狂犬の娘
□十章「娘と、正義の味方2」
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真島と奏が七福通りを離れて、千両通りからヒルズに向かおうとしたときである。
というのも、七福通りにはすでにバリケードが設置されていたからだ。
そして、おそらくここももうすぐだろう。
「急いでください!」
「早く!みんな急いで!」
「隔離します!早くこちらへ!」
人々が自衛隊の指示で逃げている。
背後には、ここにもゾンビ。
「やっとるなあ……!よっしゃ!」
「えっ」
真島は心底嬉しそうな声を出し、ヒョイと奏を抱え上げた。いわゆる姫抱きというやつである。
そのまま真島は全力疾走。人々が逃げる逆――つまりゾンビの方へとものすごい勢いで走って行く。
奏は真島にしがみついた。
「おい、そっちは駄目だ!」
「そこの!止まれ!戻るんだ!」
「なんだあいつは!」
自衛隊の声も無視して、真島は奏と銃を抱えたまま走り続けた。
「くそ!もういい、早く閉じろ!急げ!やつらが来る!」
自衛隊は真島と奏を見限り、建設されていく壁の向こうへと去って行った。
これでもう邪魔するものはいない。真島は奏をそっと地に下ろした。
「……抱っこするなら言ってくれませんと」
「お?おお、すまんすまん、早よ行かな思ったらついやってしもてん」
「いいんですけどね、楽しかったので」
ショットガンとリボルバー銃を互いに構え直す。
ゾンビは新たな獲物だと言わんばかりにこちらへ押し寄せていた。
銃の扱いはだいぶ慣れた、弾もちゃんとある。恐れることは無い。
ただ、慣れた時が一番怖いということを覚えておけばいいだけ。
奏の手は流れるように弾込めを始めていく。
真島はというと、ただじっとゾンビたちを見て不気味に笑うだけだった。
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