Schwarz Welt
□Schwarz Welt 2
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特派に着くと、ロイドとセシルが出迎えた。
待機していた救護班が慌てて近づいてくる。
「スヴェナさん、彼の容態は?!」
コックピットからでるなりセシルが尋ねてきた。
「万全とは言い難いですね。お腹を打たれた上、出血もひどいですし…。急所は外れてるんで命に別条はないですけど、今日動かすのはやめておいた方がいいでしょう。」
「あらら。困ったねぇ。せっかくデータとろうと思ってたのに。」
ロイドが担架に横たえられた彼の顔をまじまじと見ながら残念そうに言った。
「今日はもうやれること無さそうですね。」
「んーそうだねぇ…あっ!」
セシルの言葉に頷きかけたロイドの顔が急にぱっと明るくなった。
「あは!いい事思いついちゃったぁ♪セシルくん、君、彼についててあげて?」
「え?あ、はい…って私一人でですか?」
「うん!僕はちょっとスヴェナとお話してから行くから、頼んだよ。」
言い終わるとロイドはスヴェナの背中を押してずんずん歩いて行ってしまった。スヴェナが何か抗議の声を上げているが、そんなのはお構いなしである。
一人取り残されたセシルは近くの衛生兵と顔を見合わせた。
「じゃ、じゃあ行きましょうか。」
セシルとその兵士は、医務班のトレーラーへと歩き出した。
枢木スザクへの応急処置が終わり、包帯を巻き終わったところでスヴェナだけが医務班のトレーラーに姿を現した。
「セシルさん、彼の様子はどうですか?」
「安定していますよ。意識さえ戻れば動いても大丈夫だろうって。でもできればこのまま寝かせてあげたいですよね。」
スヴェナは何も答えなかった。
セシルの言葉は目覚めれば出撃を意味し、スヴェナはまさにそれをしに来たからだ。
スヴェナは枢木スザクが寝ているベットサイドの椅子に腰を下ろし、彼の顔にかかる前髪を優しく払った。
安定しているという割には、その表情は苦しげに歪んでいる。
「セシルさん、ロイドを呼んできてもらえませんか?ランスロットのところに居ると思うので…。」
「え、じゃあ…。」
「文句はロイドの方に…。」
スヴェナが苦笑すると、セシルも「分かりました。」と言って苦笑した。
セシルが出て行ったあと、スヴェナは枢木スザクに向き直ると彼の手に自分の手を添えた。
「これは貸しよ?枢木スザク。」
そう言うと、スヴェナはゆっくりと瞳を閉じ、空いているもう片方の手で傷口に触れた。
しばらくすると添えていた右手がピクリと動いた。
枢木スザクの顔を見ると、目を覚ましそうな雰囲気だった。
「もう大丈夫ね。」
そう言うとスヴェナは傷口から手を離し、握っていた手も離そうとした。
その瞬間。
「待っ…!」
急に覚醒した彼はスヴェナの手を逆に掴んだ。
スヴェナが突然のことに茫然としていると、彼も状況を理解できていないようで頭の周りに疑問符が大量に浮かんでいた。
「え、あ、えぇ?ここ…は?」
「ざぁんねんでした♪天国に行きそびれたね、枢木一等兵?」
突然後ろから声がし、スヴェナは慌てて繋がれた手を振り払った。
振り返るとニヤニヤ笑うロイドがこちらに向かってくる。
セシルも一緒だ。
「あの…ここは?」
いきなり顔の前に現れた男に戸惑いつつも、枢木スザクが尋ねた。
「ん?あぁ、まだ新宿ゲットー。」
ロイドが気だるげに答えた。
「クロヴィス殿下の近くだから、一番安全なところだけど…。」
少し不安げに眉を寄せた枢木スザクを見てセシルが言葉を足した。
そしてポケットから壊れた時計を取りだすと彼の手に乗せた。
「スザク君、これが君を守ったのよ。」
「防護スーツ内での兆弾を防いだだけなんだけどね。」
ロイドが関心なさそうに言う。
「大切なもの?」
「あ、はい。」
セシルに尋ねられ少しどぎまぎしながら枢木スザクは答えた。
「イレブンには物に神様が宿るって信仰があるそうだね、こういうの…。」
「あの、ルルっ!…いえ、状況はどうなりました?」
変な方向へ行きそうだったロイドの言葉を遮って枢木スザクが尋ねた。
「毒ガスは拡散したらしいよ。イレブンが大量に被害にあったって。」
「犯人はまだ見つかっていないみたい。」
「そうですか、まだ…」
ロイドとセシルの言葉を聞いて、枢木スザクはなんともいいがたい表情で手元の壊れた時計に視線を落とした。
時計を握る手に力がこもる。
「枢木一等兵、君、ナイトメアフレームの騎乗経験は?」
突拍子もないロイドの発言に枢木スザクは俯いていた顔をがばっと持ち上げた。
「まさか!イレブン出身者は騎士にはなれません。」
「なれるとしたら?」
困惑した枢木スザクの表情を見て、ロイドの顔ににたぁっと笑みが広がった。
「おめでとう!世界で唯一つのナイトメアが君を待っている。これから変わるよ?君も、君の世界も。」
「望もうと望むまいとね。」
セシルがどこか切なげに言った。
そして脇に抱えていた書類の束を枢木スザクの前に差し出した。
「はい、これがマニュアルよ。」
「あ、ありがとうございます。」
枢木スザクは丁寧に頭を下げた。
「15分であらかた頭に入れておいてね。」
「え?もしかして、これから乗るんですか?」
「ん〜♪察しがいいねぇ。そうだよ。データ取るから新宿ゲットーに行ってもらうよ。」
「は、はぁ…」
未だにロイドの調子になれない枢木スザクは戸惑い気味に返事を返すと、手渡されたばかりのマニュアルを見つめている。
「じゃあ、僕たちは行くよ。そのマニュアルで分からない事があればこの人に聞けばわかるから。」
ロイドがスヴェナの肩をぽんっと叩いた。
会話に参加していなかったスヴェナはいきなり話を振られ、眉を顰めた。
「そんなの聞いてないわ。」
「うん。今言ったからね。」
「………」
スヴェナはゆっくり立ち上がり、ロイドに向かって微笑んだ。
絶対零度の笑みで。
ロイドの顔が引きつった。
「じゃ、じゃあまたあとでね、スザク君。楽しみにしているよ。あはは。」
逃げるようにして、そそくさとロイドはトレーラーを出て行った。
セシルもペコッと頭を下げ、ロイドについて行ってしまう。
変な沈黙が二人の間に流れた。
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