仕事お疲れ様、ジョミー。」
「今日は結構重たいヤツだったから疲れたなー。」

ジョミーはんーっと伸びをした。

「あ、そうだトォニィ、今日はマムがトォニィも夕食食ってけって言ってたけどどうする?」
「ほんと?!よっしゃー行く行く!」

それから二人は他愛もない会話をした。

次の角を曲がればもうすぐジョミーの家というときに、トォニィは突然ジョミーの腕をつかみ立ち止まった。

「トォニィ?」

返事はない。
トォニィは険しい表情であたりを見回している。
しかし、このあたりは町の外れであり明かりはほとんどなく、あるのは闇ばかりである。

どのくらいの時間が流れただろうか、そのときである。
トォニィはぐいとジョミーの腕を引っ張った。

「ジョミー!伏せて!!」

ジョミーはトォニィにされるがまま地面に突っ伏した。その刹那、何かが頭上を掠めたのはわかった。
続いてキン…と金属が地面のレンガにあたる音がした。

「走って!!」

トォニィが、今度はジョミーを抱えるように立たせると、今来た道を走り出した。
ジョミーはいったい何が起きているのか全くわからなかったが、言い知れない恐怖が心を急き立てていた。

トォニィは何度も何度も角を折れながら進んでいった。
だがそのスピードが遅くなることはない。

ジョミーは引っ張られる手に足がついていかなくなり、終には転んでしまった。

「ジョミー!」

トォニィが慌てて振り返る。

ジョミーは、痛む足を押さえ後ろを振り向いた。
そこには、フードを目深にかぶった背の高い男がジョミーのすぐ後ろに立っていた。

殺られる…!

ジョミーは直感的にそう感じ、ギュッと目をつむった。
しかし、予想していたような痛みや苦痛はなく、代わりにどさっという鈍い音がした。
恐る恐る目を開けてみると、目の前に立っていたのはトォニィではなくリオだった。

「リオ…っ!」
「さあ、ジョミー、トォニィもこっちです!早く!!」

リオが手を伸ばしジョミーを立たせた。隣に来たトォニィは、ジョミーをひょいと肩に担ぎ上げるとリオについて走り出した。

リオは、国立図書館の司書である。本の配達でジョミーとリオは深く顔見知りだった。
しかしなぜこんなところにいたのだろうか?

リオは国立図書館の裏まで来ると勝手口の鍵を開け、二人を中へ入れすぐにドアを閉めた。

「ここなら少しは安全です。」

リオが近くに置いてあるランプに火を灯し、中へと案内していった。

「ねえ、ジョミーの怪我を見たいんだけど。」

トォニィの言葉にジョミーははっとした。
恐怖のあまり痛みを忘れて、怪我をしていたことなどすっかりどこかへ飛んでいってしまっていたのだ。
思い出してしまえばズキズキと傷が痛み出す。

「わかっています。ここに掛けてください。」

リオは近くにあったイスを引き寄せた。

「大丈夫、ジョミー?」

トォニィが心配そうな顔をして、腰掛けたジョミーの顔を覗き込んだ。

「大丈夫だよトォニィ………いっ。」

リオが持っていたハンカチで傷をきつく縛った。
破れたズボンのまわりには微かに血が滲んでいる。

「すみません、ジョミー。ここでは応急処置ぐらいしかできません。後でしっかりとした治療ができますから今はこれで我慢してください。」
「あと…で?」

ジョミーが聞き返した。

「ここはまだ安全とは言い切れません。すぐにでもシャングリラへ向かいます。」
「「シャングリラ?!」」

ジョミーとトォニィは同時に声を上げた。

シャングリラはこの国の城のことである。その白く美しい姿から、国民はそれをシャングリラと呼んでいた。

シャングリラは普段ジョミーと全く関わりのない場所である。
一度、幼い頃に両親に連れられ城門まで見に行ったことがあるが、それっきりだ。

「どういうことだか説明してよ。」

トォニィが訝しげに訊いた。

「どう考えてもおかしいでしょ。いきなり城ってアンタ何者?それとあの黒マントの奴等は誰だよ。
どうしてジョミーが襲われなくちゃならないのさ。」

じとっとトォニィがリオを睨め付けた。
ジョミーは少しおろおろとしながらも、答えを求めるようにリオを見つめた。

「詳しいことは私にも分かりません。ただジョミーが狙われているのは確かです。
私の役目はジョミーを安全にシャングリラまで届けること。あそこならこの国のどこよりも安全です。
そしてジョミー、あなたに会って頂きたい人がいるのです。」

そう言ったリオの瞳はどこまでも真剣だった。

「で、でもここからどうやっていんだよ?外にはアイツらがいるし…。」

ジョミーの言葉にリオはふっと目を緩ませた。

「大丈夫です。こちらへ…。」
「ジョミー、立てる?」

トォニィがジョミーへ手を差し伸べた。
ジョミーがその手をとると、そのまま自分の方へ引き寄せ警戒するような目をリオへと向けた。
リオは少々困ったような顔をしたが、何も言わずに歩き出した。



「ここです。」

そう言って辿り着いたのは返却された本を一時的に保管しておく部屋だった。
いつもジョミーが本を置きに来る場所でもある。

リオは部屋にかけてある大きなタペストリーの前に立つと、それを外し裏にある壁を何やら調べている。
その不思議な行動にジョミーとトォニィは顔を合わせながらも成り行きを見守った。

すると、突如ずずっという音とともに壁が奥へと動いた。
どうやら隠し扉らしい。
その向こうには暗い人一人がやっと通れるくらいの細い通路があった。

ジョミーは驚きのあまり言葉を失った。
まさか自分がいつも出入りしている部屋にこんなものがあったなんてとうてい信じられない。

「ここを通って行けばシャングリラへ行くことができます。ただとても狭く足場も悪いので気を付けてください。」

そう言うと、リオはその暗い道へと足を踏み出した。
ジョミーも遅れずについて行こうとしたとき、それをトォニィの手が止めた。

「本当に行くの?アイツ明らかに怪しいよ。」

トォニィが耳元で囁いた。

「平気さ。リオは悪い人じゃない。」

ジョミーも囁き返した。
トォニィは全く納得していない様子だったが、ジョミーがその目をじっと見つめ続けると観念したように視線をそらした。

「敵わないよ、ジョミーには。」

トォニィがふっと息をついた。
ジョミーの顔が綻ぶ。

何があってもジョミーは僕が守る…

二人はどこまで続くとも知れない暗闇へと足を踏み出した。








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