短編

□今日もお元気なボクたちは
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“今日もお元気なボクたちは”


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交易都市ヨコハマには、いい意味でも悪い意味でも、
人や物資、情報、社会情勢までもが日夜を通じて多数行き交う。
表舞台はまだまだトウキョウだろうが、
裏社会での動静のあれやこれやとなると、
こちらの方が柔軟性があるとか勝手が利くとか外国資本も入り込みやすいとか、
それって“脇が甘い”と遠回りに言われてないか?という評価の下、
ご当地での何やかやも、結構広い範囲、ともすりゃグローバルなレベルで取り沙汰されており。
だからというのが皮肉な話で、
良からぬ企みが都市伝説ぽく囁かれていたもの、
海外からの逆輸入な噂として飛び込んで来たのがそもそもの発端。

 サイバー攻撃も脅威じゃあるが、
 頭上に浮かぶ人工衛星から よからぬエネルギー波が降ってきたら怖くはないか?

核の脅威が最も恐ろしく、日々どこかで起きているテロ行為も看過は出来ない。
この国じゃあ当たり前なことのよに、ぬるま湯のような日常が堪能できているの、
冗談抜きにありがたく思わにゃならないほどに、
世界はあちこちで叩き合っては膿み崩れており。
イデオロギーの下にという崇高な代物ならなまだしも、
そういった抗争へ要らぬちょっかいを出す勢力の跳梁が
話を複雑なそれへと錯綜させるのが困りもの。
近隣国家であるがため、自国を守るために必死で旗を掲げる行為をとっているだけの存在の、
その“必死”にかこつけて、よからぬ輩がホイホイされるのもこれまた厄介で。

 その存在さえ日頃日中は忘れきっている人工衛星が
 音もなく攻撃を仕掛けて来たらどうするね?

小惑星の衝突とかいう話じゃあないのだから、
いっとき流行ったアメリカ映画のスペクタルな設定よろしく、
地盤が抉られるような大きな凶行にまではなるまい。
だがだが、それ以上の高みはないところから例えば狙撃されるようなもので、
空に浮かぶ雲以外に遮るものがない以上、こちらは隠れようもない。
頑丈な建物の中にいればいい?
地下室にいれば何が降って来たって大丈夫?
その建物ごと粉砕されたらどうするの。
惑星の衝突ほどじゃあないが、そのくらいの規模の攻撃なら出来るよな、
そんな脅威が天空から睨みを利かせているとしたら?

「でも…人工衛星にそんな武器なんて搭載出来ましたかね。」

どんな仕様のものを打ち上げるのかは広く公開するのが原則だろう。
明文化はされてないかもだが、疚しいところはないぞと胸を張るため、
無い腹を探られないために、隅々までつまびらかに公開するのが上策で。
それに、どこの国だって躍起になって確かめる。
どんな新技術が搭載されていて、どんな応用が利くものか。
ウチの庭を勝手に覗かれちゃわないか、ミサイルの照準を合わせられたりされないかと。

「だっていうのにね。
 本来あってはならぬことだが、
 随分と前に、某国の軍部が秘密裏にややこしいものを搭載したらしくてね。
 ただ、地上からの管制システムが不完全で、打ち上げの衝撃で莫迦になっちゃって、
 軌道上に浮かんじゃいるが使えないことがすぐさまひそひそと広まって。
 それでどちら様も見て見ぬふりを通してた。」

ところが、微妙に民間レベルの、
どっかの犯罪集団みたいな組織がそれを知ってしまい。
小さな実験衛星を周回軌道のタイミングに合わせて打ち上げては、
それで地道につつくっていう思い切ったやり方で、
何度目かに破線していたシステムの復旧に成功したらしいんだ。

「これは余談だが、
 その起動制御に必要だったのがいつぞやのルビーだったってわけで。」
「おおう。」
「いつぞや?」

某『桜日和』3章参照ってですか?(笑)
起動のための鍵を手に入れられなかったが、そこはしぶとい連中で、
波動系の異能を片っ端から調べて、
同等の波形・波長の波動を放つ人物を見つけた。
そこで、その特殊な波動とやらを増幅させ、砲台衛星まで届けられる施設を計画したんだが、

「それをヨコハマに設けたってですか。」
「問題のルビー自体が運ばれてたのも下準備のようなものだったらしくて、
 ヨコハマという土地は当初から定まっていたらしいぞ。」

誰のどんな思い入れがあるものなやら、
ともあれそんなおっかないことへのデモンストレーションを予定していて、
それさえ成功したら後は欲しい組織か国家へ売り飛ばすらしいが、
そんなことの足場にされちゃあねと、依頼人の代理人だという若い弁護士が苦笑する。
ちなみに、国連系の宇宙開発系管理団体も黙っちゃいない。
衛星ごと何かの誤射を装って葬る準備を秘密裏に進めておいでだが、
いま少し時間がかかるので、とりあえずそのプレゼンテーションを潰す手立てはないかとね。

「そういうのは“正義の味方”に頼むのが筋だろうと。」
「誰が“正義の味方”だってんですか。」

悪い奴の敵ならかろうじていますがと、福沢、乱歩の隣で太宰が苦笑し、
森の隣で中原がう〜んと腕組みしたまま唸って見せた、とある合同会議の席上。
何処の筋の使いかも曖昧、
NPOの代表という いかにも偽名だろう名刺だけを提示された存在からの依頼で、
規模として大きいのだか小さいのだか、何とも微妙な大作戦を、
ヨコハマに汚名が降らぬよう、
治安維持における二大グレーゾーンの代表が集って
手を打つ盟約を結ぶ運びとなったのが半月前のことだったという。



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