短編
□君に導かれる朝
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「あ、」
アクアは目が覚めた。
目覚まし時計を見ると時刻は6時を指している。本来あと30分後に鳴る設定をしていたのだが、どうやらフライングしたようだ。
でも、とアクアは思案する。
今日はいつもとは違う。
自分が目覚まし時計より早く起きたからではない、時計とは違う何かに起こされたのだ。
彼女はもう察しがついている。ベッドから身を起こし、少し早歩きで台所へ向かう。
「ああ、起こしてしまったか。すまない」
「いぐにす、」
最愛の恋人、イグニスがエプロン姿で台所に立っている。
部屋の中には見事にフレンチトーストの匂いが広がっていた。
部屋に入ってきたアクアに気付くと、目の前のフライパンから顔を上げる。
「美味しそうな匂いでつい起きちゃった〜」
「そうか、すまない」
「ううん、いいよ〜。たまには早起きするのも悪くないしね」
ふふふ、とアクアは穏やかに笑う。
寝ぼけているせいなのか、いつもふわふわしている雰囲気が二倍増しになっている気がする、とイグニスは思った。
「まだ出来上がりではないが……」
はた、と思いつき、そう言いながらイグニスはフレンチトーストの端を切ってアクアに差し出す。味見してみろ、ということだろう。
アクアは遠慮せずそれにかじりついた。
「どうだ?」
「おいひいー」
「そうか」
それはよかった、とイグニスは少しだけ微笑む。
ごくたまに、こうして時間を見つけては家に来てくれるイグニスにアクアは胸の高鳴りが止まらない。
忙しいはずなのに、仕事があるはずなのに、そうは思えども、やはり嬉しいものは嬉しいのだ。
アクアはイグニスの服の裾をちょいとつまんだ。
「?なんだ」
「イグニスー」
「ああ」
「おはよう」
「ふっ……ああ、おはよう」
なんと幸せな朝か、とイグニスは目の前の恋人を見て思う。
なんて素敵な朝なのか、とアクアは目の前の恋人に触れて感じる。
ただただ、時間が過ぎていくのが惜しい。二人は互いにそう思った。
END
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