月下の孤獣


□月下の孤獣
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 *書きたいところだけ書いてみた…の、もっと極端に思いついたネタもの



ボクは中島敦。今年で18になる。
出自は知らない。
孤児院の出だというほかは教わっていないし、上の方々にも正確なところは判らない。
月夜に飢えた身で翔る白い虎、月下獣を身へと降ろす異能を持つ身だ。
そのせいなのかどうなのか、普段もちょっと悪目立ちする容姿をしていて、
日本人なのに生まれつき白い髪をし、玻璃玉のように淡色の双眸という特異さを、
実の親さえ忌まわしいと思ったものか、
孤児院の院長曰く、ずた袋に入れられてゴミ箱に捨てられていたそうだ。
とはいえ、覚えてもない話なので悲劇だと落ち込むことはなかった。
そんな感傷なんて知らないし、
現状ですさまじい暴力を浴びていたのでそれどころじゃあなかったという順番だったし。
住まうところは変わっても頭上の風景はさほど変わらない。
ヨコハマの夜を統べる真珠色の月光が今宵も冴えた色のまま地上へと降りそそぐ。
夜風もさほど冷たくはなくなったせいか、
本拠にてに与えられた寝床を抜け出し、ぼんやりと中庭で空を見上げておれば、

「ああ、キミか。こんなところでどうしたんだい?」

そんな声が掛けられる。
不審者だと咎めるような気色はない声だし、
それよりも以前の話で、気配を消さないまま歩み寄ってくれたことがそのまま
驚かすつもりはないよと言っているようなもの。

「月を見ていました。」

自分の生い立ちも負うた物もボク以上によくよくご存知だし、
誰よりも深い理解と擁護をくれる人。

「もう不安になることはないだろう?」
「はい。」

そうと落ち着いたのも、異能というものへの深い理解をもって接してくれたからだったし、
地獄のような環境下で獣のように扱われていた自分が
折り目正しく穏やかな気性の、俗にいう“いい子”に育ったのも、
周囲からの口撃からも緩衝材となって防いでくれたおかげであり、
なんだい?と目顔で問うてくれるそれは美麗な風貌のこのお人、太宰さんには感謝しかないボクだった。





  片手片腕で軽々と掴み上げられようほどの
  それは ちんまい子供が、月夜には我を忘れて巨躯の獣に転じる


不思議で強靱な異能力を持つ子供のうわさを聞きつけ、
孤児院まで拐かしに来た現首領に引き取られたのが もう何年前となるのやら。
獣へ転じた見目へも不気味とは思わず 何て美しいとお褒めくださった首領だったが、
簡単な会話と暴力による服従という調教しかほどこされてなかった身だったため、
そのまま世話と教育を任されたのがこの人で。
まだ十代の身なのに面倒なと、話が来たときはやや不服だったそうが、
引き合わされた場ではそんな気色など欠片ほども見せなんだので知らなかった話。
こんな可愛い子なら話は別だよなんて仰せだったが、
その実、では中也くんに頼もうかと話がスライドしかかったのへの反抗半分だったのじゃろうとは
やはり幹部格の紅葉さんがのちにこそりと教えてくださった真相で。
事情はともあれ、
学校も教科書も知らなんだボクに基本的な読み書きや礼儀などを教えてくださった人であり。
通り一遍な知識以上は周囲がさりげなく干渉に割り込んで制したので、
物事をいちいち折って畳んで裏返すややこしい童にならなんでよかったとは、
これもまた紅葉さんとその弟子にあたる中也さんの言いようだったが、

 暴力と恩讐の組織だとは随分とあとになって思い知らされたほど、
 そりゃあ甘やかされの大事にかまっていただいており。
 そんな捻くれたような人じゃあなかったように思うのだけど…。

だが、飄々と、あるいは冷然と任務をこなしておられたそのお人も、
首領が構えたとある計略を先読みした末に堪忍ならぬと憤怒され、
犠牲となって消されるところだった親友であるお人と共にマフィアを抜けてしまわれた。

 『このまま私がこの陣営に居残っては、ヨコハマの均衡を保つ“三社構想”が偏ってしまう。』
 『太宰、本音は?』
 『ロリコン中年の一人勝ちなんて許せない。………はっ。』

 いやいや、人には本音と建前があってだね。
 良いんですよ太宰さん。本音が聞けて嬉しいです。
 敦く〜ん。というか織田作、なんてことを言わせるかな。

共にいかぬかと誘われはしたが、
殺戮しか知らない自分では陽の当たる社会に出ても何も出来はしなかろうし、
こちらにも大切な人がいっぱい出来てしまったボクには離れることは出来なくて。
そんな応えを返したボクに一瞬驚いたように目を見張り、
そうか大切だと思うものが出来たのなら無理は言うまいよと笑ってくださった、
どこか掴みどころがないままながら、最後まで師であられた人だった。
五大幹部という地位にいらした人なので、
単に行方が知れぬでは済まされず、徹底的に捜索が為されたものの、
首領はコトの流れや何やもお察しだったようで、
身近な存在だったボクや相棒だった中也さんにも
聞き取りとちょっとだけ監禁された上での家宅捜索といった型通りの取り調べはあったが、

 『あの悪魔のように頭のいい子がそうそう手掛かりを散らばらせていなくなりはすまい。
  そんなことをしたところで、我らの内部分裂を誘うか手間取る隙に少しでも遠くへ逃れるだけだ』と、

合理的な道理を説かれたうえで探索は打ち切られ、
幹部級の面々へは改めて、
かつての龍頭抗争の折や先代の急逝の折を思い出し、
結束を固く取り結ぼうではないかとの沙汰が降り、
それがそのまま咎めだてはなしだという公言ともなったようだ。






 「…ところで敦くん。」
 「はい、何でしょうか。」
 「これを機会に、私の呼び方、ちょっと変えてくれないかな。」
 「はい? 不敬だったでしょうか。」

こてんと小首をかしげると、
何とはなく察したのか、まずは紅葉様が和装の袖口でご自身の口元を覆われて。

 「いやいや、そういうわけじゃあないんだけれど。」

口を濁される首領だとあって、
ちゃんとした事由がないと不敬かもしれぬと思うたか、
頭を垂れたまま詳細を口にした少年で。

 「ボクはこの凡庸な容姿ゆえ、情報収集の潜入任務も少なくはありません。
  そのような折などに つい身内の方として口にしてしまうと、
  周囲の人間がそれってどういう人?と訊いて来るよ?
  キミは天然さんだから日頃から慣らしといたほうがいいよと言い諭されたのですが。」

決して“凡庸な容姿”ではない、むしろ繊細可憐に端正でそりゃあ目立つ風貌なのだが、
そんな佇まいなところが、清廉潔白、躾けも行き届いての正直に育った少年に見えるがため、
一般人の中に紛れる潜入に引き出されるのであって。

 「そうか、そうだよね、引かれるよね。
  うんうんいいよ、好きにしてくれて。」

 「判りました。では今日の報告は以上です、親方。」

途端に.

 「「「「…っ。」」」」

周囲に居合わせた面々が
首領の異能である手児奈のエリス嬢や
過去を均して情を許してくれる現首領の補佐を務める紅葉や、
首領に絶対の敬服を向けている中也までもが
怒るより先、何ともあっけらかんとしたやりとりへ
吹き出しかかるのを必死にこらえたのは言うまでもなかった。
きっと太宰がそうと吹き込んだに違いなく、
天然な白の死神が素直に受け入れたもの、覆すのは面倒だろうからと、
例外中の例外として、そのままで通されたのもまた言うまでもなかったのであった。


 なぁんてお話をふっと思いついたのですが、どなたか書いてくださいませんかねぇ。
 ちょっと敦くんが淡々としすぎてて、私の大ふざけな書きようでは無理があるような…。





     〜 Fine 〜    20.06.21.




 *原作様はもとより、ウチのどのシリーズともつながっとらん突発もので、
  最後のやり取りが書きたかっただけです、すいません。(笑)
  首領と書いてボスと読む、
  どっちにしても一般人が使う言い回しじゃありませんので、
  だったら『親方』と呼ぶといいよと要らんことを吹き込んだ罪な人。
  微妙にB―ストでもございませんね、こりゃあ。
  とはいえ、武装探偵社に逃れた太宰さんが鶴見川を流れてくのを助けるのは、
  芥川くんという運びになるのでしょうかしら。
  織田作さんではなく太宰さんから砂色外套を継承され、
  エビの養殖の仕方とか学ぶのでしょうね。(それは わんのネタだ) 笑
  未来は誰にも判らない。(こらこら)




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