狂犬の娘

□十章「娘と、正義の味方2」
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神室町ヒルズの入り口にあったシャッターはすでにその役目を果たせない姿をしていた。




真島と奏はひしゃげたシャッターの隙間をくぐり、神室町ヒルズの入り口前に出る。





案の定、そこも外と似たような惨状だった。






神室町ヒルズ本体のビルの壁をゾンビが身体でタワーを作り、上へ上へとよじ登って行く。




その先には、東城会の構成員が数名迎え撃っていた。静かな入り口付近に、大きな銃声が次々と響き渡る。





真島はその様子にニタリと笑った。




「ヒヒッ、派手なセレモニーやないけ」


「満員御礼って感じですね。私なら御免ですけど」


「せやったらこいつらにはご退場願おか。よっしゃ、行くでえ!!」


「はい」






ゾンビの群れに真島が突っ込んでいく。ショットガンの引き金を引くたびに、ゾンビは何体も地に伏した。





奏も援護射撃として引き金を引いた。






撃っても撃っても湧いてくる、というものではないが、初期の数が多い。




街全体に比べればそうでもないにしろ、ミレニアムタワーの数ほどは届きそうだ。






今更数が増えたところで、とも思うが、実際にそれは起きた。









「いっぱい、います、ね……」


「奏ちゃん大丈夫か?」


「はい、大丈夫、です。ちょっと、息が切れちゃって……ごめんなさい……」




奏の足が震える。息も荒い。




当たり前ではあるが、銃を引くと常人の目には追い付けないスピードで弾が出る。




だがその代償に、逆方向、つまり撃った人間にも多少なり負荷がかかってしまう。たとえ彼女のリボルバー銃がどんなに改良してあったとしても。




真島などは体力おばけであるから論外としても、奏はここまで体力が続いたのが奇跡のようなものだ。






「これで、最後……!」





奏の撃った弾は見事にヘッドショット。入り口周辺のゾンビはすべて片付いた。





「……ふぅ」


「……ほんまに大丈夫か?」


「ええ、すいません。それに、ここで休んでしまったら、格好の餌食です……」


「それはせやけど、」


「お願いします、もう少しだけ……」






奏は真島に頭を下げた。



彼女は嘘を言わない。しかし、これは自覚した場合だ。


彼女は“大丈夫”というこの言葉が嘘だと気付いていない。




「……」




真島はハの字の眉をしながら、奏に銃弾のケースを渡した。





「……?」


「奏ちゃんの持っとるハジキの弾や。こん中に5発分だけある」


「5発……」


「こんだけなら撃ってもかまへん。それ以上はアカン。……ええな?」







不器用な真島なりの気遣い。






「っ、ありがとうございます……!」








奏は笑んで銃弾を受け取った。










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