いつか、私は。
□Chapter 9-7
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――数日後。
「!……ぁ……う……?」
酷い胸騒ぎで目を覚ました。外から漏れてくる日は、まだ早朝特有の冷たさを纏っている。
……5時か。結構早いなあ。
驚くほど冷静に時間を確認して、目を閉じようと思ったけれど寝付けない。
たっぷり寝た方がいい日であるのに、身体がそうしてくれないのだ。
何と言っても、今日はルナフレーナ様の演説の日。そして並びに水神様の誓約の日。
作戦決行日――。
「……ふぅ」
眠れないものは仕方ない、とベッドから出た。隣のイグニスを起こさないよう、そっと。
フローリングの冷たさに少しだけ身震いして歩く。
「……わあ」
気晴らしにカーテンを開けて窓の外の景色を見ると、見事に晴れ渡っていた。
部屋のベランダに添えている植物の葉は、太陽の光を反射して輝いている。
雨でなくてよかった、ルナフレーナ様の演説。
「……」
演説のことを思う端で、今日の作戦のこともよぎる。
失敗はできない。
いや――本来ならば失敗なんて考えてはいけない。
今回に、星の未来がかかっている。水神様の誓約、ノクト王子の契約、そして帝国兵による攻撃の回避。
やることは山積みだ。
本当に、私にできるのか――。
「ん゛…………アクア……?」
「!……あ、イグニス。ごめん、起こしちゃった……?」
低い声に振り返ると、イグニスが上体を起こしていた。
「いや、自然に起きた。……どうした?」
「え、な、何でもないよ……?」
いつもと違って無造作になっている髪、少し着崩れた寝間着、そして寝起き特有の低い声。
物凄い色気に倒れそうになりながらも、私はそれを誤魔化すように話す。
「ま、まだ5時だよ。寝ないと……」
「その言葉、そのまま返してもいいか」
「う……」
それもそうだよねえ……。
少し俯くと、イグニスは両腕で私の身体を優しく包み込んだ。
「心配なんだろう、今日が」
「……うん。少しの油断もできないっていうのが、心臓に悪くて」
「……」
抱きしめたままポンポンと頭を撫でるイグニス。気持ちよさに少し目を細めると、今度は私と視線を交えた。
「……安心しろ、なんて言葉で一蹴できるような不安ではないんだろう」
「……え?」
「だが忘れないでほしいのは、仲間だ」
イグニスの目は真っすぐに私を捕らえていた。しかしいつもと違って、その目が髪に若干だけかかっているその姿にドキリと胸が脈打つ。
「今まで通り、グラディオもプロンプトも、そして俺もいる。油断はしない方がいいが、失敗を恐れてはいけない」
「イグニス……」
「フォローならできるからな。いざという時は、頼ってくれ。……もちろん俺をだが」
「……ぷ、ふふ……」
最後に付け加えられた言葉に少し吹き出してしまう。
イグニスはちょっと恥ずかしいのか頬を少しだけ朱に染めていた。
「ありがとう、イグニス。元気出たよ」
「ならいいんだが……」
「ふふ……。あ、せっかく早起きしちゃったし、ちょっと前まで朝の散歩などどうでしょう?」
「ふ……そうだな。では支度をしよう」
今日は、作戦決行日。
私は、私のやらないといけないことをしよう。失敗なんて、打ち壊していかなきゃ。
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