いつか、私は。
□Chapter 3-2
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「ん……?」
テントの隙間から小さな、しかし眩い光が差し込んでくる。
その眩しさに俺は目を覚ました。
「……アクア?」
隣を見ると、アクアがいない。
確か昨晩、抱きしめて眠ったはずだ。可愛らしい寝息を聞きながら俺も眠っていたが。
一応反対側を見ても、ノクトとプロンプト、そしてグラディオが大きないびきを立てながら(特にグラディオ)眠っているだけだった。
時刻は4時。日が昇った直後くらいだろうか。まだ朝早い。
ひとまずアクアを探さなければ、と思いテントを出た時だ。
「♪〜、♪〜」
どこからか、歌声が聞こえる。
とてつもなくうまい、というわけではないが、優しく心が浄化されるような、そんな歌だった。
そして、聞き覚えもある。
「アクア……?」
テントを出ると、標の端に座っている人影を発見する。
それがアクアであることを認識するのに、さほど時間はかからなかった。
「あっ、イグニス。おはようー」
歌が止み、アクアがくるりと振り向く。微笑む彼女に俺も挨拶を返し、アクアの隣に座る。
ふとアクアの足元を見ると、裸足だった。
そしてアクアの向こう隣りには、いつものブーツも立ててある。
何故なのか疑問に思って凝視していると、アクアが俺の視線に気づいて恥ずかしそうに頬を掻く。
「ずっとブーツ履きっぱなしっていうのも、気が張っちゃって。でも他に履くものがないから……」
「ああ、なるほど」
俺や他の三人のように、アクアはノクトの魔法によって武器が出ているわけではない。彼女はいわゆる『持参』の武器だ。
それも、靴という普段身に着けるものとして。
だからだろう。望まなくとも常に戦闘態勢であることは、少し疲労にもなってしまう。
「……うん、でも、そろそろいいかな。朝食作り手伝うよ」
いそいそとブーツを履こうとするアクアの手を掴む。アクアが驚いて俺の顔を見るが、俺は視線を返す。
「もう少しだけ、いいか?」
「え……?」
「もう少しだけ、お前の歌を聴きたい」
ブーツを履けば、穏やかなこの時間がなくなってしまう気がした。だから、ついそう望んでしまう。
俺の言葉にアクアが目を見開いた。
それに、アクアの歌を聴くのもこの先何回あるかわからないからな。
その色々な思いが伝わったのか、アクアは恥ずかしそうに「下手でも笑わないでね」とだけ言って、息を吸い込んだ。
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