狂犬の娘
□七章「娘と、狩る者3」
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神室町のシンボル、ミレニアムタワーの一階。そこはもはや以前の光景を失っていた。
理由はもちろん神室町に現れたゾンビ。一階は上階よりひどく完全に占拠されており、余すことなくゾンビだらけだ。
ふらふらと拙い足取りでエントランスを徘徊し、他に何をするわけでもなく、ただただ呻きながら歩いている。
まさに、不気味としか言いようのない空間である。
そんなゾンビの群れの中に、ガシャリと重苦しい音が響く。
一階に降りてきた真島の銃の装填音だった。背後には奏ももちろん控えている。
銃の音に、ゾンビは一斉にこちらへ振り向いた。
ニヤリ、と真島の笑みがこぼれてくる。その眼は、獲物を狩るような狂気を帯びていた。
奏も奏で、素早く銃に弾を込め始めた。
「ミレニアムタワーも賑やかになったもんやなあ」
「入場料を取れないのが口惜しいですね」
「ヒヒッ、この人数やと懐もあったかなるやろうに」
「……まあ、冗談の言い合いはさておいて。倒し切りましょう。私たちの“家”をめちゃくちゃにされては、堪ったものじゃない」
「お、ええこと言うなあ。さっすが奏ちゃんやわ。ほな……行くでぇ!」
奏の静かな怒りを見て、真島は満足そうに頷いた。
――ここさえ切り抜けて安全な場所に行けば、奏ちゃんももう物騒な銃やら持たんでも済むやろ。
そう信じて。
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