狂犬の娘
□十章「娘と、正義の味方2」
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それでも少し休息は取ろう、と真島が奏に地べたに座らせていると、ビルから声をかけられた。
東城会の構成員だ。
「真島さん!正面からは入れやせん!あちらから裏に回ってください!」
構成員はそう言って正面とは別方向の道を示した。
だが、そこにもゾンビは大量にいる。
真島はまたもにやけた。
「まだまだおるのお!」
「……吾朗さん、私は引き続き後ろから着いて行きます」
「お、了解や。しっかり守ったるしな!」
「……すいません」
「なーんも気にすることなんかあらへんで!ただ、絶対に離れんとってな?」
優しい真島の声。奏はあまり気にしていないが、彼のこんな声色を向けられるのはおそらく、世界中でただ奏一人だろう。
引き金から指を離している奏は、弱弱しく頷いた。
真島の先行で、裏口までの道を行く。山ほどいるゾンビは、2人の行く手を阻まんと次々に襲い掛かった。
自分と、娘。ある意味同時に2人守り続ける真島も、“攻撃は最大の防御”と言わんばかりに銃の火を噴かせる。
「ヒーッヒッヒッヒッヒ!!!!」
狂気的な笑い声。同時に散って行くゾンビの身体。
それら全てを見て感じた奏は、銃を放して改めて、自分のいる場所と状況を理解した。
銃を放さなければ、見えなかったこの景色を。
ああ、ここは本当に現実なのか。
自分は着いて行って大丈夫だったのか。
浅はかだったのではないか――。
「奏ちゃん、どないした?」
「!!」
我に返ると、ゾンビの無残な姿を背景に真島が顔を覗き込んでいた。
特に何も、と言う口が動かない。
「……すいません、私、ぼーっとしてて」
「やっぱ怖いか?」
「……」
「そらいきなりハジキ持って、いきなりやめたんや。そんなんにもなるわ」
「……すいません」
「あーあー!もう謝らんでええ!大丈夫や!奏ちゃんが『こっち!』って好きに決めた方やったら、それを進めばええ!」
「好きに、決めた方……」
「それが正解か不正解かはわからん。せやけど、今から“正解にする”っちゅうんはできるで」
どないや、と真島は奏に言った。
正解にする。正しいと証明する。
「……なんだ、それだけのことだったんですね」
「ヒヒ、せや。そんなもんや」
「ありがとうございます、吾朗さん。私なりに頑張ります」
奏はまた少し笑んだ。
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