Schwarz Welt

□Schwarz welt 11
1ページ/1ページ

シャンパン騒動も一段落つき、スヴェナは生徒会室へ向かう廊下を一人で歩いていた。
廊下には誰一人いなくて、がらんとしている。
そのとき、ブー、ブーという独特の音が廊下に響いた。
スヴェナはポケットから端末を取り出して耳に近づけた。

「はい、も――。」
「スヴェナーーーーー!!」

キーン…
スヴェナは思いっきり携帯を耳から遠ざけた。
そこから流れてきたのは大音量のスヴェナの名を呼ぶ声だった。

「もしもし?あれ?もしもーし…。」
「そんなに叫ばなくても聞こえてるわよ、ロイド。」

スヴェナはうんざりしたようにため息混じりに答えた。

「さっきから何度も連絡してたんだよ?」
「…してたの?なんか色々と忙しくて全然気づかなかったわ。」
「ほんとだよ。まったく君って人は…。」

ロイドのその言葉を遮る様に携帯の向こうでロイドさん、と嗜める様な声が聞こえた。

「あっとそうだった。ねぇスヴェナ聞いた?クロヴィス殿下が――。」
「あー亡くなったみたいね。」

スヴェナはどうでもよさげに言った。

「ん〜やっぱり君は耳が早いね。それでね、こっちは大変なんだよ。」

ロイドがため息交じりに言った。

「…特派には関係ないでしょう?」
「それがねぇ、大有りなんだよ。クロヴィス殿下を殺した犯人ってことで捕まっちゃったんだよ、スザク君。」
「……。」
「スヴェナさんの力で何とかなりませんか?」

ロイドに代わってセシルが言った。
クロヴィスが既に死んだことは部下からの連絡で耳には入っていた。
厳重な警備がしてあるはずの指令室でたった一人銃弾に倒れていたという。
監視カメラの映像では下級兵が一人で部屋の中に入っていくのが確認されているが、それがスザクだというのはあまりにも唐突過ぎる。
おそらくなんの手がかりも掴めないから、体よく近くにいたイレブン、それも元首相の息子であることから犯人に仕立て上げたのだろう。

「難しいわ…。今指揮を執ってるのはあの純血派のジェレミアだもの。」
「だーかーらー、そこをなんとかして欲しいんだよ。」

再びロイドの声がした。
スヴェナは小さくため息を漏らした。

「…取り合えずこれからそっちに向かうわ。」

そう言うと、スヴェナは電話の向こうでまだロイドが喋っていたが強引に回線を切った。


ロイドは目の前にあるランスロットを見上げ、大きくため息をついた。

「あーあぁ。大事なパーツが無くなっちゃって…。」
「なんとかならないんですか?」

隣に立っていたセシルが書類から目を離し尋ねた。

「そうなんだよ。よそのパイロットは所属がガチガチで動かせないし、頼めたとしても彼並みの数値は出せないだろうし。出せるのはスヴェナくらいだよ。言ったっけ?通常稼働率94%。変わりのパーツっていったって―――。」
「だから、スザク君を釈放するために…!」
「彼、名誉ブリタニア人だろ?バトレー将軍の失脚以降、軍部は純血派が抑えてるからね。彼らからすればブリタニア軍人から咎人を出すわけにはいかない。でも――。」
「犯人がイレブンならジェレミアが言うようにエリア11の名誉ブリタニア人の制度を廃止するきっかけになる。」

ロイドではない女の人の声が会話に割り込んできた。

「スヴェナさん!」
「やあ、スヴェナ。どうだったかい?あの後の緊急追悼式は。」
「うんざりよ。」

スヴェナがうざったそうに答えた。

「あ、でもじゃあ、スザク君は…。」

セシルが先ほどの会話を思い出したように呟いた。

「無罪ってことはないだろうね。…でも、どうなんだい?」

ロイドは視線をスヴェナに向けた。

「思わしくない…というより全然駄目ね。軍法会議のメンバーは全員が純血派な上に名誉ブリタニア人制度の廃止を声高に叫んでる連中ばかり…。どう見ても分が悪すぎるわ。」
「そんな…。」

セシルが口元に手をあて、悲しそうに俯いた。
ロイドは再びランスロットに視線を戻し、ため息とともに肩を竦めた。



スザクの護送が行われる前日、スヴェナとロイドは、ぐっと照明が落とされた廊下を歩いていた。
そして、ある地点までくると、ロイドはそこに用意されていたイスに腰掛けた。
スヴェナは何も言わずロイドの横で壁に背をあずけ、入口の方へ顔を向けていた。
ロイドが前を向くと、鉄の格子の奥からこちらを見つめ返す翡翠の瞳と視線が交わる。

「おめでとう!君に頼まれていた二人、遺体リストにはなかったよ。」

ロイドは少し笑みを浮かべながら言った。

「…そうですか。」

鉄格子の向こうに座るスザクは安堵した様子で顔を綻ばせた。

「でも君の方は不利だなぁ。裁判になっても君の味方はだぁれもいない。」
「しかし!法廷は真実を明らかにする場所です。」

スザクがロイドの言葉に噛み付いた。

「明かされないことのほうが多いと思うけどね、真実なんてものは。」

ロイドは少し呆れた様に言葉を返した。

「それが世界だと言うなら…。自分は、未練はありません。」

そう言ってロイドを見るスザクの目は真っ直ぐだった。


牢から離れ、ロイドとスヴェナはお互い黙ったまま歩き続けていた。
スヴェナは口元に手をやり、しきりに何かを考えているようだった。

「どーしたのぉ?ずーっと黙ったままで。あの子にあっても結局何も声をかけていないだろう?」

二人の静寂を破ったのはロイドからだった。

「んー…ちょっとね。それにしてもあの子面白いわ。法廷は真実を明らかにする場だっていうから死にたくないのかと思ったら未練はないっていうし…ジェレミアなんかにくれてやるのは惜しいわね。」
「そうだね。でももう無理だろう?助け出すのは。」
「…そうでもないかもね?」

スヴェナが妖艶な笑みを浮かべて言った。










  

[
戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ