短編

□バトルバディ・ア・ラ・カルト
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何故わざわざ危険極まりない的になる必要があると、
味方なのに胸倉掴み上げての噛みつくような叱りようも相変わらずで。

「だからっ。
 羅生門の濫用ってやり方では体力があっという間に尽きてしまうんだろう?
 鼻の利くボクもいるのだから、探査しつつ様子見しいしい進めばいいだろに。」

太宰さんもそうと忠告してただろうにと、そうと言っている端から、

「…っ!」

石棺の傍から大きく動いたらしい気配が拾えた。
姿にまでの影響は出ない程度で、だが、耳や鼻の感度を上げていた敦であり、
一足飛びでは逃げられない身の相手もまた、必死で当たっているが故、
逃げ隠ればかりでは脱出できぬと判ったらしく。
ならばと腹をくくったか、
大胆にも出会い頭という急な出現をし、至近からマシンガンで撃ってくる凶悪さ。

「あ…。」

ただ逃げることだけを念頭に置いてただけじゃあない、
邪魔立てするものは薙ぎ払ってでも、何なら殺してでも想いは果たすという
破綻した覚悟があったらしいことを思い知ったと同時、
そんな虎の子をくるんだのが黒獣の楯。
耳を弄すほどの掃射音が洞窟状な空間を塗りつぶしたが、
そこは素人、かなりの反動があっただろう威力に
長く撃ち続けることが適わぬようで。
ほんの深呼吸2回分くらいを盲打ちしただけで銃声は止み、
その直前に、しっかと抱える格好で弟分を庇うと後方へと飛びすさって逃れている黒と白の青年と少年へ、
ちいと判りやすい舌打ちをしつつ、
マシンガンを何か…やはり異能を使った布のようなものでくるんで消した。
どうやら向こうもこちらの敷いた策を理解し、乗って来たらしいと確認出来たところで、

「離れるな…」
「何で庇うのかなっ。」

忠告を寄越しかけた兄人の声を遮って、
両手掛かりで相手の胸板を突き、その身から離れた敦がなお大きな声を張る。

「それじゃあ何にもならないだろう? 君まで一緒くたに狙われる。」

どうしてそうも、何でも一人で手掛けようとするかな、と。
随分と怒っているような顔つきで睨み返してくる虎の子は、
以前に真っ向から対決し合った折のように、斬りつけるような憤怒の激情を染ませた声を放っており。

「それともそんなにボクはあてにならないか?」

戦闘への慣れは確かにないがと、そこは認めていながらも、
頼りに出来ず庇う手間のいるお荷物なのかと、そうと訊きたいらしい琥珀の瞳へ、

「それは違う。」

こちらも心外だと言い返す。
ちらと気配への反応を示し、羅生門の矢を牽制に放っては、
隙を見ては躍りかかって来る、見えぬ相手の機銃掃射から逃れつつ、

「力尽きても貴様が居よう。そうと思えば、後顧の憂いなく全力で当たれる。」
「そんな破滅型の考え方に乗っかれるはずないだろうっ」

揃って無事に帰らなきゃ成功じゃあない、何でそれが判らないんだと
やはり抱えられて逃れた先で、その腕を手荒に振り払ってそうと声を浴びせれば、

「…っ。」
「わっ。」

やや遠くからのマシンガンの掃射が鳴り響き、
防御にと巡らせてあった羅生門もその切っ先が一旦蹴散らされ。
接近してはない場所からの銃撃元を見やれば、すっかりと姿を現している青年がいる。
自分たちとそう変わらない年頃の、だが、少々窶れた感の強いご面相の20代半ばくらいの青年で

「体のいい使い捨ての異能者が、偉そうなことを言うのだね。」

会話が聞こえていたものか、そしてそれが綺麗ごと過ぎて腹に据えかねたか、
パーカータイプの上着、そのフードで顔を隠していた青年が追っ手の二人へ向き直って声を張る。

「どうせ君らも権力者から依頼されてこんなことをしている使われものだろう?
 要領よくかかればいいじゃないか。
 そっちの彼が踏み石になってやろうというのなら、そのまま乗っかればいい。
 結果さえ出せばいいんだ、どうせそれでしか評価しない奴らなんだ、
 関わった者の顔も名前もどうでもいいのだ彼奴らは。
 忘れはしないと、ご丁寧に慰霊祭など催すが、それは自分たちの功績へのパフォーマンス。
 誰がどんな思いで、絶望を抱いて死んでいったかなんて知らない、残された家族の怨嗟も届かない。」

きれいごとがそのまま通用するよな世の中じゃあないと苦々しく口にし、
顔の真横へ掲げた手の先、ぱちんと指を鳴らすとその姿はあっさりと掻き消える。
二人の口論でイライラが募ってでもいたものか、
吐き出すように口を突っ込んできた彼は、

 “正義の味方でも気取っているものか。”

腹の奥がぐつぐつと熱いの、吐き気と共に抱えつつ、
異能で消したが自分には見えるマシンガンを再び構えると、さっきから正道ばかりを口にする少年へ狙いを付ける。
きっとまた庇われて、それを忌々しげに突き放すに違いない。
そこを今度こそ逃さず狙ってやろう、
お前のような甘ちゃんが生き延びられるよな世界じゃないのだ本来はと弾丸をねじ込んでやる。
死にはせずとも転げまわるような大怪我を負わせて、そうすればもう一人の場慣れした男も動揺しようしと
スコープを覗いて狙いを定め、
そのあとに銀髪の少年が飛び出すだろう角度へ銃口を振る予行までしてから引き金へ指を掛ける。
手も腕も慣れない武器の激しい振動にしびれてとうに麻痺し、感覚も危ういが、
今宵のこの仕儀さえ完遂すれば思い残すことはない。

「…っ。」

幾度目かの銃撃がやや離れていた敦の身へと降りかかり、
またしても黒衣の青年が手を伸ばす。
忌々しげに顔を歪めた少年だったが、相手の手を突き放そうと振りほどきかけたその抵抗が、

 途中で逆再生され、その身ごと相手の懐へ飛び込む方向へと動いており

邪魔にならないようにとぎゅうと身を縮めてしがみついたその頭と肩越し、
真っ直ぐ伸ばされた芥川の視線が、見えない相手がすぐさま放った虚空への掃射を見据え、
それが放たれている箇所への黒獣の一斉攻撃を放っており。

 「な……っ!」

空中を滑降してゆく漆黒の異能は、今度こそ狙い違わず獲物へと躍りかかっての締め上げて、
赤みがかった帯電の余波が合わさって、バチバチバチ…と躍り上がるよな放電を起こす。
メモリはまんまと奪われているが、整備のための連絡通路しか脱出経路はなし。
そちらへは今しも太宰や中原が駆けつけつつあり、
こちらの周縁に詰めている谷崎や賢治へ対策への周知を伝えられつつある。
彼らによる今度こその放射性追尾物質の散布という検問に遭えばそれで、
洗ったくらいでは落ちぬ物質による執拗な追跡がかかることとなり、
此処からは出られても逃げのびることは不可能という顛末となるはずで。

『他へ脱出口を穿つというなら別だが、
 かつて崩れた部分以外の岩盤は途轍もなく強固だからそれも無理だろう。』

舞台となる場所という意味からの地盤への見解は刷り合わせ出来たものの、
そこからの攻防への打ち合わせははっきり言って暇がなく。
そして恐らくは、最初に敦が断言したこと、
羅生門でのしらみつぶしを構えていよう芥川だろうというのへ疑いようがなくて。
中也さんと似て来ての結果だろうか、こういうところ。
相変わらずの独断専行、もしかせずとも、傍に居る敦は戦力に入ってないという腹なのか。
自分は近接でしか異能を発揮できない身、
なので、広域のしかも攻守両方が可能な彼には
後衛として大局を見回してほしいと…太宰さんも言ってたのにィと、
煩悶するだけでは芸がない。

 「…まったく。」

防御に専念していたところからの一転して、
見事に相手を縛り上げられた黒獣なのを確認し、はあと深々とした吐息をついた黒衣の彼で。
打ち合わせなしに いきなりのご乱心…としか思えぬ言動を見せた敦だったのへ、
正直なところ胸がしくりと傷みかけてもいたくらい。
なのでか、きゅうとしがみついたままの少年なのへ、
照れるより含羞むより、こちらからも腕を回してなおのこと囲い込み。
白いお顔をやや斜めに逸らしつつも、頬は銀の髪へと擦り付けて、
先程からのしゃにむな跳ね除けは嘘だよねと問いたいような態度を取れば、

 「…良かったぁ。」

その懐ろの深みから、くぐもったような声がして、

「最後の最後、やっぱりボクが振り切って離れようとするってキミまで早合点して、
 この位置から先へ飛び出してたらどうしよかって思った。」

はあと安堵する声が、よほどに緊張していた反動か
弛緩しきっていてのそれは甘くて蕩けそうなそれであり。
低められた底のほうへネコの甘えの唸りみたいなゴロゴロという響きまで練り込まれており。
一応の監視、こちらのやり取りも収録し続けていた
外部班の谷崎さんやナオミちゃんがあらまあと微笑ましげな顔になり、
のちに検証のため全部聞いた帽子の似合う誰か様は、
こんな声音は聞いたことがなかったか、やや複雑そうな顔になったとかどうとか…。







 *な、長い。
  なのに雑というから、どんだけ芸がないのかを思い知りました。
  後始末をもうちょっと書きますのでお待ちを…。
  

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