狂犬の娘
□一章「娘と極道」
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日本一の歓楽街、東京・神室町。
「眠らない街」という枕詞にふさわしく、この街は夜でも昼のような明るさを保っている。
スナックや風俗店の客引きに、キャバクラやホストのスカウト。眩しいネオンの下、皆が皆夜の活動を始めていた。
そんな神室町を主なシマとして活動しているのが、東城会である。
構成員は3万人を超え、関東の極道組織を牛耳る存在。
その上、六代目会長堂島大吾を筆頭に、腕利きの幹部が勢揃いだ。
その幹部の中でも一際異彩を放ち、とび抜けた強さを持つ者がいる。
「♪〜」
バット片手に鼻歌を歌いながら街を闊歩するこの男。
彼こそが嶋野の狂犬、隻眼の魔王こと真島吾朗である。
好戦的で享楽的。何をしでかすか全くわからない予測不能の男。
常に自分の欲の赴くまま、夜の街を歩いていた。
「…………お、そや」
はた、と真島は足を止める。
そういえば本部に呼ばれていたのだったか。
なんでも神室町ヒルズのオープンセレモニーについてどうのこうの。
正直めんどいなあ、と思いつつも自分がかかわっている商事だ。
真島は一つため息をついて、タクシーを呼び止めた。
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