短編 2

□太宰という人
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あの人ほど何層も輻輳した人を他には知らない。

それは端正な風貌をし、長身精悍、
愁いを帯びた表情も淑やかに、
存在感もなみなみの、人の目を引くいかにもな美丈夫で。
所作事も優美で申し分なく、
物知りだし、繊細な気遣いも出来て、
低められると甘く響く、いいお声の持ち主でもあって。

そんなお人なのに、仕事へはただただ怠け者で、
日常もどこか掴みどころのない態度が多く、
書類仕事から隙あらば逃げようと構えるとんでもない人でもあって。

何より、自殺嗜好という大きな難点がある。
全身のあちこちに巻かれた包帯は、
自分で縄のわっかへ首を通したり、高い所から飛び降りたりを繰り返すことで出来た
怪我や傷の痕が山ほど隠れているそうで。
物騒な前職が明らかになったため、全部がそれのせいではないらしいとはいえ、
十代のころからのというから、治りがいいはずが でも残っているなんて、
よほどの深手をしまくった身なのだろう。

その前職としてポートマフィアに身を置いていた頃は、
ギリギリ在籍していたのがまだ十代だったと聞いているが、
裏社会の申し子と呼ばれるほどに黒そのものな存在でもあったそうで。
マフィアに為るべくして生まれた男、とか、
彼の敵の最大の不幸は、彼が敵だということだ、とか、
何だかさんざんな言われようをしていたらしいほど伝説の悪鬼だったとか。

 あんなにいい人なのになぁと、そこへ違和感を覚えるのは、
 ボクが未熟で単純すぎるからだろか?

飄々としているのは、何でも出来るし 大方こうなろうと見通せる余裕からだろうか。
人生の折々に起きること、突拍子もないことも含めての何もかも、
儘ならないものだと知って、なんて味気ないと感じてそれで、
生をつないでいたって面白くもなんともないと、
おさらばしたい人なのかもしれぬ。

 それでも…人助けをする探偵社に身を置いて、
 どんな危険な案件へでも、持てる叡智とその身を懸け、全力で掛かる人でもあって。

色々と判って来てからの見方をすれば、自分を大事にしない人だなぁと思う。
何となれば先読みできる危機へ、
他の誰かではなく自分が赴くような策を取る。
三者鼎立の騒動時には、Qの奪還にと得体の知れない異能者との直接退治の場へも赴いていたし、
その後の騒動でも、敵の懐中とか…魔人の出没先とか、手ごわいところにこそ出向いておいで。
その方が機転も利くし面倒がないからとか、
思い通りに運べるからという理論武装で返されそうだが、
それだって巧妙に仕立てられる人だろうに、生還率の低いことへ身を置くのはどうだろうか。

ちゃらんぽらんな態度をしても、揚げ足とるよな物言いをしても、
たまにじゃああるが すげなく冷たい態度を取って見せても。
そんな自分は嫌われた方がいいのだと
自分は幸せになってはいけないのだと、自戒自制しているその延長のように見えなくもない。

大切にしたい人がいるくせに認めたがらぬへそ曲がり。
不幸にしたくはないからと、大事にしたい人へほど素直にならず冷然とし肩を張る。
心を許せば甘えたがるのに、それでも我儘ぶって距離を取る。

 賢いのに不器用で、やさしいのにつれなくて。
 不幸が襲い来ても誰にも告げず気付かせず、唇噛みしめて独り耐える人で。

誰を欺きたいのか、誰を守りたいのか、
自分の柔らかいところを隠すため?
自分の大事にしたいものを守りたい?
そんな当たり前のことを、
だのにそれは巧妙に、自身の心の奥向きへと隠すよに抱え込み。
何ならうとまれてもいいと、誤解されて本望と、
そんな可愛げのない策をこそ念入りに仕組む人。

「自分で見込んで連れて来た芥川に、そりゃあひどい扱いをしていたのも。
 まだ未熟な十代のガキだったからというより、
 教育は勿論だが、組織内で悪目立ちしていた自分に懐けば、色々ととばっちりが向くから、
 そこも警戒してと構えていやがったらしくてな。」

組織への恩や義理なんてもの、考えてた奴じゃねぇだろうから、
それを思えば、なのに適当じゃあなかったのは何でかと考えりゃあ、
むしろ詰めが甘いってもんだがなと、中也さんが苦笑してらして。

やっとその懐へ掻い込んで眠れるようになった
それが芥川へも幸いなのだと判ってのことだろうが、
奴が “甘えたっていいのだ”と目に見える格好でやらかせるようになったのは
それこそ大きな進歩だなんて、
手の中のグラスを眺めつつ楽しそうに笑ってた中也さんこそ、

 凄いな大きな人だなと、

胸の底をじんわりと温めつつ、うっとり誇らし気に頬笑んだ敦くんでもありました。




   〜 Fine 〜    21.06.25.



 *場所とか不明の語り物になっちゃいました。極端から極端です。
  一応、ウチの設定が下敷きで、中敦で太芥です。
  配信動画で「抜錨」という歌への手描きMADを観まして。(榎本さん相変らず神だ)
  先のBD話で肝心な主役のはずがあんまり出番なかったですし、おまけというか後日談というか。
  だからってこの話もどうかですが。
  頭の良すぎる人は面倒臭いです。
  そこもいいのかもですが、素直になれる人は怖くて作れないのかも。
  作れないなりに、でも、ちゃんと理解しているぞって人がいてほしいので。





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