銀盤にて逢いましょう


□昔取った杵柄?
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さて、現場のもーりんです。(こらこら)
じゃあなくて

 「何でキミらが居るの。」

特殊警棒を振りかざし、惚れ惚れするよなジャンプ一番、
賊へと殴り掛かる気満々だった、恋人兼 ハマの特攻隊長さんを何とか制し。
10人近くはいた相手を次から次へと取っ捕まえると手際よく縛り上げ、
こちら陣営で通報したのがやっと駆け付けてくれた所轄の警察に 襲撃犯らを引き渡したところで。
改めて鹿爪らしい表情を構え、
危険な真似をしてという方向での意見をしたかったらしい太宰だったが、

「キャ〜ン、来てくれたんだ嬉しい〜vv」
「…敦クン。」

彼女も実をいやぁ、谷崎さんが止めるのも聞かず、
危険な輩どもに追わせるだけ追わせた挙句、
自分で賊らへ飛び蹴り食らわすつもり満々だったらしいのに。
そんな連中が何やら投擲しかかるのが当たるのを防ぐため、
狭間へ謎の天幕をそれは鮮やかに広げてくれた救世主な黒の貴公子さんへ。
自分たちが投げた塩ビパイプの切れっ端だの壊れた南京錠だのと共に降ってきたお嬢さんに
それは軽やかに踏みつぶされた小悪党なぞ知ったことかと置き去りにして。
いかにも女子高生らしいはしゃぎようで、嬉しそうにカレ氏へ飛びついているお声がBGMでは締まるものも締まらない。
多少は怪我しても仕方ないかなという気構えが前世と変わらない困った白虎ちゃんだが、
今は当時の異能はないのだ、本当に無茶は控えてほしいというに。
妙に運動神経が鋭いことが仇になり、気が付けば飛び出しているそうなので、
そのうち国木田さんに首根っこ押さえられ、どこかの道場へ精神修養の修行に出されるやもしれないと、
冗談抜きに検討されてもいたほどで。
しかも、無邪気に抱き着いてくるお嬢さんを、多少は照れつつも受け止めての

 「無事だったか? 無茶ばかりして…怖くはなかったのか?」

それは優し気な口調で穏やかに諫めている誰かさんだったりするのが
彼の人の前世もまた思い出している北国チームにとっては ずんと意外や意外な有様で。

 「敦クンも結構変わったと思ってたけど、芥川クンも丸くなったねぇ。」
 「いんや? 敦以外へは前と変わらん不愛想冷徹男だぞ?」

この綺麗すぎる顔を凍らせたまんまで
ファンのエールや取材記者からの声掛けにも手ぇ挙げる程度でまあまあ口利かねぇったらと、
太宰からのお説教を放り出してのそちらへ応じる中也嬢なのへ、

 「こらこら、お嬢さん。」

だーかーら、敦くんに限った話じゃあないんだよ?
無事だったからいいって話じゃないよね?
昨日までそれで無事だったから きっと明日も大丈夫なんてな、
冷蔵庫で見つけちゃった古いハムと同じような話じゃあないよね?と。
人の話を聞きなさいという憤懣から、かつては逆だった構図で
それは麗しきご尊顔はそのままに 随分と怒っておいでののっぽな参謀様。
とはいえ、

 『うん。こういう動向はウチへも連絡してねって中原さんから頼まれているのだよね。』

逗留先まで送ってくれたあと帰ったはずの中也や芥川が、
助っ人として途轍もなく良い間合いで修羅場に駆けつけていたのは、
怪しい動きをする連中に気付いた横浜陣営からの緊急通達があって引き返していたらしいのと、
一応の用心、誰かさんの動向をチェックしていたトランジスタグラマーな姐さんだったかららしく。
その手配の一つとされていたらしい名探偵が 後日にけろりと言ってのけた弁によれば、

 『だって太宰って独断先行どころじゃあない“潜行”もやらかすじゃあないか。』

なかなか尻尾を掴ませない奴だけど 貴兄なら嗅ぎ取るのも予想するのも容易かろう、
今日からしばらくほどは ほいと会える距離だから
作りたてのオペラとかチーズケーキをお礼に渡せると思うとまで言われちゃあねと、
屈託なく笑った乱歩さんだったので、

 『手前だって似たようなもんじゃねぇか。』
 『……うう。』

叱ろうと構えた相手からも呆れられ、太宰氏も唸るしかなかったらしい。

  まま それはさておき。

今回の騒動の真相はといえば、と、
逗留先のホテルへ皆で向かって、飲み物など用意し落ち着いたところで、
敦嬢が髪に飾ったままだったティアラを苦笑交じりに視線で示した太宰が言うことにゃ、

 「ああ、そのティアラが目当ての強奪未遂でね。」

警察からの報告を待つこともなく、
トラブルシューター、別名 “もめごと処理請負人”なることを手掛けてもいる太宰らが
怪しい付け馬の気配に感づき、
自撮りの端っこなどへ写り込むようにしてさりげなく撮った写真やら
持ち物のデータやらの情報を集めてざっと調べたところによれば、
相手は単なる窃盗犯じゃあなく、産業スパイ系の組織だったようで。
褒めて言うのじゃあないが だからこそ情報も早く、
公開していなかったはずの敦らが宿泊先としたところも迅速に突き止められたし、
一般のホテルに比すれば結構堅固なセキュリティも ちょちょいと破って潜入する手法は知ってたらしかったが、
あの乱歩と太宰を抱えている陣営だけに、そこいらは自分たちの張った警戒網でとっくに察知していた北国チーム。
ただ届けて逮捕としただけじゃあ 懲りないまんまに手先の輩が入れ替わるだけかもしれないし、
何より表沙汰になれば些末な関わりしかしてはないところにまで何が波及するか判らない。
力がない人の泣き寝入りじゃあなく、そういうところまでもを織り込み済みな上で、
早急に後腐れがない解決を優先し。
事件自体は届けたが、どうやってというところは
もうもう怖くて慌ててて、つい手荒に振り切っただけとか抵抗しただけで収まるような、
向こうも武装していただけに つらつらと詳細までもは証言出来ぬだろうことも踏まえ、
けた外れな荒事で早急にとっ捕まえたという次第。

 くどいようだが章もあらたまったのでもう一度。

中島敦嬢といえば、清楚純情そうな愛らしい風貌と、
それは鮮やかなジャンプをさくさくと決める演技とで人気のフィギュアの選手だが、
その素性を軽く掘り返すと実は恐ろしい肩書にぶち当たるお人でもあって。
今時微妙に問題になりかねない“反社会”系の、それも結構な大物とよしみがあるよな無いような、
北海の何とかと呼ばれておいでの伝説の任侠系大御所を曾祖父に持つお嬢さんなため、
それを逆手にとっての下手な脅しすかしという行為を吹っ掛けようものならば、

  警察よりおっかない人たちに関係者一同ごと捕まえられて、
  弁護士も人権もないまま 有無をも言わさず東京湾に沈められちゃうかもしれないという
  何処までが都市伝説か、もはや判らないバックボーンを抱えておいでで

血なまぐさい方々との縁があるの、間違っても積極的に利用なんてしちゃあない。
むしろそんな方々から目を付けられるより前に微罪で逮捕されるよう、
庇ってやってる格好なんだから感謝されたいくらい。
とくに内緒と構えずとも、マスコミ陣営でさえそこいらの分別は働いてのこと下手に突々かないし、
怖いもの知らずでついでに世間知らずな手合いがうっかり探ろうとすれば、
かなり上層部からの待ったがかかって説教のための監禁、もとえ缶詰にされるというのが
暗黙の裡に定まっておいでで。
その伝で言うならば、
〇〇子ちゃんとやらがそのまま持ち帰っていたら、何も知らないまま怖い思いをしていたろうねと、
人の良い顔ぶれは同情的な物言いをしていたが、
それへもケロリと乱歩さんが指摘しての曰く、

 「その〇〇子ちゃんとやらも仲間内のようなものだったんだけどもね。」
 「え"?」

だからというか何と言うか、
彼女にも箔が付くし、何の支障もなくお宝は賊らの手へ渡るしという手筈だったらしいものが、
どこで齟齬が挟まったのやら
想定外のお嬢さんの手へ渡ってしまってのこの騒ぎ。

 「予定というか目論見では、
  新人女優の〇〇ちゃんが受賞するんじゃないかってことだったので、
  それでってあのティアラにデータを仕込んだマイクロチップを貼り付けてたらしい。」

ところがところが、
審査員たちの間で急に意見が分かれ、最終決定会議でそんな見越しが引っ繰り返ったようで。
そこらへんは今回の騒動には関係のない、派閥同士の衝突みたいな、
関係者の誰それさんへの不倫がらみの何とかかんとかとか、
次元も畑も関係のない背景あってのことだったようだが。
だからこそ、犯行グループには予測も出来なきゃあ急転直下の変更に何の手も打てなかったらしく。

 「アイドル級に注目されていても、
  ただのスケート選手だから警備も行いにも隙も多かろうとか、
  何となれば反社会系の伝手があることを表沙汰にするぞと脅してやろうとか構えてたらしいけど。」

ハハッと嘲笑うように短く笑った中也からの報告に、
あ〜あ〜あ〜と、そう来るつもりだったんか浅はかなという返しをしてしまう北方陣営なのもいつものことで。

 「そんなややこしい搦め手にするからこうなったって、是非とも学習してほしいねぇ。」
 「あれでしょう? 一枚咬ませたことで縁をつないでやったと、
  お互いが相手へ恩を着せたつもりになって提携広げるのも兼ねてたとか。」

異業種間での提携なんて所詮どこかで破たんするのにねぇなんて、
大人の皆様がこむつかしいお話をしている輪からそそそッと離れた白虎のお嬢さんだったのへ、
彼もまたそちらにしか関心はなかったか、黒の貴公子様があとを追い、
赤毛の姐様のスマホへ

 【 館内のパーラーに向かいます。】

とのメールが届くところなど、なかなかの行き届きっぷり。
パパラッチによるよな館内での盗撮の恐れはなかろうからと、
特に注意するよな文言は返さなんだが、

 __ あとから私たちも向かうって伝えといて。

パパパッと素早くこちらの手の甲へ指先で伝えられた暗号に気付く。
隣り合って腰かけていた包帯男からの伝言で、
前の生で相棒を組んでた頃に、色々な作戦コードを生み出したそのついで、
目配せでは伝えきれない情報量があるとき用にと、
モールス信号とも違う手法で誰にも読み解かれぬ暗号をと考えたそれであり。

 “アタシが忘れてるとか考えねぇのかよ。”

言い返せば覚えていることへの肯定になる、だがだが、知らん顔は大人げないかも。
中也がむむうと口許をとがらせるの、いやに嬉しそうに柔らかく微笑って受け止める太宰であり。
ふわふわと柔らかそうな赤毛にくるまれたお顔の拗ねたような表情もまた、
瑞々しい愛らしさ溢るるお嬢さんなの蕩けるように見つめやり、
深色の双眸をたわめることで、長い睫毛が蓋するようにけぶらせて、
それはもうもうしっとりと麗しい笑みだったそうで。
手話のようなもので意思疎通をする二人なのへは、
居合わせた顔ぶれが皆、見ないふりをしつつ…ちょっと萌えていたりしたそうな。



   〜 Fine 〜  20.06.03.〜 06.14.






 *異能がなくとも大暴れしてしまう、困ったお嬢さん方です。
  異能がないともっと困ろう立場のはずだった相棒さんたちは、
  それぞれなりに心身鍛えておいでなようですが、
  選りにも選って、色々な意味合いでパートナーさんたちから受けるダメージが一番大きそう。(笑)



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