短編 2

□聖夜の隠れ家
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今年はなかなかに混乱したまま突入した冬で。
昼が短くなり木枯らしが吹き、物寂しい枯れ葉舞う風景の中、ついつい人恋しくなる。
夜が長くなる中、イルミネーションが始まって、
日没後の寒夜、親しい人や愛しい人と身を寄せ合って過ごす温かさを堪能したくもなる
……のが冬のはずが、師走に入ってもたまに20度近い生暖かさだったりしたものだから、
ああそういやクリスマスか、ここのところ忘年会も帰省もなしの年の暮れだったからねぇ。
って、おいおいそれはコロナ奇禍があったリアル軸の話だぞと、ちょっと混乱。(笑)



この冬は夏の酷暑を引き摺った短かった秋の影響か、
やっぱりおかしな感じで幕を開け。
いや、あれって開けたんか?
寒くもなったが、3日くらいおいては20度近い気温に戻ってたしと、
何だかおかしな師走だというのが探偵社の皆様の話題に上っているその向こう。
働き者の新人にして、乱闘展開になりがちな外回り実務においては
虎の異能を発動し、それは手際よく破落戸や半グレ連中を畳んでしまえる、
使える前衛担当の中島敦少年が、(…言い方)
何となく気落ちしているという顔でデスクについていて、
窓の方を見やっては時折ため息なぞついており。

「どうしたの、敦くん。」
「まさか昨夜の夜回りでお怪我とかしたのでしょうか?」

昼も警戒は要るのだろうが、そちらは軍警や市警のお巡りさんが担当している。
こちらは荒事も多かろと見越された上でもっぱら夜間担当なので、
何なら日中は順番に仮眠をとっているくらい。
なので、情報の擦り合わせが出来てなかったかなぁ?と気を回した谷崎兄と、
そんな兄にくっ付いて来て、もっと気を回してくれたナオミちゃんだったのだが。

「怪我だって?」
「だ、大丈夫ですから、何ともないですっ。」

落ち込んでもいられないと姿勢が伸びたほどおっかない声がして、
執務室に直結している医務室から白衣姿の与謝野女医がそりゃあお元気そうに飛び出して来たため、
敦も谷崎も一緒になってぶんぶんとかぶりを振ったほど。
見るからに無事な二人を、それでも一応頭のてっぺんから足元まで見まわしてから、
なぁんだと残念そうな顔をし、引き返したところも相変わらず。
何かと物騒な折、物騒な案件へのお近づきも多いのに、お元気そうで何よりだ。

  それはともかく。

何でまた憂鬱そうなお顔でいた虎くんだったのか。
元気がよくって朗らかで、
ちょっと世間知らずじゃああるけれど、そこがまた憎めない頑張り屋さんで、
皆から可愛がられている彼なのに。
慌ただしい師走の不規則なお勤めにさすがに疲労困憊か、
何にか気落ちしたような顔となり、はぁあと吐息をつく始末。
とはいえ、さすがは人の機微にも敏いのが、探偵社唯一の気遣い上手で繊細組のな谷崎兄さん。

 “…ああ、そっか。”

銀髪に近い白い髪に宝石みたいな淡い色合いの双眸。
繊細そうな造作のお顔と、若木のようにすんなりした肢体。
伸びやかな声はまだちょっぴり甘やかな幼さ滲ませていて、
ビックリしたり困った困ったとしょげてみたり、まだまだ判りやすさを隠し切れない初々しい子で。
嘘が下手なところが由縁して、
微妙な立場のお人といい仲なこと、探偵社の察しのいい顔ぶれにはあっさり把握されてもおり。

「もしかして、聖誕祭の贈り物?」

そおと傍により、こそと囁くよに訊けば、
まだ丸みの方が強い眼をうるりんと震わせて、
同い年なはずだけれど、頼もしい兄様にすがるような視線を向けてくる。

「だって、中也さんたらお料理上手でスイーツも作れて、
 センスもいいし、何と言ってもお財布事情も物凄いから何を贈ったらいいものか。」

フォンダンショコラっていうのも中也さんが作ってくれたのがお初だし、
いわゆる“仕事着”となっているいでたちからして単なる黒装束じゃあない、
スーツは言わずもがな、帽子から靴にアクセサリまで、
総額いくらなんだか想像もつかないレベルで揃えておいで。
どっかの蓮っ葉な女子の皆様みたいに
ハイブランドをステータスだと勘違いしてやみくもに買いあさっているわけじゃあない、
ご本人にすれば、いいなと思ったものを購っているだけなんだろう。
それへ相対するは、ごくごく一般人、社会人となって日も浅い青少年の虎の子くん。
それでなくともまだまだ新米、どちらかといや薄給な身だってのに、
そんなお人を相手に “どうすりゃあいいの?”とお悩み中の敦くんだったりするのだろうて。

 “ゴジラを前に、竹やりで立ち向かう庶民みたいなもんだもんなぁ。”

とほほという情けないお顔になる虎くんで。
これが誰かから相談されたことなのなら、
見栄も何もいらないでしょ?あなたが相手を思って一生懸命選んだ贈り物、
ああでもないこうでもないと、その期間中ずッとその人を思ってたわけなのだし。
懐ろ深いお人ならそこのところもちゃんと酌んでのこと、
嬉しいって喜んでくれるに決まってるじゃないと言えるのに。
自分の身となるとそこはやっぱり違うらしくて。

「本人に訊いたら?」

野暮かもしれないがそれしかないのでは?と勧めたが、

「…今、絶賛“清掃中”だそうで、こっちからは連絡とれません。」
「あー、なるほどね。」

師走の街はなんだかんだ言っても慌ただしいし、決算前なのは裏社会も同じなものか。
大売出しの売り上げ目当ての強盗や何や、防犯防災の夜回りなどなど、
探偵社に助っ人依頼が来るのとは方向性がまるきり違うが、
ポートマフィアにも怪しい情報が目白押しで届くに違いなく。
日頃 護衛は任せてと言ってある協賛フロント企業からの依頼や何や、
大金移送の護衛などなどに駆り出されたり、
表沙汰に出来ないアガリをだからこそと強奪されたなんて話への緊急出動があったりするらしく。

 “一応はヨコハマの番人だものねぇ。”

寒さをしのごうと想い人同士で寄り添い合いたくなる冬場に、
よりにもよってクリスマスだのバレンタインだの
ロマンチックに構えたくなることも集中しているってのはねぇと。
谷崎兄妹や与謝野女医なぞがこっそりと気の毒がってくれもする。

 “でもまあ、そういうところも行き届いてる奴だしねぇ。”

あの黒服さんに関してならば、嬉しかないけどようよう知ってるという“元相棒”さんが
デスクでの居眠りの陰から苦笑をこそり。
数ある恋人同士がいる中で、
正反対なベクトルで、でもでも同じほど繁忙期になる中也さんと敦くん。
太宰さんと芥川くんも似たようなもののはずだが、
どちらもそりゃあ頼もしいお人の思惑さえ冴えているなら何も問題はないってもので。
やろうと思や…怪しい取引だの抗争だのへも
とっくの昔に勘づいてる上で、伏兵伏せまくってクリスマスに限り何の騒ぎもなしという
ヨコハマの奇跡を構築することだって可能かもしれぬ。

 『そうだ敦、虎の手で爪なしの肉球つきって出せるのか?』
 『え?え? 多分出せると思いますよ。』

ラーメンメニューのトッピング扱いで 異能さえネタにして、
及び腰な少年をあっさりと卒なくくるみ込み、温かいクリスマスを過ごすことと相成ろうと。
目許を覆う蓬髪の影、ちょっぴり面倒そうに、
でも虎の子ちゃんへは微笑ましそうに、柔らかな視線を送るのであった。




     〜 Fine 〜    23.12.25.




 *気がつきゃこんな押し詰まってますよ。歳のせいか日の流れが早い早い。
  皆様、お寒い中ですが楽しいクリスマスをお過ごしくださいませ。
  そして、気が早いかもですがよいお年をvv






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