月下の孤獣


□器用なんだか不器用なんだか
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 *Beastっぽい配役ですが微妙に違います。
  設定的には原作基盤、
  ポートマフィアの首領は森さんですし、
  織田さんを捨て駒にして
  異能許可証を得ようとした森さんに
  ご立腹した太宰さんは、
  4年前にマフィアから離脱して、
  戸籍を洗ってののちに
  陽のあたるところで生活を始めております。
  能ある鷹が爪を隠すためなのか、
  就業態度はちゃらんぽらんなので、
  やっぱり国木田さんが大変らしいです。笑
  敦くんと芥川くんの立ち位置だけ
  入れ替わってるという感じでしょうか。
  孤児院で
  虎の異能持ちなのがばれた敦くんは
  それを聞きつけた森さんに拾われ、
  早い時期からポートマフィアの一員で、
  太宰さんに育てられたので
  ちょっとばかし(?)
  別人はなはだしい性格になっとります、
  すいません。





銃規制がないに等しい外つ国ほど即物的じゃあないにせよ、
日之本もまた 殺人とか放火とか物騒な事案も多く、
そういう方向で帝都に負けないほど 物理的に“伏魔殿”ぽいヨコハマの平和を
人知れず守っているのが、武装探偵社だ。
社名を出せば一般の人にも “ああ、あの…”と言われる存在なくらいに、
そろそろ公式認定されてもおかしくない活躍ぶりだし、色々と実績もあるのだが、
ちょっとした火器どころじゃあない脅威持つ“異能”というものを
国や政府が公式に認可していない以上、
某梨の妖精がああまで知名度が高くともご当地からは非公式マスコットキャラであるように、
彼らもまた何かと“非公式”に動かねばならず。
裏社会ではとうに“常識”でもある、凶器や火器として繰り出されてくる異能者相手に
何の説明も要らぬまま対応できる融通と、
自分たちも様々な異能を駆使できる身であることを盾として、
無辜の市民を守るべく戦うことを信条としている社員の皆様であり。

「社員寮にいないのは、同僚のお人が心配なさるからですか?」
「そんなほど殊勝じゃあないさ。」

肩をすくめる彼だが、日頃はしゃんとしている背条がやや猫背。
隙なく凛々しいお顔のピントも、見る人が見ればどこか怪しいぼやけっぷりなそれなのは、
やっと熱が引いた段階に落ち着いたばかりだからだろう。
だというに、誰への強がりなのだか、

 「世話焼きな顔ぶれではあるけれど、今は後始末の書類整理で忙しかろうからね。」

案じられるよりそっちに精を出せと引っ張り出されるのが落ちだろうから、
そうなる前に自主的にとっとと姿をくらましたのだよと、
どこをどう褒めてほしいのやら、えっへんと鼻高々になるものだから。
ああはいはいと適当に受け流して差し上げ、
ドアの中へと入れていただいたまま、
所作と態度で軽く強引さを示して押しまくり、家の中へ上がらせてもらう。
遠慮をしていい場面ではないことくらいは
付き合いの長さや濃さで互いにようよう把握出来ており、
そもそもこういう態度を許さぬ相手には
最初っからドアを開く性分ではないのだ、この太宰治という御仁は。

 「熱が下がったばかりですよね。
  パジャマじゃないのはどこかへ出かけるつもりでしたか?
  だったらいいタイミングで来たようですね、安堵しました。
  さあさあとっとと寝室へ戻ってください、
  それとも先に掃除しましょうか?
  ベッド周りに ティッシュや熱ピタやスポドリのボトルの海や山が出来てませんか?」

一見、親しい間柄ならではな馴れ馴れしさや強引さととれるやり取りかも知れないが、
これで結構色々なものが錯綜した結果であるというか奥が深いというか、
ただ単に歳の差を飛び越えて遠慮が要らない間柄なのねぇでは済まぬ、
見る人が見ればなんて恐ろしいことがこなせる豪胆な子かと驚かれよう代物でもあったりする。

「手厳しいねぇ。」

やれやれという口調ながら、それでも楽しげな態度でいる太宰なのへ、

「有無をも言わせず手を付けないだけでも察してくださいよぉ。」

自分よりも上背のある太宰を、だがその手で押すような強引な真似はせず
流れるようにまくしたてるパッシングだけで寝室へ戻れと“ハウス”する傍若無人な来客は、
見た目はまだまだ十代の少年で 中島敦という。
流行りのお洒落で染めたものじゃあない、これが地毛の白に近い銀髪に
紫と琥珀という珍しい二色が入り混じった宝珠のような双眸をし、
青年と呼ぶにはまだまだ細っこい肢体にそぐう、
するんとすべらかな頬に線の細い小鼻という幼さの残る顔容をした彼ではあるが。
一見すると柔和そうな風貌だというに、
泣く子も黙る裏組織の雄、ポートマフィアのかなり上の格の幹部クラスに籍を置き、
飢獣をその身へと下ろす“月下獣”という異能を持っており、
ほんの数十人レベルの組織なら、単独で通りすがりに瞬殺殲滅できる戦闘力も持つ隠し玉。

 そんな少年が、これでも気を遣ってはいるのだと眉を下げて接しているお相手は、
 そちらもやはり、知る人ぞ知るという存在なわけで。

敦少年が物心ついたころには既にいたとある孤児院から
異能持ちだという噂を聞きつけて引き取られた先、
既にヨコハマの裏社会で知らぬ者はない級の反社組織だったポートマフィアにて、
教育係として引き合わされた時は今の自分くらいだった太宰さんは、
そんな頃からすでに闇社会の大立者たる片鱗をちらほらと見せてもおり。
何につけても周到で頭もよく、表立っては従順柔和な顔をしていつつ
どんな相手へも油断なく罠や仕掛けを仕込んでいる人でもあって。
辣腕さでヨコハマを既に牛耳っていたが、どこか病的に暴虐で
ややもすると収まりかかっていた竜頭戦争が勃発しかねない火種なばかりであった先代首領から、
一応は穏便にその座を譲られた現在の首領である森鴎外の養い子でもあったせいか、
用心深くて隙が無いが、それをそうと全く気どらせないところまでもがよく似ており。
当人は役者のような美貌と一般級の体躯しか持たぬという存在ながらも、
そういうずば抜けた内面という素養と、どんな異能も無効化できるという異能を持っているがため、
着のみ着のままで極寒の地に放り出されても何とかして帰還しよう悪魔の子とさえ言われていたとか。

 『人を S・セガール氏が演じるタフガイみたいに言わないでくれたまえ。』

うんうん、正反対ですよね。そこは誤解されませぬように。
そういう複雑さでもって、策謀上等な裏社会ではとりあえずは強者でもあるお人だというに、
思うところがあって陽の当たる表世界に逃亡なさり、
判りやすい昼行燈を演じつつ、とりあえずは飄々と生きているように見えるのが現状で。

  どんなことの先も読めてしまう酸化したつまらない世界に辟易しているのなら
  悪も善も同じなのなら いっそ救う側になれと言った人がおり。

先が見えるにもかかわらず不器用で損ばかりしている織田作之助と居れば
差し引きゼロになるのではないかと、
その話に乗ったままマフィアから逐電し、履歴を消すのに地下に潜ったのが四年前。

 “賢い人は賢い人なりに大変なんだなぁ。”

自分もこの人の薫陶よろしくで多少は器用に要領というのを身につけて
物騒な世界でも生き延びられているけれど、
賢い人は色々と見えすぎてしまって息が詰まってしまうらしいと。
彼なりの把握でもって、聡明で先見の明もある賢者たる師匠様が、
だってのにあれこれ不器用なところを見かねちゃあ素朴に切り返して差し上げたりもするわけで。
教育係だったとはいえ、その潜伏の妙はお流石で、敦少年にもその居場所は全く分からぬままであり、
追手から身を隠すのと色々やらかしたことを洗浄するのに地下にいたのは二年間、
その後まっさらな身の上で武装探偵社へ入って二年も過ごした末に、再会したのがつい最近。
それだってたまたまマフィアが目をつけた対象が探偵社員だったからというから穿っている。
そんな奇遇でもなけりゃあ、割と手狭なはずのヨコハマだというにまだまだ会うことは敵わなかったかも知れず。

「ただの風邪だと甘く見ちゃあいけないんですよ。治りかけが一番肝心なんですし。」

そうと言ってもダイニングから離れぬ相手なのへ、
一応は暖房も効いている室内だし、
それなりの重ね着にカーディガンを羽織ってもいるようなのでと吐息ついて諦めて。
手土産というよりは見舞いの品、
わしゃわしゃ五月蠅いポリ袋から
半ダースの卵や1/4にカットされた白菜などなど、
食材を流し台に取り出し始める虎くんだったりするのである。


  to be continued.




 *ちょっとずつ書き溜めてたんですが、
  師走の進行に巻き込まれて忙しすぎて進んでません。
  せめて冬の間じゃないと通用しない話なのでこんなややこしい時のUPです。
  続き物という無謀さですが、いつもの冗長さは出来るだけ端折ります。(それもどうかと…)
  よかったらお付き合いくださいませ。




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