◇いろざし

□02.確信
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今度こそ帰ろうと足を踏み出そうとした。
…ん?なんだろ?
雨音に混じって微かに何かの音が聞こえる。
も、もしかして…。
私は見据えていた激坂の下を目を細めて見つめる。
なんてことだ。
天は私を見放してはいなかったみたいだ。

来るっ!向こうから3台、ものすごいスピードで!!

そして今度はしっかりと捉えた。
あの、緑色の彼を。

私と自転車の距離はどんどん縮まっていく。
不思議な緊張から思わず生唾を飲み込んだ。
確かめろ、見定めろ。
私は目を大きく見開きその瞬間を待った。
そしてーー

「えっ…」

有り得ないって思った。
思わず、声が出てしまうほどだった。
目の前を横切ったとき、時の流れがゆっくりになった気がした。
加えて、全てが遮断された。
耳に入る全ての音、肌で感じる風、全てを取り巻く景色でさえ真っ白になって…
私の目に映っていたのはただ1人。
自転車をこれでもかというくらい左右に大きく揺らして自転車を漕ぐ人。
独特な乗り方だな〜とも思ったがそれ以上に凄く、すっごく

綺麗だった。

あぁ、昨日見た光はやっぱりあの人だったんだと思えるくらいキラキラしていた。
目の前で確かに見た横顔。それを思い出すように瞼を閉じる。
不規則に早まる私の心臓。
私の中で何かがくすぶる。
初めてだ。
初めて、私のモノクロの世界に映えた緑色。
それは名前も知らない、同じ学校の先輩の髪の色。
あの背中を見た時に感じた熱くて、眩しくて、心がどうしょうもないくらいに揺さぶられて…

いつの間にか、足元には傘が落ちていた。
容赦なく私に降り続ける雨。
冷たい感覚のなか頬に暖かい、雨とは違うものが流れていた。

私…なんで泣いてるんだろ。

遠の昔に見えなくなったその背中の行方をただ呆然と見つめながら、ポロポロと流れ続ける涙を止めることが出来ないでいた。

悲しくない。

辛くもない。

なんだか、幸せな…そんな気分だったのだ。
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