ようこそ、不死鳥さん

□行こう、マルコ
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それは、湿気に満ちた日本特有の真夏日の事




















「大当たり〜!3等、"水族館ペアチケット"〜!」



「……………は?」




















唐突に舞い降りた幸運の使い道は、一体どうやって決められるのだろうかという疑問が浮かび上がった出来事だった






















「ふーん…で、私はサークルだし、笑美は部活で杜希は既に友達との勉強会やら遊びの約束で予定びっしりで困ってるって訳」




















買い物に出た先で貰った福引券をティッシュぐらい貰えればという軽い気持ちで使ってみればまさかの水族館のチケットになるとは…驚きだわ


しかも水族館に行けそうなのはどうやら私だけらしい




















「そうなんだよ…。期日は来週までらしい」



「割とケチだよね、あの商店街」



「景気良くねぇんじゃねぇの?つーかこれマジでどうすっかな」




















ソファに寝転ぶ美依からチケットを返してもらい、詳細を読む


が、別段このチケットの行方を良くする内容が書かれている訳でもないので、無駄と言えば無駄な行為だ


そんな私をキョトンとした顔で見上げた美依に同じく首を傾げてみれば、美依はさも当然の様に告げた




















「え、マルコ兄さんを誘うっていう選択肢はないの?」



「……あー…」



「夏艶姉ちゃんってたまに素で酷いよね」




















美依に言われて初めてその選択肢がある事に気付いた私は美依のその言葉にぐうの音も出ない


別にマルコの存在を忘れていたとかそういう訳じゃない


ただ勝手に"マルコも忙しい"と思い込んでいただけで、マルコと行く事に対してそんなに抵抗とか羞恥心とかは無い










ただ、あの祭りの日からどうにもマルコの様子がおかしい


祭りから帰る時もあまり視線を合わせなくなったし、家では同じ部屋には居るが距離を取った場所に座る様になった


だけど視線は変わらず感じ、寧ろ前より見られていると思える程だ


それも、男が女に抱く熱情の様なものを含ませた視線を





言っておくが、私は恋愛に関しては未経験だが男の欲情だとか女の恋する目や雰囲気は人並みには分かる


寧ろ4姉妹の中では私が1番鋭いと言えるかもしれない程だ


美依は他人にはかなり鋭いが自分に向けられるものには全く気付かない


笑美は純粋すぎて欲のそれには他人にも自分にも疎く、言われて自覚すると拒絶反応という名の赤面半泣き状態に陥る


杜希は最早論外





しかも私にはかなり酷い記憶があり、それも相まって他人の視線には鋭い


勿論言われて自覚する事もなくはないが、それでも他人に"鈍い"と言われた事はない










そんな私が最近マルコから感じる視線は明らかに"男"だった


今まで何度か経験した事のある視線だが、他と違うと言える何かがマルコにはあった





マルコだって男だ


それも海の上で生死を掛けた人生を生きてきた海賊


そんな奴が女だけのこの家で禁欲状態に居ろってのも酷だとは思う


それでもマルコは紳士で、美依達に手を出そうなんて気配は微塵も感じない


慈愛に満ちたその笑顔は恐らくマルコが家族に向けていたであろう笑顔だったから





そんなマルコと2人で水族館…


前にも言ったが私はマルコとデートする事には抵抗なんて一切ない


だがマルコに断られたらと思うと少し凹むだろうと予想出来る


その結果に、私は柄にもなく怯えているのかもしれない





マルコが元の世界に帰れると予想されている日まで、あと2週間を切った


それまで何のわだかまりもなく過ごしたいと思っているのは、私の利己的な意思に過ぎない


こんな状態で、一体どうやってマルコと2人で出掛けろと……




















「夏艶姉ちゃん、何かまた難しい事考えてる?」



「!」



「良いんだよ、そんなに難しく守りに入んなくてもさ〜。夏艶姉ちゃんらしくないよ?」



「…誘えば、行くと思うか?」



「"必死な顔で即答"に500円」



「賭けるなアホ。……当たったらコンビニのプレミアムエクレアで我慢しろ」



「今日のデザートはエクレアだ〜♪」



「既に当てた気で居るのが腹立つ…」



















−賭けて、賭けられて−










(マルコー、水族館のペアチケットあんだけど行くか?)



(ッ!行くよい!)



(………)










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