狂犬の娘
□六章「娘と、狩る者2」
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私室を飛び出して目に入った廊下や階段には、台車やテーブルなどでバリケードが設置されていた。
だがあくまで即席のもの、容易に破られてしまったのだろう。ところどころに穴が見える。
吹き抜けから下の階を覗くと、そこにはゾンビがうろうろと徘徊していた。
「おぉ〜結構おるなぁ!ええで!ええで!」
「でも、今は弾の数とゾンビの数が全く合いませんよ」
「ほんまや。ほな、ちょっくら弾丸補給しに行こか。上の階の倉庫にあったはずや」
「行きましょう」
さすがに弾丸などが格納されている倉庫は、奏も触ったことがない。
大人しく真島の後ろを走って行った。
「……やっぱり、完全に入り込まれてますね」
「探す手間が省けたわ!はぐれたらあかんでぇ!」
「はい」
未だ慣れない銃を片手に、真島の援護をする。
やはりゾンビは人間を見れば襲い掛かる習性があるようだ。どれだけ銃で撃ち抜いても恐れずに次々と向かってくる。
真島と奏は少ない弾数でなんとか賄いながらなんとか58階の倉庫へと辿り着いた。
「この部屋のどっかに弾しまってあるはずや。自分でしまわんからわからんなぁ」
「……」
「お?どうした奏ちゃん」
「いえ。……この倉庫、またゾンビが消えたら私が片付けてもいいですか」
目の下をヒクつかせながら奏が静かに言う。
それもそのはず、大きい荷物はそれなりに固まっているものの埃クサい。奏の掃除センサーが反応しているようだ。
見たことのない奏の剣幕に、真島は「お、おぉ……」とだけ言って、倉庫の奥へと進む。
少し進んだ先に、ごついコンテナがいくつか積まれていた。
「あったあった。アレや!」
「あ、これですか。わかりやすいですね」
「まあ、ちゃんと見えた方がええしな。よっしゃ、弾補給してゾンビ狩りに行くか」
コンテナに手をかけ、開けようとしたときである。
「お、おやじですか?」
どこからか声がした。声のした方へ振り向くと、真島組組員が壁の陰に隠れてこちらを覗いている。
「あん?お前、こんなところで何しとるんや?」
「みんなゾンビにやられちまったんで、隠れてたんですよ……。よくぞご無事で」
「っ……そんな」
「当たり前やろ。こんなおもろいこと、そうそうないやんけ。おちおち死んでもおれんわ」
「おやじ……タフですね。姐さんもご無事で良かったです」
「いえ、そちらこそ。生存者がちゃんといて安心しました」
「俺がしっかり守っとるからな。奏ちゃんには怪我すらさせへん」
「相変わらずですね、おやじ……。あ、そういえば、少し前にえらい強気な女が訪ねて来まして。この手紙をおやじに渡してくれって」
渡された手紙を真島は熟読し、そしてニタリと笑った。
奏と組員は少しだけ首を傾げる。
「なんて書いてあるんですか?」
「フフフ……世の中にはぎょうさんオモロイ奴がおるもんやのぉ」
「?」
「神室町のゾンビ倒しとったら、この手紙のネエちゃんがご褒美くれるんやと」
「はぁ……ご褒美ですか」
「まぁ、ええわ。わしは奏ちゃんとお楽しみの最中やねん。お前はそのへんに上手いこと隠れとけや」
「語弊ありません?その言い方」
「は、はい!おやじ、お気をつけて!」
組員は言われるまま、倉庫の奥へと走って行った。残されたのは、真島と奏だけ。
「大丈夫ですかね」
「ま、そうそう見つからんやろ。よっしゃ!ぎょうさん弾持ってゾンビ狩りに行くとするかいな!」
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