銀盤にて逢いましょう


□ナイショの秘密vv
1ページ/1ページ



初対面でありながら互いをようよう知っていたという顔ぶれだ。
人より抜きんでた容姿風貌、そこへ加えて人品も優れていての注目されている人物たちだから…という
通り一遍な意味合いからのことじゃあなく。
ややこしくも超常現象がらみのミラクルな話になるが、
前世だか他の世界線だかで共に過ごした記憶を互いに持ち合わせている間柄だから。
いい意味でも悪い意味でも知りすぎていることが、
便利かといや…それがそうでもないのが人間関係のややこしいところ。
それの最たるものといっちゃあ本人たちには失礼かもしれないが、
くっついたことに納得しつつも
あれほど犬猿の仲だったのに?と小首をかしげる人も少なくない、そんな お二人これ有りて。


  プロポーズは太宰からだったそうで。


前世では同性だったがそれでも人性は認めていた。
外見も内面も一線級の存在だということは判っていた。
風貌は身だしなみ以上には構いつけぬ気性ではあったがそれでも見目麗しく、
身長がちょっぴり残念だったが…それを補って余り過ぎて もう何人か分になりそうなほどの
人格としての内面の豊かさがあったので問題はなかった。
行動は脳筋のそれだったが意外と様々なことへの造詣も深く、
文学や絵画などへも任務の糧になったからという以上の関心もあったようで。
会話への含みもなかなかに洒脱で、くわえて察しも良い。
誇りというものは高かったがだからといって権高ではなく、下の人間への面倒見も良い。
そのため人望もあって、独りでいると意外だなぁなんて思われることもしばしばだったほど。
かといって孤高が似合わぬ性ではなく、近寄りがたい空気を孕んでグラスを傾けていることもあり。
生い立ちの詳細を知られていない幹部は珍しくもないが、彼の場合は特に格別の“秘密”を抱えていたがため、
そんな顔をすることだってあったのは致し方ない

 ……というところまで知り得ていた身であったのが太宰であり。
 そうまで色々知っていてもなお、対し方は手痛いそれであり続けたワケで。

前世でも中也が桁の違う出来た人間だってのはようよう承知していた。
でなければ対等な相棒という把握は出来なんだし、
そんなグレードの存在がこっちへ躍起になって噛みついて来るのが楽しくもあった。
どうでもいいレベルの手合いは意識する前にスルーしていたこの自分が、
故意に煽って怒らせては噛みついて来いと挑発していたのだから、
裏返せば相当な度合いで関心を持っていたし認めていたということになろう。
何もかもあっさりと理解出来、行きつく先も読めた自分には娯楽が少なかったから…なんて、いやらしい解釈をしていたが、
実のところ、そんな言い訳が出てくる辺りも、ままそういうことだったんだろうなと今なら判る。
そういう稀有な存在が再び目の前に現れて、
しかも何ということか、外見も内面も相変わらずそれは蠱惑的であったその上、
もう一つ言うなら…この世界線のご時勢だと もしかして誰かの所有となりかねない“異性”だったのが地味に堪えた。
悪ぶってる手合いなら誰ぞの人妻だろうが情婦であろうが関係ないなんて言い張ろうが、
そういう次元の話で感じたそれじゃあない。
ますますと男尊女卑的な言いようになるかもしれないが、
誰ぞが手をつけているなんて許せない、自分が独占したい、
笑わせるのも はにかませるのも、はたまた怒らせるのも自分でなあきゃあ厭だと、
最後の方はどこのジャイアンかというくらいの我儘なエゴイズムが発動し、
何にも関心なんて持たなんだ自分が、それまでの空虚を枯渇に置き換えたかのように、
彼女を独占したいと切望した。

 「そんな風には見えませんでしたけどね。」
 「だって癪じゃないか。」

うかうかしていると誰かに掻っ攫われること間違いないと、
私が感じたほどに、少々危なげでもあったしねと
はい?と敦ちゃんが小首をかしげた言い回しをした策士殿。
危なっかしいかなぁ、中也さんしっかり者だのにと怪訝に思ったのへは、

 『そこは同類だから気がつかなかったんじゃない?』

同世代の顔ぶれが周囲に多くいたが、主にはお傍衆のような人たちばかり、
なので対人における警戒心の薄さは深窓の令嬢級で、近づく相手へ疑りの目を一切向けない敦嬢なので、
誰へでも無防備なまま人懐っこいところが
特別な情を持った人にしたら居たたまれなくなるほど不安でもあったんだよと、
のちに谷崎さんから言われていたようだが…それはさておき。
表向きには そういった“お傍衆”のうちの一人、
陸州の虎の秘蔵っ子のためにと集められていた参謀たちじゃああったれど、
実は実は 裏世界にも伝手があり、危険な駆け引きにも蓄積豊富という、
大御所様の隠密組にいた“極者(きわもの)”だった太宰が、
だっていうのにたった一人の女性にこうまで振り回されているのは、
そっちの古参の皆様にも意外や意外な状況だったようで。
これでもかなり焦ってもいたのだよと、
飄々としていつつも内心は恐々としていたらしいが、
ほんの近日、やっとのことで想いを通じ合わせることができ、
割と判りやすくも聞いて聞いて状態でいたのが何とも微笑ましい…を通り越して鬱陶しかったそうで。(笑)
それが落ち着いてきたかなと思った矢先、敦へと持ち掛けられたお話というのが、

「たださ。どこが良かったのかって訊かれて、顔だってあっさり言われたのはちょっと複雑で。」

そりゃあ、性格も何もかもいい加減というか問題ありなのは自覚してるけどさ。
身を置いてた世界とか、自分で築いた鎧みたいな防御の関係もあってのことだのに。
太宰治といや顔だろうと、いとも簡単に言われたんだよねぇなんて、
そんな風にそりゃあ判りやすい愚痴をこぼされたので、

「前の人生の何やかやは関係ないとはいえ、
 それでも多少は影響もするんじゃないでしょか?印象ってところで。」

虎の子ちゃんとしては、それは無邪気に言い返す。
だって敦ちゃんもようよう覚えているもの、
この眉目秀麗、長身で体型もモデル並みで所作も麗しく声までもが甘くて艶っぽい、
どこをとっても二枚目イケメンでしかない男がどれほど女たらしだったかとか。
国木田さんや中也さんをからかいまくってた様子と共にそれはもうくっきりと覚えているだけに、

「その辺もあってのことならば、立派な自業自得じゃないですか。」
「あああ、敦ちゃんたら容赦ない。」

泣き真似なんかしてお茶していたカウンターに突っ伏した彼だったものの、
そんな態度こそ誤魔化しだろうなというのはさすがに虎の姫にも察しがついた。
茶化しておかなきゃやってられないというか、
ああこれって 何%かは本気で痛かったんだろうなと、
それこそ付き合いも長いので何となく察せられた白虎ちゃんだったとか。


「でも、中也さんが人の見た目に惹かれるというのは、
 太宰さんの傷心はさておいても、正直何か納得いかないんですよね。」


審美眼が優れているというのは悪いことじゃあないし、
好みというのがあってそれへばっちりと嵌ったのなら、
いわゆる一目惚れというのへなだれ込むこともままあろう。
性格や人格がちょっとおろろんでも
それを補うほどに…そんなものは些末だと思うほどに惚れてしまって
結果、その足りないところや破綻しているところが原因で
思わぬ事態に巻き込まれ、振り回されてしまうというのは古今東西よくある話だし。

 ただ、

それはしっかり者だし、人でも物でも内面までちゃんと見通して把握できる、
何というか人格の深みも持ち合わせておいでな女傑の中也が、
そんなあっさりと顔の皮一枚のことへグイッと惹かれるかなぁ、プロポーズ受けちゃうかなと。
太宰さんが聞いてたら自分をどう思っているのかとか、物には言いようってのがあるよネとか、
いろんな意味から本気で泣くかもしれないお言いようで、後日に本人様へと尋ねたところ。
スタンドカフェの一角、お揃いのカップを手にしていた美人様、
蒼宝珠のような双眸をぱちくりと瞬かせてから
ちょっと視線を泳がせたのも数瞬のこと。
そんなして迷ったのは、本心は言いたくないからか、
具体的な形にまではしていなかったからか、それとも言葉を選びたかったからか。
そんな視線が観葉植物の葉から再び愛らしい白虎の姫へと戻って来て、
しばし凝視してからクスンと微笑ったのが何とも印象的であり。
どんなお返事が返って来るかと思っておれば、

「手前はどうなんだ?芥川の何処に惚れてる?」
「え?」

間柄じゃあ似たようなもんだ。手前も前世じゃあ殺されかかったような間柄だったろうによ。
信頼し合ってたと言ったって色恋沙汰のそれじゃアなかったはずだろうに、
今じゃあ夫婦としてのつながりさえ構えてるなんて、
よほどのこと義理や何や以上に惹かれてないとあり得ねぇんじゃあ?

と畳みかけられてしまい、

「えっとぉ。////////」

まさか我がことへ跳ね返って来るとは思わなんだか、あわわと焦った虎の姫。
アメジストの紫と琥珀が入り混じった、こちらさんも宝石みたいな目をせわしなく泳がせる。
日頃はそこまで深々と考えてはいなかった、相変わらずに寡黙な婚約者のことを思い浮かべてみて。
岡惚れしている相手の何を思いついたのか、口許がうにむにとたわんだところなぞ判りやすくって。

 あの切れ味抜群なクールなそぶりは建前というか誰も寄せないぞって姿勢からのことで、
 実際はといや、懐に入れた相手へは優しいし、
 不愛想なのはただ単に不器用だからで、そこが可愛いと思うからっていうか…

「それは本人へは言えなかろうよ。」
「…ですよねぇ。」

どこがどう好きだという本当のところなんて、しかも本人を相手になんて恥ずかしくって言えやしない。
成程、ということは…と自分になぞらえて、
それにしてはえっへんと胸を張ってるお姉さまの代理のように耳まで赤くした敦ちゃんだったが、

ましてや、盗聴器とか呼吸するよに使う相手だし。
いやまあそれは今はやってないと思いますけど。
どうだかな。最近のは性能も良いらしいしよ、

そうと続いた会話は、
前世と変わらないんじゃないかってやっぱり警戒されてますよ、太宰さん。


     〜 Fine 〜    22.03.28.





 *ちょっと思いついたネタがあったんですが
  さあ書こうと思ってPCのメモを開いたら書きかけてたのがあったので
  ちょみちょみと書き足してみました。
  突貫ぽくて短いのはどうかご容赦を。
  思いついた方のネタはまた後日。





前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ