いつか、私は。

□Chapter 9-20
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その後、部屋にはイグニスと私の二人だけとなった。


というのも、オルティシエを使用した礼の一つもできないようではいけない、ということでグラディオさんとプロンプトくんが復興の手伝いに行ったからだ。



私も行こうとしたけれど、イグニスとノクトくんの様子を見るためにお留守番。






今はベッドの上で上体だけ起こすイグニスの隣で、私は横の椅子に座りながら彼の様子を見ていた。






……ああ、いけない。何かしなきゃ。







「……あ、そうだ…………歩くための杖か何か用意しないとね。……カメリア首相に聞いてみよう」






そうだ、そうよ。できることを、やらなくちゃ。





「アクア……」





「うんと……あとは傷跡が目立たないようにサングラスを」






「アクア」





「……ん?」





話し続ける私に、イグニスは顔をこちらに向けて名を呼ぶ。


その顔は――どこか優しかった。





「声が、震えている」





「……そんな、こと」




「あるから言っているんだ。……おいで」




「っ…………」











イグニスが小さく腕を広げる。私は魔法にかけられたように、その腕にゆっくりと触れた。


瞬間イグニスはピクリと動き、私の触れたその指を頼りに手さぐりで私の腰まで腕を回す。



私はされるがまま、イグニスの腕の中にゆっくりと沈み込んでいった。






温かい。でも、どうして心はこんなにも澱んでいるんだろう。








「俺のために、ありがとう」



「だめ、だよ……イグニス、こういうときに、私を、甘やかしちゃ……」






私の言葉に聞こえないふりをして、そしてぎこちない手つきで私の背中をさするイグニス。



目が熱い。それに、水が頬を伝っていく。




私はきっと、不細工な顔しているんだろう。こんな顔は見せられないから……。














「……っ……」













私は、イグニスの肩に顔をうずめた。



彼が見えないっていうのはわかっている。わかってはいるけれど、イグニスの目の前で、不細工な泣き顔はしたくなかった。






「……俺のためを思って泣いてくれるお前が、たまらなく愛しい」





「……?」






イグニスが何か言った気がするけれど、小さすぎて聞こえなかった。

























ぽんぽんと背を叩かれて数分、イグニスは私を離す。


でも、その手は私の手を掴んだままだ。






「……?」


「いや――アクアの手だ、と思ってな」


「うん……私は、ここにいるよ」




零れ落ちる涙を片手で拭いながら、イグニスに自分の存在を示す。


するとイグニスは、少し躊躇うかのような表情を浮かべていた。





どうしたの、と言う前に、イグニスは口を開く。





「言ってもいいのかわからないが――」


「ん……?」



彼らしくない前置きで、私に話す。






「これからは、その……この手を、ずっと握っていてもいいか」





「ずっと……?」






イグニスは恥ずかしそうな、そして申し訳なさそうな表情のままだ。


私の聞き返しに、小さく頷く。







「目でアクアを捉えることができない代わりに、熱や感覚でと……ああ、もちろん戦闘中や有事の際は離す。だから――」






「――うん、いいよ。こんな手で良かったら、どうぞ……よろしくお願いします」





「……ありがとう」









手を取って、確認して、示し合う。






私たちには、それで十分だった。







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