狂犬の娘

□序章「嶋野の狂犬と少女」
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最初は本当にただの気まぐれだった。










虫の居所さえ違っていれば、そのまま部下に任せてさっさとその場から去っていたかもしれない。









彼の事務所に入り込み、勝手に彷徨っていた少女のことを。




もっとも、その少女はただエレベーターのボタンを押し間違えたことに気付かず迷い込んでしまっただけなのだが。








ただ、少女は少し異常だった。







彼のような、所謂“ヤクザ”を目の前にして、瞳の色をまるっきり変えなかったのである。









怯えでも、驚きでも、反抗でもない。







ただ、現実を受け入れる冷静で素直な目だった。







たくさんの屈強な男に囲まれ、目の前でそのトップに見下ろされているにも関わらず、である。









彼はそんな奇妙な少女の様子を見て口角を上げ、不気味な笑顔で言う。



















「ヒヒッ……おじょーちゃん、名前は何や?」























これが、真島吾朗と奏の出会いである。























このころの真島はまだ知らない。










自分が、この少女によってあれよあれよと変えられていくことを。












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