ようこそ、不死鳥さん

□おやすみ、マルコ
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「ハァー…」




















今日1日を長く感じて零れた溜息の様なものは光が殆どない夜空に消える


割と都会なこの地域じゃ1等星しか見えねぇし、この間新月になったばかりだから月も三日月より大分細い





こんな黒い空に憂う日が来ようとは…










庭に出れば湯上りには心地いい夜風が吹いてくる


夏に入ったと言っても、まだ朝夕は冷える


火照りが冷めたら中に入る事にして庭の椅子に腰を下ろす





頬を撫でる風は冷たいのに、どこか夏の熱を感じさせられる


目を閉じて肌で感じていると、誰かが庭に続く窓を開ける音がした


見れば烏の行水並みの速さで風呂から上がったマルコだった


今日は髪をちゃんと拭いていたから水気はなく、湯船にも浸かってねぇらしいからそこまで火照っていない





片手には昨日飲めなかった酒があった


今日はここで晩酌か




















「また飲むのか?酔い潰れんなよ」



「もうヘマはしねぇよい」



「ならいいけど…」




















冷え切った水を口に含めば口の中の温度は吸収され、喉を通れば更に熱が増す


マルコもビンに直接口を付けて飲み始める





2人の間には、昼間とは違った空気が流れていた




















「…今日はありがとうねい」



「ん?何が?」



「色々と…ナツヤ達には助けられてばかりだよい」




















夜空を見上げながらそんな事を言うマルコの横顔は穏やかだった










帰る方法が見つかったからと言ってまだ油断は出来ねぇ


もっと細かい条件なのかもしれねぇからな


明日また調べるとするか




















「トキが明日からまた学校なんだってねい。さっきぼやいてたよい」



「杜希は勉強が本当に嫌いだからな」



「ウチの末っ子にそっくりだよい」



「末っ子?」




















マルコの口から出た単語に反応すれば、マルコは口元を手で押さえて黙った


どうやら口が滑って出た言葉らしい





なら、別にいいか




















「ふーん…。ま、私としちゃもうちょっと頑張って欲しいけどな、勉強」



「……………」



「……今のは聞かなかった事にしてやってんだから、お前も乗れよソコ」



「…すまねぇよい」




















苦し気な表情でそんな事を言われれば何も言えない


私はマルコの手からビンを奪い、代わりにさっきまで飲んでた水を無理矢理口に突っ込む





















「ぶっ!!?」



「もう酒はやめとけ。昨日の二の舞になるのがオチだろ」



「………ッ」



「…私は、私達は、マルコが何者だろうと離れたりしねぇよ」



「!!」



「……言いたくなったら言え。言いたくねぇなら言わなくていい。
選ぶのはお前だ、好きにしろ」




















振り向かねぇまま家の中に戻ろうとした私は、束の間の浮遊感に包まれた





その後に感じた縋る様な圧迫感


腹に回っていた腕は、僅かに震えていた




















−夜に縋る−










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