狂犬の娘

□四章「娘と、壊れる街」
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「あっ!姐さん、お帰りなさい!」



「……ただいまです」





ミレニアムタワーのエレベーターで、57階の真島組事務所へ。


出迎えた組員に何とか返事をして、真っ先に自室へと向かう。




奏が一番落ち着く場所、真島組事務所にいても、やはり先ほどの光景が目に浮かぶばかりだ。




突然人が落ちてきたと思えば、警察官の首に噛みつき、赤い目でこちらを見て――。






「……」







不安。胸騒ぎ。それらのマイナス感情全てが、今の奏を押しつぶそうとする。








……一人だと、どうしても。







らしくないかもしれないが、と奏は自室を出て、目と鼻の先にある組長私室の扉を叩いた。



トントンという軽いノックに、奥から家主の低い声が帰ってくる。






「おう。誰や」


「奏です」


「おお!奏ちゃん!入り入り!」




自分の名を告げれば、真島は心から嬉しそうに自分を呼んだ。



失礼します、と一言断って扉を開ける。開けた瞬間、目の前には真島が笑顔で立っていた。






「お帰り!……なーんや疲れた顔しとんなあ。一緒に寛ごか?」


「……はい。そうですね」





真島は奏の返事を聞くと、手を取って優しく引き寄せた。




いつも通りの真島。



幾分かましになった気分と共に、真島に着いて行く。





そうだ、あれはもしかすると夢だったのかもしれない。季節外れの仮装パーティーだったのかもしれない。


ちょっとした、フラッシュモブだったのかもしれない。












『う、ああああああ!!!!!!』

『きゃああああ!!』

『何やってんだお前!?』

『誰か!誰か!!』










「っ――!」



それでも、何度そうやって現実味を払拭しようとも、こびりついたあの情景が脳裏に蘇ってくる。







「……なんかあったんか?」



「え?」







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