短編 2

□その虎、過保護につき
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    後日談



真夏の晩に起こった一騒ぎは、
図らずも武装探偵社とポートマフィアの共闘ぽい着手案件となってしまったものの。
終わり良ければ何とやら、
事情が通じている幹部格が揃っていたので辻褄合わせも支障なく運び、
表向きには一切何も零さずにお片付けも完了。
事実の報告が必要な各方面の裏では裏で、
出来得るだけ表沙汰にはするなという依頼には
少数精鋭であたって遜色なく対処出来ていたその上、
結構な威力を持つ怪しい異能者を確保できたことは
先々の奇禍を未然に防ぐことにつながったのではないか…という論法をもってして、
現場をまったく知らないくせして
無知蒙昧な横槍入れて来がちな官僚系の雲上人らをぴしりと黙らせた
異能特務課の事務官さんも偉かった。
一般のお人には
一生のうち一度でも巻き込まれればそのまま忘れえぬ大事件となろう級ながら、
彼らには “いつもの騒ぎ”もそうやって幕を下ろしての…さて。



 「……敦。」
 「…っ。」

今日の寝床は普段の定位置である押し入れではなく、
畳敷きの居室の真ん中に延べられており。
押し入れよりは解放感もあるけれど、まだ出勤前だった鏡花には挙動が丸見えだ。
台所のお片付けの物音が引き、意識せずとも静かな足音がそそそと玄関へと向かって幾刻か。
その気配がドアの向こうへ退いたと察し、もう出社したのだろうと思っていたら、
家の中のごみを外の収拾場所まで出しにとちょっと表へ出ていただけで。
それでもこそこそ、物音を立てないように着替えておれば、
向こうもまた気配を消しての そおと入って来て
間近に立ってたお嬢さんに後ろ襟を掴まれたそのまま、
それは手際よく寝床へと戻されてしまい。

 「…わっ。」

さして手荒ではなかったが、そりゃあ手際のいい力づく。
身体が浮いた感覚と同時、視界がぐるんと回って、
視野の端で振袖の赤が柔らかくひるがえったのが見えたそのまま、
ふわっとしか振動は来なかったが、有無をも言わさず布団の上へと薙ぎ倒され。
畳みかけるように、まだちょっと薄いめの掛け布団を掛けられて。
あわわと慌てる枕元にお行儀よく四角く座り直した小さな女御前様から、

 「私、何なら休んでもいいのだけれど。」

表情の薄いお顔をずいと寄せられ、その凍るような迫力に圧倒されたか。
特に叱られちゃあいないというに、

 「い、いやいや、そこまでしなくとも。」

布団から抜け出そうとした元気な病人が、枕の上で懸命にかぶりを振っている。
図らずも合同での捕り物となってしまったドタバタから一夜明け。
現場にいたからこそ、あの後、糸が切れたよに意識を失った彼なのを知っている鏡花としては、
やはり居合わせたついでに診察をしてくれた与謝野女医が

 『大事はないけれど疲れちゃあいるだろうから、
  いちにち二日は安静にしといたほうがいいのかも知れない。』

何しろ特殊な状態で軟禁されていたようなもの。
本来なら怪我を負えばたちまちのうちという呼吸で発動するはずな超再生の異能も封じられ、
結構深い手傷を負ったまま、体機能を止められていたのだ。
異能を解かれてもひどい貧血状態だったし、
まずは周囲へ気を遣う心優しい少年のはずが、
黒幕の気配を嗅いだその途端、がばと顔を上げてその身が仕置き一択という動きを取ったというのは、
尋常ではない状態のまま置かれていたがため、意識も朦朧としていた証拠だろうし。

 『…ということにしておけば、
  一撃で相手の顎まで砕いた仕置きに関しても言い訳は立とうしね。』

オフレコオフレコなんて誰かさんが言ってたような気もするが、
そこは鏡花も聞いちゃあいなかったことにして。
専属医の与謝野さんが“安静に”と言ったのだから
そうと断じたのを大事寄りに受け止めて、
何なら付き添っていようか?と言い出しただけのこと。

 ただ、案じている気持に偽りはないし、
 そこのところは相手へも伝わっているようで。

敦としては、自分の体調はもう回復している、
なので、こそりと遅出で出社しようか、
それとも家のあれこれを片づけようかなぞと構えていたらしく。
だがだが、
自分とは比にならないほど生真面目な鏡花がこうまできりりと構えているもの、
ヘタレな自分では説き伏せる自信はないと、
早急にそこのところへの理解も及んだようで。

 「…大人しくしています。」

掛け布団の襟元を掴みしめ、
そうと約束した虎の子ちゃんだったそうな。



  to be continued.(21.10.09.〜)




 *後始末に続いて“後日談”も調子に乗ってvv
  だって敦くん、やっぱり可愛いし、
  きっと平時は皆皆様から可愛がられてんじゃなかろうかとですね。(笑)



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