いつか、私は。
□Chapter 9-21
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ノクティス・ルシス・チェラムは夢のようなものを見ていた。
「ノクティス様」
声に呼ばれて夢の中で目を開けると、辺り一面に広がるジールの花畑。
そこには、幼い姿のルナフレーナの姿があった。
「――ルーナ」
発するのは、幼い自分。
お互いに昔出会った頃の――あの頃と変わらない姿をしていた。
「ここに、いらしたんですね」
「うん、ルーナも」
互いに微笑みあう――が、ルナフレーナはノクトから視線を逸らした。
それから、悲し気な声で語り掛ける。
「もう一度、お会いできるなんて、思ってもみませんでした」
「ええ?どうして……」
くるり、とノクトへと向き直る。
後悔の念はない。ないが、寂しさが顔から溢れていた。
「……私は、もう神凪の使命を終えたから」
「……終わっても、一緒にいられるでしょ?」
無邪気に、ノクトがルナフレーナへと返す。
そんなノクトに、少し身長の高いルナフレーナは屈んで視線を合わせる。
「神々は、ノクティス様の力を認めました。そして指輪も、あなたの手に戻ります」
ただただ真実を話すルナフレーナに、ノクトは困惑の表情を浮かべる。
それを見かねたルナフレーナは、わざと声を明るくしながらまた話し始めた。
「皆さんのところへ戻られたら、テネブラエをお訪ねください。たくさんの花が、ノクティス様をお出迎えしますから」
「……ルーナは?」
ノクトの問いかけにも、ルナフレーナは無言で首を振った。
一陣の風が吹く。
その風はノクトの髪を、ルナフレーナの髪を、ジールの花畑を揺らした。
しかしそれだけではない。
風に引っ張られるように、ルナフレーナのスカートが伸びていく。
「――あなたが会いにきてくださったこと。私は、それだけで充分です」
思わず手で顔を覆うノクトが再びルナフレーナの方へ向くと、そこには大人になったルナフレーナがいた。
儚げで、今にも消えてしまいそうなルナフレーナ。
ノクトはその言葉、その姿に涙を溜めた。
「……なんで。僕は――」
“死んでも、ルーナを助けたかったのに”
泣き声で言うノクトを見て、ルナフレーナは足元のジールの花を一輪摘む。
それに伴うかのように、導かれるように、足元のジールの花が全て上へと昇ってゆく。
それだけではない。ジールの花弁は青い煙となって、ルナフレーナを包み込み始めた。
「もし、心細くなってしまったら――私を、思い出してください」
ルナフレーナはそれでも、口調を変えない。
ただ燦然と輝く光の中で、ノクトへと語り続けていく。
「これからは、少しだけ離れた場所から――あなたのことを、お守りします」
ルナフレーナが手を離す。
一輪のジールの花が風に乗って、ルナフレーナの元から飛び立っていく。
いつの間にか花畑は見る影もなく、あったはずの花々はルナフレーナを飲み込むように纏わりついていた。
いや――それは、海だった。深い、深い、海の底。
ルナフレーナの沈みゆく身体に、抵抗の念は見えない。ただじっと、ジールの花の中へ滑り落ちてゆく。
そして――。
「さようなら、ノクティス様――」
「っ――!!」
その言葉に、ノクトはルナフレーナへと手を伸ばした。
いつの間にかルナフレーナと同じく大人の姿になったノクトは、海の中をもがくようにルナフレーナへ手を伸ばし続けた。
だが、それを見てルナフレーナは――何も言わなかった。
何も言わずに、ただ帰って行くかのように、花びらの海へと沈んでいくのだ。
彼女の代わりとでも言うように残ったあの一輪のジールの花は、ノクトの元へと揺蕩いながら辿り着く。
そして花は――光耀の指輪へと姿を変えた。
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