銀盤にて逢いましょう


□宵の逢瀬の…
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旧暦どころか今様のカレンダーでも夏の月に入ったというに、
なかなかいいお天気に恵まれず。
台風までやって来たがため 有名な花火大会が軒並み順延という憂き目に遭った。
しとしとと雨も多くて気温も上がらず、今年は冷夏かと危ぶまれていたはずが、
海の日がらみの連休が過ぎてから、
今度はいきなり いいお天気どころじゃあない“炎暑”レベルの真夏へ突入。
この年の最高気温とやらを連日のようにあちこちで叩き出し、
熱中症で倒れる人が続出という、ここ最近の桁外れな酷暑の夏がいきなり到来。
そうともなれば夏向けのレジャーもあちこちで話題に上り、
夏の初めのそれがポシャッた恨みも重なってか、
花火大会や音楽系フェスティバルなどが各地で華々しく開催されており。
港に花火は付き物か、ヨコハマの港湾沿いの各所でも、
観光客の客寄せだろう、様々な企画の打ち上げ花火大会が毎週末という勢いで展開中。

 『宣伝効果も高いから、協賛企業も多かろうしな。』

何せ貿易の主幹地としての歴史が深いので、
多少は胡散臭さでかぶる あれこれもなくはないけれど。
それでも 彼らにはお馴染みだったあのベースタウンとは違う。
かつての某所ほど きな臭くはなく、出入りに厳しい審査もあるような“租界”もない
ハイカラでお洒落な観光地という印象の強い土地だ。
ドラマやCMの撮影現場にもなるし、
中華街やらレンガ造りの建物、ブティック、輸入雑貨などなど
観るものも多く、
異国情緒も感じられるし、今時のトレンドも取り揃うため、
老若男女問わず 足を運ぼう、賑わいの街。

 「じゃあ、やっぱり変装してった方がいいのかなぁ?」

夏季合宿と銘打ったトレーニング、
北国の敦ちゃん陣営の地元にて合同で執り行っているヨコハマ陣営だったが、
そうそう行きっぱなしというわけにもいかぬ。
仕事がある身の顔ぶれは、有給取ったり盆休みをずらしたりして何とか都合をつけているが
それでも長々と滞在も出来ずで週末以外は出社しに戻らにゃならぬ。
学生や自営で儘の利く身の顔ぶれも、
家族が案じるのでとか、住まいが取っ散らかったままなのでとか、
各々もっともな事情から代わる代わるに地元へと戻っており。

 『今週末は夏コミケがあるし。』
 『まあそういう事情の奴もいようよな。』

ウチはあくまでも任意参加のNPOみたいなもんだし…じゃあなくて。(おいおい)
潤沢な資本から供される快適な施設に食事、気の合う連中で過ごす 気の置けぬ生活、と。
主力選手へのフォローは勿論のこと、
食う寝る遊ぶ、どれにおいても至れり尽くせりな夏休みが送れるので、居残りたいのは山々なれど。
仕事や家族や知己を持つ、一応は真っ当な身の上な皆様なので、
そちらの繋がりや柵もケアせにゃならぬ。
判りやすい話として
あんたNゼミのレポート出したのか?とか
店への義理はどうでもいいのか、配送待ちの荷がたまっとるぞ?とか
バイトいなくてよ、帰ってきてくれね?等々という呼び出しに応じて、
こまめに地元へ戻っている面子が出るのも致し方なく。
そんな行き来を見やってた敦ちゃんが、ぽつりと

 ボクもヨコハマに行ってみたい、と言い出した。

かつての記憶がもじょりしたというよりも、
ヨコハマサイドの皆さんの話を聞くうち、
合宿中なのは判っているけど、でもでも夏休みなのにぃと
十代の女の子としての好奇心が突々かれたというところだろう。
こういうところは前世の“彼”には無かったところだが、だからこそ…聞いてやりたくなるから不思議。
我儘言わないで頑張ってた健気な子。
ちょっとヘタレで及び腰なの、てぇいとイラッとなった場面も結構あったが、
ここ一番というところじゃあ凛々しくも顔を上げ胸を張り、
ちょっと待てと制した手を振り切って無茶もした。
いつだって正念場に駆り出されちゃあ、ぼろぼろになっても踏ん張って頑張って
私たちを捨て身で守ってくれた勇者でもあったから。
こういう可愛らしい駄々を言うのが微笑ましく、叶えてやりたくてならない。
中也が戻ることにしている週末に、丁度 港の祭りも重なっているので、
その折に一緒に上京すればいいということになった。
盆にはまだ早いので、だからこそ交通機関もまだ混むまいし、

 『護衛付けるとか大仰に構えなくてもいいんじゃないか?』

著名人へ寄ってたかってするのはダサかろと構える層が
首都圏界隈に次いで多かろう、横浜近郊での外出で。
敦ちゃんのちょっと変わった髪色やらも、
そういうファッションが結構浸透していよう都心に間近い地なだけに
奇抜さではそうそう目立たなかろう。
夏真っ盛りでフィギュアスケートの話題は季節を外しているので
案外と忘れ去られている可能性が高いうえ、
人でごった返しそうな賑わいなれば、
有名な芸能人だって、イベントに出演とか はたまたお忍びという格好で
多々お出まししていようから、顔も差すまいという好条件下。

 『それこそ、他の十代の子らと同じように、浴衣来てはしゃいでいればいいんじゃね?』
 『わ、それ嬉しいvv』

可愛らしい更紗のブラウスや涼やかなプリント地のワンピースを実は買い揃えており、
おめかしして街歩きもしたいし、今話題のスイーツとやらも堪能したいと含羞むのへ、
じゃあアタシもエスコートしてやるし、花火大会では芥川と浴衣で出りゃあいい。

 『こちとら地元民だぜ? 穴場も知ってる。』

だから、顔が差すとか ぎゅうぎゅうに揉まれるかも知れないなんて案じなくていいと、
サムズアップ付きでハマの姐御がそれは頼もしく請け合ってくれたのへ
嬉しさ余った白虎のお嬢さん、“わぁvv”と諸手で飛びついたほどの喜びよう。
何とも微笑ましい姉妹っぷりへ、
同坐していたそれぞれのカレ氏である太宰や芥川もついつい表情が和らいでおり、

 『あ、二人も一緒してくれるのでしょう?』

姉様の懐から見上げて来るお嬢さんへ、勿論と殿御らも頷いてやり、
横浜にての花火デート、随分と 公開レジャーっぽい代物として決定したのである。



to be continued.





 *あくまでもフィクションですので、
  今週末に横浜でそんなに花火大会はないというツッコミはどうかご容赦。



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