短編
□一周年記念SS
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“――あの話から、一年”
「……っ」
微睡みから目を覚ます。
寝転び慣れたベッドがどうにも居心地悪く感じた。起き上がって確認するけど、特に異常なんかは見られない。
……春眠暁を覚えず、なんていうのは夜には適応されないのかな、とか考えるけど、寝れないのは仕方がない。
ベッドの中で一つ息を吐いて、上体を起こした。
「……水でも飲もうかな」
一人暮らしの部屋に響くこの言葉は誰に届けるわけでもなく、ただ自分の足を動かした。
キッチンでグラスに水を注ぎ、少し口に含む。
冷たい感触に、いよいよ目を覚ましそうになったけれど、この際どうでもいい。
――わかってる、眠れない理由なんて。
「……わかってる……」
明後日だ。
明後日、イグニスはしばらくこのインソムニアを離れる。
ノクト王子とルナフレーナ様の結婚前の気ままな旅。というか、オルティシエに行くためのいわゆるお供だ。
元からイグニスは外の世界をこの目で見られることに喜んでいたし、グラディオさんもプロンプトくんもはしゃいでた。
ノクトくんも、隠してはいたけれど何よりルナフレーナ様に会えることが嬉しそうに思ってたみたいだし。
そう、これはいいこと。
いいことだけど、ちょっと寂しい、それだけ。
「……っ」
――明日、イグニスが家に来る。
彼は今回の旅が決まった後、その足でうちまで来て言ってくれた。
明日、いってらっしゃい、と笑顔で言えるかどうかはわからないけれど。
「……ダメだなあ、私」
いっそお酒に手を伸ばしてしまおうか、と思った手を叩く。
……そういえば、昔一度だけイグニスが長期の調査に出たことがあった。
何年前だっけ……そんなに昔じゃなかった気がするけど、一年か二年か。
あのときは3日で終わったけれど、今回はどれくらいなんだろう。
「……危険がなければいいんだけどね」
そう呟いて、グラスの水を飲みほした。
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