短編 2

□流星群も蹴散らして(お隣のお嬢さん)
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いつまで残暑なのかねぇなんて世間がうんざりするよな気温が続いたかと思えば、
秋霖というより驟雨だよこれと思うよな豪雨も続いたが、そう云や台風はあんまり来なかった。
そんな微妙な秋が、やべもうこんな暦かよと泡くって駆け出したかのように、
いきなり寒くなったのが11月も半ばをすぎたころというのも穿ってる。
今年は例年続いた暖冬じゃあないらしいとの声も聞くが、
その“暖冬”といってたここ数年だって、
あちこちの国道で立ち往生する車列が出来るほどの大雪は毎年帳尻合わせみたいに降ってはいるんだが。

「ねえねえ知ってる?
 栗の味がするお芋があるんだって。」

ちょっぴり甘ったるい声で、そんな言いようが飛び出して、
少し離れたところに立ってた顔ぶれが、おやおや可愛いなぁと思ったところ、

「ほほお。
 やつがれが人から聞いたのは、
 ようよう熟した干し柿の味がする芋焼酎があるという話だが。」

そんなお返事が返ってる。
向かい合てるままな相棒の声らしかったが、
あれ?こやつそんな言うほど飲めたっけ?
つれと言うか伴侶というか、仲のいいウワバミ女からの受け売りか?と怪訝に思っておれば。

「あ、大人だねぇ。さすがもうお酒飲めるお年頃だもんね。」
「で? その芋がどうかしたのか?」

年少組による可愛らしい会話は続いており、

「だったら、えっとえっと、
 かぼちゃの味がするお芋があったら秋の味覚勢ぞろいだねぇ。
 それか、銀杏の味がする栗とか。」

「なんでそんな、ややこしい物ばかり思いつくのだ。」

「だからぁ、それぞれでプリン作って、
 どぉ〜れだ?って当ててもらうってのはどうかなと思ってぇvv」

「……まさかと思うが、じんこ、貴様酔っぱらっておらぬか?」

「のすけちゃんこそ、何か喋りがゆるいぞぉ?
 顔色もすっごく色っぽい赤さだしぃ。キャハハハハvv」



     ◇◇


虎の姫がはしゃぎつつ炬燵の天板をばんばんばんと叩き始めたところで、
そちらは窓辺のソファーに座を占めて何やら携帯端末で情報集めをしていた太宰嬢と、
キッチンに下がって追加の飲み物とグリルサンドやフライドポテトを支度していた中也姉が
何だ何だと広々としたリビングの中央、段差を設けてあっての掘り炬燵状態になっているテーブルまで、
とるものもとりあえずと足早に運べば、

 「……ありゃりゃあ。」
 「嘘だろ、おい。」

そこで晒されていた情景へ、大小二人の美姫が、揃って口許押さえて…吹き出しかかる。
色んな意味合いから対抗組織に勤める同士の4人だが、
それぞれの想い人が相手側の組織にいるところまでおんなじで。
相手の連れへは 生意気だとか憎たらしいとか、表向きには何だかだと憎まれめいたことを言っていても
事情が通じ合ってての気配りのし合いも欠かさないし、実のところは仲が良いからこその顔合わせも多く。
久しぶりに4人全員の非番が重なり、しかも連休をもぎ取れたので。
だったら一緒にワイワイもしたいと話が合って、
仕事明けの晩は微妙に退社のタイミングがバラバラになるので、
中也のセーフハウスで顔を揃えて鍋でも突々こう、
翌日からは別行動ということで…なんて話もまとまっており。
料理上手な中也嬢の海鮮鍋や、
お土産にと持ち寄ったテイクアウトのおしゃれな総菜を平らげてから、順番に風呂を使い、
持ち寄ったスイーツで夜更かししようねなんて盛り上がってたのが、
ちょっとの間、目を離した隙に後輩二人が何だか妙な状態へなだれ込んでたらしくって。

「ラムレーズンチョコで
 ここまであっさり酔っぱらうとはなぁ。」

「しかも2,3個しか食べてないのにねぇ。」

天板の上、上蓋がぱかりと開いた格好で封を切られていたのは
シックなチャコールのボール紙製、チョコトリュフが20個ほど並んだ小箱だったりし。
どこぞの女子大生のパジャマパーティーですかと思うよな、
片やは猫耳付きフードを背に垂らした、星柄のフリーストレーナータイプの上下、
片やはハイウエストな位置にシャーリングの入った、ちょっぴりロマンチックなデザインのパジャマ姿のまま。
同じような格好、天板の上へと投げ出した腕の上、
可愛らしくも頬を火照らせ顔を載せ、
揃って沈没したか転寝を始めている愛し子二人。
ありゃまあと呆れ半分、でもでもどちらもそりゃあ愛らしい寝顔なのが
姉様二人にすれば愛おしくてならぬ。

  こんなお顔もするなんて、どれほどの人が知っているものか。

岩礫や刃が飛び交い、炎や旋風による鎌鼬も舞うような、
異能者相手の過酷な戦場に放り込まれることが多い先鋒担当。
虎の異能を身にまとい、俊敏な体捌きと異能を滅する虎の爪にて、
強大狡猾な敵からの絶え間のない攻勢にもおじず、
屈することなく叩きつけるよな攻撃を降りそそぐ敦嬢と、
中距離攻撃も可能な凶悪な異能を的確に繰り出し、
直接攻撃もしつつ、敦への援護射撃も欠かさず、
実践という流動的な場で的確な頭脳攻略を構える冷静な後衛の芥川。
そんな凄絶な戦いを強いられ、死線を渡ってばかりな二人だが、
そうだというに安らかな寝顔は双方とも何とも愛らしく。

 「……。」

最年少の虎の姫、
ほんのりと酒精にて緋色に染まっている白い頬はふくふくと柔らかで、
髪の白銀とお揃いな睫毛が今は淡く伏せられた、瞼の下に隠されている宝石みたいな双眸も、
帽子の姉には気に入りの宝物。
天板の上に投げ出された手は再生の力によってきれいなものだが、
串刺しになったり何なら指が落とされたりと、
相手を粉みじんにしてやりたいと姉様が荒れ狂うよな目にも遭っているから壮絶で。
片やの黒狗姫の方も、
長々伸ばした黒髪をたなびかせ、その痩躯が折れそうな風の中でも凛然と戦場に立つ姿といい、
凍るような美貌が凄艶と麗しいとこっそり評判なのを、
彼女の連れ合い、知恵者の姉様としては
平然とした顔を保ちつつ、実はそんな風評を口にした輩どもは片っ端から蹴たぐっているとかで。
冷然としたまま殺戮に黒外套をひるがえす、正に悪鬼のようだと恐れるだけでよし。
ただの風評や与太話の場であれ、余計な劣情でこの子を汚すは許さじと、
人間不信に陥って住まいからさえ出て来れなくなるような、
ちょっとやそっとじゃあ想像も出来ぬよな策さえ繰り出すというからおっかない。

 「…あーあ、せっかく流星群がじきに観えるっていうのにねぇ。」
 「おう。それが目当ての集まりだったはずだがな。」

名目というか一応の目的、
この子らも話を振った折はそりゃあワクワクとしたお顔だったのにねぇなんて、
そうと言う割にさして残念そうでもなく。
むしろ思わぬ寝顔を明るい所で観られたのは幸運と、
それぞれに携帯端末で写真を撮りつつ、
こちらの二人の方だって、
目当てだった星がそろそろよぎる夜空になぞ目もくれないところは、お揃いだったりするのである。





     〜 Fine 〜    21.11.29.




 *お姉さま方のずば抜けた容姿は結構描写しているけど、
  妹ちゃんたちの風貌はあんまり書いてなかったかなぁ?と思いまして。
  急に冷え込む今日この頃です、
  ちょっとずつ色々な規制も緩んでおりますが、どちら様もどうかご自愛くださいませ。




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