狂犬の娘

□十四章「娘と、近江連合の男2」
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奏は赤ん坊を抱いた母親と共に二階の廊下を走っていた。







「はっ……はっ……」



「大丈夫ですか。もうすぐです」



「え、ええ……ありがとうございます」








いくら二階は掃討しているとはいえ、一階のゾンビがあがってくる可能性もある。



真島と大吾が止めに行っているものの、さきほどの大跳躍をされればひとたまりもない。




それに――。






「……お子さん」


「え……?」


「……お子さんの様子は、どうでしょう」


「あ、は、はい。泣き疲れて眠っちゃったみたいで……」


「そうですか。いえ、それならいいんです」


「本当に、ありがとうございます」




母親はふわりと笑った。奏は頷いて足を進める。









「少し走りすぎましたね。ちょっと速度を――」

















「GUUUUUUUUUUUUUU…………!!」














少し落ち着いて行こうとした矢先だった。



一階のゾンビが、またしてもこちらへと押し寄せている。







「なっ……」




目の前、そして背後からただならぬ気配を感じさせる。




「GUUUUUUu……」

「GIGIGI……」

「GRUUUUUUUUUUU……」












前方に二体、後方には一体のゾンビ。



討伐して進まねば、と奏は思うがはたと気付く。












弾は、二発しかない。





「ど、どうしましょう……!」


「とにかく、私から離れないでください。その子もしっかり抱いて」









努めて冷静に、しかし冷や汗を一筋垂らしながら奏が言う。





敵の頭の数と、残りの弾数が、合わない。






「……慣れてきた時が一番怖いって、教わったはずなんだけどなあ」





ぽつりとつぶやく。そうこうしているうちに、ゾンビもジリジリと距離を詰めていた。





「っ……」


「い、いや……!」







一瞬の呼吸。奏は覚悟を決めたように前方のゾンビに銃口を向けた。







「いいですか、前のを撃ったらすぐにスーパーまで走ってください」


「え……?」


「――言う通りにして。絶対にその子を離さないで」














それだけ言うと、奏は引き金を引いた。







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