いつか、私は。
□序章
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ピンポーン、と家のチャイムが鳴った。
「はあい」
家の主、アクアは小走りでインターホンに向かう。
彼女はわかっていた。このマンションの一室を訪ねてきた人物が誰なのか、何をしに来たか。
「イグニスだ〜」
「ああ、俺だ。入れてくれないか」
はあい、と明るく返事をして玄関へ向かう。その表情は嬉しそうでもあったが、少し暗くもあった。
彼は、きっと、間違いなく、しばしの別れを告げに来たのだから。
「こんばんは、イグニスっ」
「ああ。もう少し早く着く予定だったのだが、すまないな。渋滞に捕まってしまった」
「いいよいいよー、来てくれて嬉しい」
穏やかに微笑むアクア。しかしイグニスはそんな彼女を見て眉を寄せる。
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