短編

□HAPPY HALLOWEEN !
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     3


晩秋の街角は、舶来の祭りに便乗したコスプレもどきが行き来していて、
飲食店の行燈看板やら、イルミネーションを眺めてそぞろ歩む人の波がちょっと窮屈そう。
本来はちゃんと理解した上でのホームパーティーを開くなりするような行事なのだが、
そこまではご存知ない和の国の人々には、せいぜい真似っこするところまでしか把握できてないらしく。
同じように仮装した人がたくさん集うところに行けば何とかなるだろうなんて
浅い考えで集まっているのが何とも危なっかしい。
混乱から揉め事が起きないかを警戒しての見回りを任務と課されていたものの、
こうまで無秩序な場では何が引き金になるか判ったものじゃあなくて。
現につい先程も、不意な放電現象から人々がパニックを起こしかかったのを目の当たりにしたばかり。
人混みが唐突に濁流になりかかっていた雑踏もいつの間にやら落ち着きを取り戻しており、
今のところは穏やかな宵の空気が流れている。
混乱の当事者さんたちは、やはりというか太宰の付けた見当通り、
異能特務課が段取りつけて当地へ招いたらしいご一家で。
外交官ルートをたどり、恐らくは何かしらの取り引きもくっつけて受け入れたんじゃないかねぇと、
大人の事情まで見透かして、
呼び出しに慌てて飛んできた担当の係官さんにくっ付いて彼らを送ってゆくと立ち去った。

 『この子、借りてくからねvv』
 『え?え?え?』

居合わせたままだったところの誰かさんの、細い肩を余裕で捕まえて掻い込んで、
それはにんまりと笑っていられた先達だった辺り、
黒ずくめの遊撃隊長さんまで同伴させた事こそ、真のお目当てだったらしく。
私的なつながりはともかく、直接の上下関係とかいう発言力はないはずの身だったが、
それこそ何を今更という関係ではあり。
何より、頭の回転がずば抜けている御仁、
どこからどういう理屈を持ち出すやら、予想もつかぬほど面倒臭い相手だと、
此処に居合わせた全員がようよう悉知してもいて。

 『どう食い下がったって無駄だろうからな。』

ご夫妻を最初に見つけたという“事の次第”により、彼らとしては頼りにしている感もありありしていたため、
マフィアの人間が付いてくのも何だろうから、
内務省関係者への手形になってあげましょうという大義名分をちゃっかりとひねり出したのであり。
相変わらず 目的のためなら手段を選ばぬ…というより、手段のために目的を持って来ちゃった恐ろしさ。
実は指名手配犯の芥川の保証人のような格好でついてった太宰こそ、
油断のならぬ魔性のものかも知れねぇよなと、カラカラ笑った中也だったりもして。
本当ならそんなお馬鹿な段取りに部下を引きずり回すなと制すところだったろに、
芥川の側からも憎からず思う相手なのはようよう承知。
よって、ぐだぐだと言い負かされて時間の浪費をするよりもと、
とっとと白旗上げて言うとおりにしてやった方が合理的だろと、
内務省の係官と共に立ち去るの、見送ってやったマフィア側の責任者様だったという運び。
手っ取り早くそうと運ぶようにと、言葉添えは少なかったが尽力した中也だったことへ、

 “どうしてこの人は…。”

マフィアなんだろうと常々思う敦だったりし。
人の世は様々に事情が錯綜していて、正道や正論を貫くことは結構難しい。
社の先輩である国木田さんなぞ、
間違ったことは言ってないけれど、そこまで曲がれないと壁にぶつかってばかりだろうなと思うほどで。
まま あそこまで融通が利かないのも極端な話だが、
そんなもんだというのが判って来ると、
正しい人が なのに傷つくような世の仕組みにむかつくことも多かりしで。
力さえあれば、要領ばっかの悪い人たちを黙らせることが出来る…なんていう、
どこかで本末転倒な仕組み、いつの間にか“そういうものだ”なんて認めている自分が居たりする。
人がどんなに弱くて傷つきやすい存在か、
そんな悲しい現実をこのマフィアさんは重々知っており。
なのにそれへと諦念で接することはなく、
たまに敦が子供っぽく駄々をこねて粘ったり、譲らなかったりするのへと、
苦笑交じりに降参してくれる人だ。
さすがに、マフィアとしての任務では譲ってくれないが、
だったらだったで力の差を見せつけて、
悔しいなら強くなりなと、思い知らせる役回りに立ってくれるし、
何十回に何度か、ギリギリの競り合いの中で一矢報えた折なぞは
潔く “参った参った”と手を引きもするほどで。

 『そもそも中也は甘いからねぇ。』

太宰さんに言われなくとも知っている。
裏社会の人間と仲良くなってもいいことないぞと、突き放す気満々だったのへ、
一緒に居たいのだという子供じみた駄々をこねてしがみついたら、
しょうがねぇなと渋々飲んでくれた人だもの。

 「? どうした?」

雑踏の只中にいたのでは対処に駆け出せまいと、
この時間では閉店となっているブティックの並ぶ、中二階の通りまでを誘ってくれて。
そこのバルコニーのようになってるところから人々を見下ろしていたが、
ふと敦が黙り込んだのを気に掛けてくれたマッドハッターさん。
こちらを見やる、どこも取り繕ってないそれは綺麗な風貌が、
上辺だけじゃあない、しっかり芯が通っていての強靱な美しさなのだと、
知っているからこそなんだか眩しくて。

 「亡者が徘徊する夜、なんですよね。」

先ほど出会った異国の親子も、何も悪さはしてなくたって人目を避けて生きねばならぬ。
迫害まではされずとも、誰かに利用されかねず、
はたまた誰かの手に渡ったらまずいという勝手な理由から命を狙われるかもしれぬ。
そんな理不尽が、でも“しょうがない”と通用してしまう世の中で。
ああボクだって、何か悪いことしなくても殴られ蹴られて来たものな。
化け物だから駆逐されてもしょうがないのかな。
そうかと思や、懸賞金かけられもしたしなぁ。
人間の方がよっぽど魔物かもしれないなぁなんて、つい思ってしまい、
どこかしみじみした言いようをする敦なのへ、

 「…。」

中也は細い眉をちらりと持ちあげたが、
ふふんと笑うと、羽飾りのついた山高帽をひょいと持ち上げ、敦の頭に乗っけてくれる。

 「ここはヨコハマだぜ? 年がら年中 化け物が徘徊している街だ。」

異能がなくたってとんでもない悪事をはたらく爺もいるし、
ガキのくせに徒党組んで、カツアゲから強盗まで日常のようにやらかしてるワルもいる。

 「勘違いなら済まねぇが、純朴な虎なんてのは化け物のうちにも入らねぇ。
  ほれほれ、ごろごろって鳴いてみな♪」

 「わぁ〜〜ん。////////」

顎の下へと手を入れられて、こしょこしょくすぐられ、
慣れぬ感傷に浸ってたと、判ってて なのに揶揄う優しいお人へ、
もうもうもう、なんて男前なんですよぉと、
惚れ直したそのままむぎゅうッと抱き着いた子虎ちゃんだったのでありました。






   〜 Fine 〜   20.10.31〜11.16




 *お待たせしたその上、何だかグダグダになっちゃってすいません。
  いきなり風邪を拾ってしまい、
  ボックスティッシュ3箱消費する日々を送っておりました。
  それはともかく。
  beastもどきからのリハビリのつもりでしたが、
  どんな敦ちゃんだったか、中也さんだったかを思い出すのが大変で。
  ついつい他所様の彼らにひたってばかりおりました。(逃避ともいう)
  もちょっと落ち着いてから、精進し直しますね。
  


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