狂犬の娘
□五章「娘と、狩る者」
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「で、何でDVD消化してるんですかね」
「おもろいやろ??」
「この状況じゃなければ楽しんでましたよ、私も」
「まーええがな。ゾンビなんてまだここには来んやろ」
「はあ。……ただ、何か大事なことを忘れているような――」
奏はふと真島が足置き代わりに使っている机に目線を移した。
机の上には少し散乱している紙の束(足置きにするために真島が無造作にどけたものだ)、雑誌、帳簿、灰皿、そして写真が一枚。
少し前、真島が奏に見せたものだ。
この二人がいて、このゾンビ騒ぎ。
近江の人も災難だなあ、と奏はそっと視線をテレビに戻した。
「やっぱ堪らんなあ!」
「……」
真島は終始ニコニコと映画を鑑賞していた。
まあ、自分も少しは落ち着こう、と奏が再びソファへと身を沈めかけたときである。
扉がガチャリと音を立てて開いた。
「お、親父いぃ!!」
舎弟の一人である。
彼は勢い余ってバランスを崩し、DVDが収納されている棚に激突した。
棚からは、バッサバッサとゾンビ映画のパッケージが落ちてくる。
あーあ、一昨日整理したのに、と奏が呑気に考えている隙に真島は怒号を飛ばした。
「こらボケえ!なーにやっとんじゃ!!?」
真島はそれだけ言うと突然視線を映画に戻す。相変わらず視聴者に向かってゾンビが列をなして歩いていた。
奏もまた然り。
「「……ん?」」
2人は舎弟が来た方向に目を向けた。
こちらに向かって映画と同じようなヒト二人が向かってくる。
「「……ん?」」
再度、映画へ。
ゾンビはもう画面を突き破らんというばかりに近い。
「「ん?」」
また再度、視線を移す。
そこには、同じようなゾンビがいた。
「……えっ」
「ほほう!やっぱ、ホンマもんは迫力がちゃうなあ!」
「言ってる場合ですか……!」
とうとう来てしまった。
しかし、なぜか奏に昨日のような恐怖はない。
真島の発言に冷静に言葉を返す余裕がある。
すると、真島は反対方向に視線を向けた後、突然奏の肩を抱き寄せた。
うわ、という声を上げる間もなく、鼓膜へとゾンビの大きな声が響く。
「GAUUUUUUUUUUU!!!!!」
ムササビの様に飛んできた別のゾンビの口に向けて、真島はショットガンを片手で押し付けていた。
もう片方の手で、奏を庇いながら。
「最っ高や……まさかゾンビとやり合える日が、来るとはのう」
ニヤリと笑って、躊躇いなく引き金を引く。
大きな爆音と共に、ゾンビは吐血をしながら後方へと吹き飛んだ。
真島吾朗。
現在“ホンマもんのゾンビ”を目の前に、テンションが爆上がり状態の男である。
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