Schwarz Welt

□Schwarz Welt 3
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スザクは混濁した意識の中で痛みと戦っていた。
あの場でルルーシュを守れたことは良かった。
今までのことがぐちゃぐちゃの順番で目の前を駆け抜けていく。
これが灯馬走ってやつなのかな…?
でもこれでやっと解放される…。
そう思った瞬間記憶にない声が頭に響いた。
誰かが自分の手を握っている。
繋がれた手から温かいものが身体の中へと流れ込み、痛みが嘘のように消えていった。
ずっと触れていたい…。
そう思った矢先その人の手はすぅっと離れて行ってしまった。
待って…っ!
スザクは慌てて手を伸ばした。

「えっ…?」

スザクが目を開けた途端飛び込んできたのは菫色の髪をした女のひとの驚いた顔だった。
しかも意識がはっきりしないせいで状況がうまく飲み込めない。

「え、あ、えぇ?ここ…は?」

答えようとしたのかその人は口を開きかけたが、突然後ろからかけられた声にバッと手を引っ込め声の主の方へ向き直った。

「ざぁんねんでした♪天国に行きそびれたね、枢木一等兵?」

現れたのはとっつきにくい笑みを浮かべる男の人と落ち着いた感じの女の人だった。
それから会話はしばらくその二人が続けた。
手を掴んだあの人は近くのイスに座り手持ちの書類に目を通している。
しばらくしてナイトメアのマニュアルを受け取り、ようやく話が終わりにさしかかった。

「じゃあ、僕たちは行くよ。そのマニュアルで分からない事があればこの人に聞けばわかるから。」

ロイドが座っていた彼女の肩をぽんっと叩いた。
会話に参加していなかった彼女はいきなり話を振られ、眉を顰めた。

「そんなの聞いてないわ。」
「うん。今言ったからね。」
「………」

彼女はゆっくり立ち上がり、ロイドに向かって微笑んだ。
こちらからは彼女がどんな顔をしてるのか見えないが、途端にロイドの顔が引きつった。

「じゃ、じゃあまたあとでね、スザク君。楽しみにしているよ。あはは。」

逃げるようにして、そそくさとロイドはトレーラーを出て行った。
セシルもペコッと頭を下げ、ロイドについて行ってしまう。
嫌な沈黙が流れた。

「あ、あのぉ…。」

ドアを見つめながら動こうとしない彼女に枢木スザクは恐る恐る声をかけた。

「ん?なにかしら?」

そう言って振り向いた彼女は予想に反して柔らかく微笑んでいた。

「いえ、あの、すみません。なんか…。自分のせいでこんな…。」
「あなたが気にすることじゃないわ。悪いのはロイドだもの。」

そう言うと彼女は水汲みからコップへ水を注ぐと、スザクに差し出した。

「気分はどう?目を覚ましたばかりで辛いとは思うけど…ごめんなさいね。」
「あ、いえ…大丈夫です。ありがとうございます。」

軽く頭を下げると彼女は苦笑した。
水を受け取ると3口ほど口へ運び、そして膝の上に置かれているマニュアルに手を伸ばした。


しばらく時間が経ったあと、彼女からタイムリミットが告げられた。
基本操作に必要なことは全て頭に入った。
後の応用は実戦で感じ取るしかない。

「平気かしら?」
「はい、行けます。」
「優秀ね。」

彼女は満足そうに微笑んで小さく頷くと、座っていた椅子から立ち上がった。
身体はまだ微かに痛んだが、活動に支障があるほどではない。
これから広がる未知の世界に、スザクは微かに身を震わせた。





    

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