いつか、私は。

□Chapter 9-21
1ページ/3ページ












ノクティス・ルシス・チェラムは夢のようなものを見ていた。





「ノクティス様」






声に呼ばれて夢の中で目を開けると、辺り一面に広がるジールの花畑。



そこには、幼い姿のルナフレーナの姿があった。







「――ルーナ」







発するのは、幼い自分。


お互いに昔出会った頃の――あの頃と変わらない姿をしていた。






「ここに、いらしたんですね」



「うん、ルーナも」








互いに微笑みあう――が、ルナフレーナはノクトから視線を逸らした。



それから、悲し気な声で語り掛ける。








「もう一度、お会いできるなんて、思ってもみませんでした」


「ええ?どうして……」




くるり、とノクトへと向き直る。



後悔の念はない。ないが、寂しさが顔から溢れていた。













「……私は、もう神凪の使命を終えたから」












「……終わっても、一緒にいられるでしょ?」










無邪気に、ノクトがルナフレーナへと返す。



そんなノクトに、少し身長の高いルナフレーナは屈んで視線を合わせる。









「神々は、ノクティス様の力を認めました。そして指輪も、あなたの手に戻ります」










ただただ真実を話すルナフレーナに、ノクトは困惑の表情を浮かべる。



それを見かねたルナフレーナは、わざと声を明るくしながらまた話し始めた。








「皆さんのところへ戻られたら、テネブラエをお訪ねください。たくさんの花が、ノクティス様をお出迎えしますから」












「……ルーナは?」











ノクトの問いかけにも、ルナフレーナは無言で首を振った。




一陣の風が吹く。



その風はノクトの髪を、ルナフレーナの髪を、ジールの花畑を揺らした。




しかしそれだけではない。




風に引っ張られるように、ルナフレーナのスカートが伸びていく。








「――あなたが会いにきてくださったこと。私は、それだけで充分です」










思わず手で顔を覆うノクトが再びルナフレーナの方へ向くと、そこには大人になったルナフレーナがいた。




儚げで、今にも消えてしまいそうなルナフレーナ。




ノクトはその言葉、その姿に涙を溜めた。






「……なんで。僕は――」



























“死んでも、ルーナを助けたかったのに”



























泣き声で言うノクトを見て、ルナフレーナは足元のジールの花を一輪摘む。



それに伴うかのように、導かれるように、足元のジールの花が全て上へと昇ってゆく。


それだけではない。ジールの花弁は青い煙となって、ルナフレーナを包み込み始めた。







「もし、心細くなってしまったら――私を、思い出してください」





ルナフレーナはそれでも、口調を変えない。



ただ燦然と輝く光の中で、ノクトへと語り続けていく。





「これからは、少しだけ離れた場所から――あなたのことを、お守りします」











ルナフレーナが手を離す。



一輪のジールの花が風に乗って、ルナフレーナの元から飛び立っていく。










いつの間にか花畑は見る影もなく、あったはずの花々はルナフレーナを飲み込むように纏わりついていた。



いや――それは、海だった。深い、深い、海の底。




ルナフレーナの沈みゆく身体に、抵抗の念は見えない。ただじっと、ジールの花の中へ滑り落ちてゆく。







そして――。































「さようなら、ノクティス様――」































「っ――!!」







その言葉に、ノクトはルナフレーナへと手を伸ばした。





いつの間にかルナフレーナと同じく大人の姿になったノクトは、海の中をもがくようにルナフレーナへ手を伸ばし続けた。






だが、それを見てルナフレーナは――何も言わなかった。













何も言わずに、ただ帰って行くかのように、花びらの海へと沈んでいくのだ。












彼女の代わりとでも言うように残ったあの一輪のジールの花は、ノクトの元へと揺蕩いながら辿り着く。




















そして花は――光耀の指輪へと姿を変えた。

















.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ