短編

□今日もお元気なボクたちは
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嘘かホントか、そんな空想科学物語みたいな企てを、
秘密裏に阻止してほしいとの依頼を引き受けることとなって。
そんな雲をつかむような話…と半信半疑で着手したところ、
関係物資の流通や建設系求人募集の動向などから、
苦も無く具体的な施設が割り出せ、何だかやっぱり現実と地続きな話らしいと判明。
だったら大々的に壊滅させてしまえば後腐れもないかといや、そう簡単にはいかないからややこしい。
とばっちりな爆破にせよ、うっかりの失火による消失にせよ、
一体何の施設だったのかが詮索されては元も子もない。
政府への揚げ足取りは古来よりの習いで、
うまい汁につながらぬかと鵜の目鷹の目で常に注目されてもいる。
なので、水も漏らさぬ徹底な対処だと
却って鼻の利く好奇心旺盛な存在に食いつかれるため、

  そういうことがないよう

あくまでも平凡な事故、
若しくは民間レベルでの諍いの結果と片づけられるような破綻を誘い、
公安がややこれは大変ですねと関係者を一網打尽にし、完全包囲して収拾させられるよう、

 『畳みやすい風呂敷を広げてこいということですね。』

なんかよく判らないけどという騒ぎの陰で、機能停止まで持って行ければ重畳なんだがねと、
言うだけは只だとでも思うたか、さりげなくそこまでリクエストされた事態らしく。

 『まあ、私たちは専門家じゃあないから。』

何をどうすりゃ
衛星まで届け起動の波動、あーんど、それに必要な増幅装置とやら、
機能停止に運べるかなんて全くの全然判らないので。
とりあえずスイッチに手を掛けようとしている顔ぶれを
どんな言いがかりでもいいから吹っかけて取っ捕まえましょう。

 『秘密裏に活動してるんだったら、
  非合法な企みだっていう自覚はあるのだろうから。』

殴り込みを仕掛けられても、まさかに公けへ訴え出は出来なかろうし、と。
至ってシンプルな案を提示し、それをさらりと遂行することした。

 『依頼してきたどっかのややこしい団体の方々だって
  あんまり期待はしてないだろうしね。』

私たちの実力なんて知りもしなかろうから、
何だかよく判らない騒ぎを起こして
半月でも1週間でも時間稼ぎしてほしいだけなんじゃないかなぁ、と。
乱歩さんが他人ごとみたいにくすくす笑っていたのを思い出す。
見くびられたものだが、そうなると要らぬ骨折りも業腹だ。
どこまでやっつけるかは“実行犯”に任せるよと、
“実行班”というところ、そんな風にも聞こえよう言い方をして彼らを送り出したのであり。
2つの組織にまたがっていながら、武力のみならず連携でもこれ以上はなかろう少数精鋭、
あくまでも“過去の戦績”を参考にして弾き出されたこの4人があたることとなり。

 「困るんですよね。裏社会の自治を荒らされちゃあ。」

縄張り(シマ)を荒らされたんで、落とし前を付けに来ました、と。
正体への探索に協力した探偵を手引き役に立て
一番判りやすい建前を掲げて殴り込んだ…とすることにしたらしく。
潜入というより殲滅行動に近かろう、それは派手な進撃を繰り広げたのも、
特殊な訓練を積んだ工作部隊ではなく、武装組織の殴り込みの方が
民間レベルの諍いとやらで片づけられそうだったからという乱暴さで為したこと。

 “現役の構成員が混じってますしねぇ♪”

ただ、単なる乱暴とか大雑把じゃあない、
そんな包装紙で包みつつ、実質は一個師団を配したような段取りなのであり。
そんな実情、当然のことながら知りようがないままに、
たった4人という頭数を舐めたらしく、
奥の院まで何の障害もないまま押し入らせた主管格だろう面々と対峙する。

 「薄汚い地回り風情が偉そうに。」

こちらへ直通となっていた倉庫側には白衣の関係者が詰めていたのは、
一番の奥向き、深層部に設けられていた此処が、まさしく研究室のようなフロアだったから。
衛星への制御関与に必要なそれか、
様々な微調整用だろう、音響へのミキシング用シンセサイザーのように
これでもかという数のスイッチが居並ぶ管制用のユニットがいくつも据えられたそこは、
入り口が一つで、何かの舞台を思わせるよにフロアの床が宙へ浮いた格好になっている。
壁がないような仕様なのは侵入者が潜む物陰を失くしたためであるようで、
天井も相当な高さの吹き抜けとなっているため、
侵入するには1つしかない通路を通るしかない。
心臓部を堅守するため、不法侵入を監視しやすくするための対処だろう。
浮かぶ台座の周辺や真下といった下層部には、
それもまた必要なエネルギーを、中途で経路断絶されないよう直に貯蔵しているものか、
凄まじい放電を時折放つ変電器がゴロゴロと並べられており。
剥き身になっているので近づけばただではすむまい。

 “…管制盤への影響は出ないのだろうか?”

ふと素朴な疑問を抱いたのは中原だったが、確かになぁ…。

賢すぎる人ってこういうとこあるよね、一回廻ってから気がつくというか。

 「凝ってますね、単なるプレゼンのためだけの施設でしょうに。」
 「運営まで考えてないからこその採算無視だとは思えないかね。」

分が悪くなりゃあ どんなに至便なアジトであれ惜しみなく捨ててゆくさ、
肝心なプランは此処に詰まっているからねと自身の頭を指差して、

「使い勝手がよかった車でも部下でも、
 我が身が大事と見捨てて去るのは、あんたらマフィアの生き残り哲学でもあろうに。」

判ったようなクチを利いたのが、
どうやらこの施設と とんでも計画の首謀者らしい白衣をまとった初老の男。
渋団扇のように痩せこけた、だが、眼力だけは只者じゃないほど強いのが不気味で。
敦が本能的にうすら寒さを覚えたか、こそりと息を飲んでしまったほど。

 「イマドキには衛星も特に珍しい戦略兵器じゃあない。」

狼狽える方がどうかしていると、
こちらの何とも不揃いないでたちや風情を見回し、
無学な顔ぶれと見越してだろう小馬鹿にするよに嗤う白衣の半白おじさんだったが、

 「むしろコストがかかりすぎて非効率的だというんで
  大々的に縮小されたんですよね。」

あまりに威力のありすぎる兵器が生まれてしまい、制御への精度も上がる一方。
とはいえ、そんなもの一回でも使えば世界が滅びるから打ち上げようがないのが実情。
莫大な維持費に悩みつつ、そんな矛盾を腹の底で転がしているより、
中距離弾道兵器をちらつかせ、地域紛争が拡大しないよう見守る方がコスパはいいと、
方針が変わったのは、えっと、まだ昭和のころじゃなかったですかねと。
太宰がすらすらと口にしたものだから、
水を差された気がしたかムッとしたよな顔になり、

「お喋りはここまでだ。」

おおう定石を踏んでこられますかと、太宰や中原が苦笑をこぼし、
芥川がようやくかと意識を冴えさせ、敦が表情を引き締める。
同じフロアには、どう見ても科学者じゃあなかろう男たちが3人ほど居合わせていて、
恐らくは異能の持ち主が用心棒のように詰めていたのだろう。
そちらへと視線を向けたと同時、

 「…っ!」

ぶんっと飛んできたのはそのまま赤子くらいはありそうな鋼の塊。
ようよう見ればクレーンに使われる鉤の部分で、
工場や港湾施設の設置型クレーンに使われる特大のそれで。
危うくぶつかりそうになったのを躱したそのまま、
ひゃあと頭を押さえてしまった敦の前へ立ちはだかったのが、

「へえ、面白れぇな。触れずに操作できるのか。」

自身の頭上へ鉤を戻し、
ひょろりとした鼻ピアスの迷彩服男が歩み出たのへ。
どっちが悪者なやら、
凄艶な面差しの中、切れ長の三白眼をなお眇める凶悪な笑い方をして見せた中原で。
そうかと思えば、太刀を振りかざす暗殺者も佇んでおり、

「福沢氏は息災か?」

かつて最強剣士として名を馳せていた探偵社の社長を知っているのか、
真剣らしき和刀を手に提げた道着姿、体躯のがっしりした年齢の測りにくい男が進み出る。
それへは、丁度中也の背面にいた敦が向かい合う所存か、
すっくと立ち上がると表情を引き締める。
そして最後に、

「この季節にやけに厚着だね、あんた。」

ぱちんと指を鳴らし、その指先へ炎を灯した、
ラフなアロハシャツに七分パンツという、
夏先取りクールビズな格好の男には芥川がちらっと視線をくれてやる。
余裕綽々、そんな不敵なお相手たちだったものの、

「もっと重くしてやんよ。」
「…っ!」

その重量のせいだろか、高みから転げ落ちるように飛んできた鋼の塊を、
一縷も恐れず見据えた赤髪の青年。
背条は軽く弓なりにした見るからにいい姿勢のまま、
手套をしたままの手で指差した中也が、まずは手のひら広げて押しとどめれば。
本来の主人の指示は聞けないかびくとも動かなくなり、

「なっ。」

迷彩服男が判りやすく目を剥いてぎょっとする。
そのままぐんっと弾みをつけて、拳を振り下ろすアクションを見せれば、
鉤もぐんっと中空から振り落とされかけたものの、
それを床に叩きつけるのはギリギリで制すところが心憎い。
一方、自分では支えきれない重さになったか、
操作していたはずの迷彩服鼻ピ男の方は、
その動きと同じ反動で床へ叩きつけられている始末。

「何だ、大したことねぇのな。」

上の階層で畳んだ山ほどの作業員の皆様の方がまだ歯ごたえあったぞと、
中也が肩をすくめたその後背では、

 「哈っ!」

太刀を構えて突進してきた武芸者相手に、敦が虎の異能を下ろして向き合っており。
それは素早い刀さばきで右から左からと打ち込まれ、
後ずさりをしつつ、こちらも柔軟性を生かして素早く身を躱し続けていたものの、
あまり下がれば高電圧のフロアへ落ちる。
ザクッと、長く残した一房の髪の先を削がれてしまった感触に、
ハッと目を見張ったものの、内心ではそう焦ってもおらずで。

 “えっとぉ。”

中也から時々習っている体術を思い出し、
腕をかざして太刀を受け止め、ぶんと振り払って刃をへし折ると、
それで開いた相手の懐へ、真っ直ぐに拳を繰り出して せいっと一突き。
ただでさえみぞおちへ深々と決まったその上、虎の大力も乗っており、

「あ、すいませんっ、大丈夫ですかっ。」

廉直にも静謐な態度だった大人がいきなり泡を吹いて倒れたのに驚いたか、
倒れ伏す相手へ、大丈夫かと慌ててしまうのが何ともはや。
そんな敦なのへ薄く苦笑を浮かべた芥川。
過保護というより適度な見守りがまだ判らぬか、
その身をしっかりそちらへ向けてのよそ見をしているというに、
自分へと飛ばされてくる炎の塊へは黒獣の顎を的確に対処させ、
がちがちと食らわせており。

「てめぇっ!」

片手間に相手をされているのがむかつくか、
異能の炎弾の手を止めて、
ズボンの尻から掴み出した拳銃をかざし、
躊躇うことなく だがんっと放ったものの、

「…喧しい。」

不意な銃声へ おとうと弟子がびくくっと肩を縮めたため
それへムカッと来たという順番だったの、
居合わせた年上コンビがあっさり見抜いて苦笑したのは余禄だが。(笑)
ここまでの至近だ、逸れさせる方が難しいというに、
放たれた弾丸はやはり、青年が羽織る黒い外套の中へと吸い込まれ、
羽織った主には何の影響も見せない不思議よ。
自分もそんな不可思議な異能を操る身のくせに、
得体の知れないものはやはり恐ろしいものなのか。
当初はへらへらりと余裕で笑っていたものが、
どんどんと追い込まれて青くなってたアロハの青年。
その身をまんま斜に構えていた黒外套の男が、
靴底でじゃりと埃をにじり、ようやくこちらを向いた途端、
のっぺりしていた顔を引きつらせ、祈りのように両手でグリップを掴み締め、
頼みの拳銃を立て続けに撃ち続けたが、一向に手ごたえは出ぬままで。

「ひい。」

余程に甘やかされた戦果しか知らぬか、こんな悪夢は覚えがないか、
芥川の視線が鋭くなっただけで怯んで後じさりを始める彼で。
背条を弓なりに伸ばし、ポケットへ手を入れたままの黒衣の青年なので、
いきなりは何も出来ぬだろうと、一縷の望みにすがっておれば、

「…え?」

やはり構えはなんら変えることなくの、だが、
彼の背から槍のようなロープのようなものが鎌首もたげて伸びたかと思った次の瞬間、
弾丸に匹敵しよう熱い痛みががんがんとその身へくらいつく。
貰った炎と銃弾と、自分は使わないからお返しするとし、
薄着なのが災いして炎を浴びたあちこちへ火傷を負いもしたようだったが、
転がり回ったことで全身への延焼とまでは至らずで。
まかり間違えば芥川の側がそのような惨状となっていたのだ、
自業自得だと…それさえ思わぬか、漆黒の覇者は冷ややかな視線で見下ろすばかり。
刻にして10分も掛からずに平らげられたガーディアンたちだったことへ、

「波動を出せる人を探すついでにそこそこの練達を集めたんだろうけれど、
 異能ってのは本当に色々あって、こんな程度じゃあ浅い浅い。」





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