短編 2

□それもまた相変わらずな 4
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組の帳簿や何やの写し、どこぞへ持ち出さんとした馬鹿がいて。
小さい組織だが、実は惣領が地元の顔役の血縁なので
とある公共施設の敷地でもある土地の権利に顔が利くという
微妙な強みをささやかながらも持っている。
そこのところの詳細を、IDや何や付きで持ち出されたのがちと痛く、
しかも持ち出したという当人をシバいたところその手には持ってないというから
話は既にややこしくよじれてかかっており。

 「親父に知れたら代貸が俺らの指詰めるって息巻いとったぞ。」
 「うわ、勘弁してくれ。」

妙なところで古風というか、メンツにこだわる組織だったようで。
書類がクラウド保存化してあっても、しっかり恩讐にこだわるのはもはや基本なのだろか。
ブツを持ってるらしい三下を突き止め、
それが倉庫街を逃げ回っているのを何とか囲い込んでいるところなのだが。
どういう手妻か、思いがけずに手練れであったか、
どう追い詰めてもどう取り囲んでも、
人間技とは信じられない級での跳躍や10m以上はあろう壁を垂直に駆け上ったりをやって見せ。
精油基地のうねる配管群を
ムササビもかくやと飛び上がったり滑り降りたり、攪乱しまくって追っ手を躱したかと思や。
送電塔を駆け上ったり、命綱なしのバンジーですかというよな驚天動地なダイビングをやってのけたり。

 「あんな身の軽いのが何でウチの三下やってんだ?」
 「知りませんて。」

あれってあれだろ、ポートマフィアが抱えてるっていう噂の魔人、
異能力者とかいうのじゃねぇのかよと。
ナマで観ているのが信じられんとばかり、年嵩なクチの幹部格が目を丸くしたほど、
人間離れした逃走を続けていたが、
二人のうちの片やは普通の人間だったか、とうとう膝が立たなくなったらしく。
古ぼけた廃工場の屋上へと辿り着いて二進も三進もいかなくなった。
だがだがそれからがまた難儀なことで、
観念しなとばかり、銃を持ち出して脅し半分に撃ってみたところが、
どれほど撃っても当たらない。
そこらにあったらしい木箱や何やで築いたトーチカばりのバリケードを狙ってみたが、
角がはぜる気配すらないときて、

「なんでだ、そんな遠いか、あれ。」
「知らねぇっすよ。」

ひしめき合うよに建った同士、隣の雑居ビルの屋上からという近間、
ほぼすぐに当たろう位置からのはずがちいとも当たろう気配がない。
周りの木箱や何やへも当たってないみたいで、
そんなせいでか あっちも横合いから狙われてると気づいてなさそうな顔でいる。
どいつも見たことないという初顔の坊やが時々木箱の上へと顔を出し、
どこか近所での銃撃戦みたいだと、首を伸ばしてきょろきょろしちゃあ、
連れのヤスの野郎に首根っこ掴まれて引き戻されてるのが、
他人ごとならいっそコントみたいで笑える様相。
だがだが、取っ捕まえたいこっちにしたら、
手傷を負わせてでも足止めしたいのに全くの全然できないもどかしさとか苛立ちに、
いい歳したおっさんたちが ぐがががと妙な声さえ出て来そうな渋面をさらしており。

 「今日日の拳銃は何か? 夜風に負けて軌道が変わるほど根性がねぇのか?」

それでなくとも活劇や実戦なんてものには縁のなかった顔ぶれが、
ジャケットや背広を埃まるけにしつつごそごそやっておれば

 「そりゃあそうだ。当てさせやしねぇから。」

標的の居るのとは逆の方向から、いやに通る声がした。
軍警の捕り方が自分らの確保にと駈け回っているのは知っていたが、
そやつらは団体行動が基本だ。
銃を装備した相手なら尚更で、だってのにこんなにも気配無く近づけるはずがない。
思うように運ばぬ現状にイラついていたこともあって、何だとと睨むように振り返れば、
やや離れた別の倉庫の屋根の上、危なげなく立っている影がある。
夜風にスーツや外套の裾をひるがえされても危なげないままで、
ジャラジャラとBB弾?いやさパチンコ玉らしいのを
片方の手のひらいっぱいにひと掴みしている黒ずくめの男がにやにや笑い、
1粒だけ摘まみ上げると、ぴしっと親指と人差し指だけで弾いて見せれば、

「うおっ!」

追っ手だった一団の立つ隙間を縫って飛び込んできて、
彼らが立ってた背後、階段室のコンクリの壁が深くえぐられる威力が凄まじい。
上塗りの漆喰にひびいかせ、蜘蛛の巣みたいな図柄の亀裂を描いた痕跡はまさに銃弾痕で。
ドカッという鈍い音がしたので、相手の動作の果てのものというのは間違いなくて。

 え?え? あいつ機関銃とか持ってたか?
 いやいや何の音もしませんでしたって

火器もないままそんなことをやってのけた謎の人物。
もしかして “当てさせやしねぇ”というのは
その脅威の指弾にて、こちらは銃で放ってた弾丸を
その軌跡やらタイミングやらを読んだうえ、
片っ端からパチンコ玉を当てまくっての起動を逸らしていたとでもいうことだろうか?
銃など使ってないから何の音もしなかったと?

 「な…何て奴。」

そちらとこっちじゃ結構距離もあろうに、そんな凄まじい射的を延々とやり続けていたということか?
化け物級の異能じゃあないかと
さぁアッと一同の血の気が引いたところで、
そんな連中が立つビルの中、遅ればせながら大勢が駈け上ってくる足音が鳴り響き、

 「◆◆組総代、神妙に縛につけっ!」

バタンッと鉄の扉が夜空へそのまま吹っ飛びそうな勢いで押し開かれて、
大勢の軍警関係筋の皆様が、狭い屋上スペースに雪崩のように排出されたのでありました。



     ◇◇


今宵の武装探偵社のお仕事は、
軍警からの依頼があってのこと、
とある取引で顔を合わせる組織を二組ほど、一網打尽にしたいという代物で。
大がかりなそれじゃあなかったが、
小さい組織にありがちな話というものか、
土地勘があったのと逃げ足の速さであっという間に散り散りに逃げた。
本来はこのような案件は畑違いもはなはだしいのだが、
その取引の陰にて、とある土地の権利関係の資料とやらが動くらしいとかいうネタもあり。
ヨコハマの何処ぞかに眠るという例の“白い本”のありかを探っている連中の手に渡っても剣呑だと、
一応押さえておこうじゃないかと、異能特務課の慎重な手配があってお声が掛かったという次第。
四方八方へ散った一味の中、
その権利関係の情報を掴んでいる手合いを引き当てたのが、どうやら虎の子くんだったよで。
運が悪いところは相変わらずに健在なご様子。

 「はぁあ。」

思えば未成年の少年が職務質問というのも妙なもの。
本来だったら太宰と組んで手がけることになっていたのだが、
相変わらずの逃げ足の速さで姿をくらませており。
相棒さんを探すの半分で周辺を見回っていたらば…

 「大当たりだったワケなんだな。」
 「え?」

廃墟寸前とはいえ結構広かった倉庫群を駆け回ったせいで疲労困憊な敦であったため、
報告書は明日で良いからと、今日のところは帰って休みなさいと言い渡された。
一番寒いとされる時期じゃあるが、
大好きなお人から今年も温かくて動きやすいダウンのジャケットを買ってもらった。
それを羽織っての出動中であり、

 「あ、やっぱり中也さんだったんだ。」

路地から掛けられたお声へ、
誰が聞き逃すものですかとの満面の笑みにて応じた虎くんだったのへ、
そちらも満更ではなさそうな笑みを返したのがマフィアの幹部殿。
銃まで出て来て、でも一般人の人がいたので異能を出したものかちょっと迷ってた。
そんな中、庇い切れるか危ぶんでた大量の弾幕を誰かが防いでくれてると気がついて…

 「まぁったく」

中也が呆れているのは、一般人に異能を見せてもいいものかと迷ったところと、
与謝野の異能ではないが、よほどの大怪我でないとかすり傷では再生の異能が働かぬらしいこと。
多少は逸れかかりの弾丸が届いたか、頬やらジャケットの肩先やらがはぜたらしい跡が見える。
骨ばらぬするんとした愛とし子の頬へ手套のまま片手を添えた中也だったが、

「お兄ちゃんに補給してもらえや。」
「え?」

そんな言い様をして肩越しに背後をちらりを見やれば、
その先に立っていた人物が何かしら誤魔化すような咳をこぼして、

 「相変わらず、無様な立ち回りだ。」
 「ううう、しょうがないだろ。」

くどいようだが運動能力に発揮された異能は桁が違うので
一般人を振り回したのでは意味がないと、あれこれ遠慮しての逃走一択だったせいで、
無駄にあちこち怪我もある。
そんな敦を陰ながら見守りつつ庇う格好にて
銃弾を防いでいたのは重力操作だけじゃあなかったらしくって。
そちらも夜陰に溶け入りそうな漆黒の装束を痩躯にまとった青年が
やや斜に構えてすっくと立っており。
ちょいと眉間にしわがあったのは、
自分が護衛に回らにゃならんほどだったおとうと弟子の体たらくが腹立たしかったか。
いやいやそれにしては
つかつかと歩み寄って来てそのまま手を伸べてきた芥川の声が紡いだ一言が

「ほれ。あーだ。」
「あー♪」

ワクワクと、全くの無警戒なまま“あ〜ん”をする虎くんのお口に
ほいと放り込まれたのは小さめのアソートチョコ。
小さい傷ほど治りが悪い弟くんなのへ
特効薬代わりにと手持ちのチョコレートを食べさせてやるのももはやお約束な間柄。
のほのほと笑って見せる白虎の君の頬や顎から傷が掻き消え、
安堵からだろう肩から力が抜けるマフィアの皆様なのも不思議な光景。

 ああ、そういえば…もう今日になってしまうね。
 あ、そうそう。中也さん、今日はお仕事…あのその。
 んん? 部外秘なもんはなかったはずだがな。
 ……っ、。

何かに気づいたらしい黒獣の覇者様が、ちろりと見やった先にては
長身な元師匠様が、淑として美麗なお顔を甘く綻ばせ、にんまり笑ってござったり。
そういえば日付の変わった今日は、お互いへの愛を伝え合う日だったりし。
虎の子くんは同居中の女の子とチョコ風味のパウンドケーキを焼いていたし、
にんまりと笑ったお師匠様はお師匠様で、
ちょっとおしゃれなチョコ菓子情報を、後輩のお嬢さんたちから仕入れておいで。
相変わらずのすっとんぱったんからは逃れられない彼らだけれど、
そんな中でも楽しく過ごせればいいですねと、
冬の月が微笑ましげに見下ろして御座った冬の夜。



   〜 Fine 〜  23.02.13.〜02.14.





 *聖バレンタインデーの前夜、相変わらずにお忙しい皆さまですが、
  まあまあそれは彼らには“日常”なんだろうねという一幕でした。
  バレンタインを前にしてさすがに何か書いとこうと思いましたが、
  微妙な出来でしたね、すいません。
  「その虎、過保護につき」の関係臭もぷんぷんしてたし。(笑)
  年末からこっち、お仕事が不規則なので落ち着いてお話練れません、しくしく。
  アニメ4期はしばらくつらい展開だしなぁ。
  早く幹部殿が出てきてほしいです。




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