短編

□お出迎えは華やかに?
2ページ/2ページ




主戦力にあたろう二人の黒い笑みの下、
日頃はひなびた田舎町の一角で、人知れず“抗争”が勃発し、
片やの構成員たちが一方的に畳まれて
抵抗のしようがなくなった新興勢力側があっさりと敗北。
勝利の宴もそこそこに、昨日来たばかりな東からの助っ人陣営は
そのまま同じような時刻の新幹線に乗り、帰還の途に就いた。
正午過ぎには無事到着した駅のホームに降り立てば、

「中也さんっ。」

予想だにしなかった愛しい声が間違いなく聞こえ、
何だ何だと辺りを見回した中也へと、わぁいという歓声つきで虎の子が飛びつく。

「敦か?」
「はいっ。」

おかえりなさいと満面の笑みで返事をする少年へ、
正直にも顔が緩みかかったものの、

「ちょっと待て、俺は連絡してねぇぞ。」

むしろ、途轍もなく早い帰還になったのをいいことに、
知らせぬまま探偵社から帰る途上へ迎えに行き、びっくりさせてやろうと構えていたのに。
そんなサプライスをお釈迦にされたと、
意外な展開へ腑に落ちないという顔になった中也だが、
そんな彼らの傍らを、長い脚を切れよくスライドさせ、すたすた通り過ぎた人影に気付き、

「…そうか、あのヤロか。」

途端に苦虫をかみつぶしたような表情となる。
どんな情報網を持っているやら、
遠方で起きた、しかも随分な突貫作戦の末の顛末をあっさり把握し、
涼しいお顔でお出迎えに運んだもう一人。

「何で人虎と太宰さんが来てるんだ。」

ウチの情報管理はどうなっているんだと慄く遠征陣営の面々だったが、
それ以前に…もう組織の人じゃないというに、太宰にさん付けしてしまうほど、
彼の人の影響力は相変わらず絶大であるらしく。
そんな彼が、これも相変わらず包帯を巻かれた腕を伸ばして捕まえたのが、
降車客らの最後の方で列車から降り立った黒衣の青年。

「おかえり。」
「…っ。」

痩躯なのは見て判る通りだが、それでも成人男子なのを軽々と
足がふわりと地から浮くほどの高さへ抱き上げる頼もしさよ。
自分の視線よりも上へと掲げた愛しいお顔へ、
伏し目がちにした双眸にてやさしい眼差しを送り、

 怪我はない?
 水が合わなかったということは?
 中也にこき使われてない?

そんなチェックを一通り訊いて、1つ1つへ頷く芥川なのを確認し。
それで解放かと思いきや、そのままかっちりした肩の上へ担ぎ上げ、
何としてでもこのままお持ち帰りしますという所存らしい太宰であったりし。
ここまででも十分、目立つ行動。
かてて加えて、そんな大胆なお迎えを演じたのが
今が盛りの桜花の眷属らも負けそうな、淑とした端麗さをまとう美丈夫と来て。

「俺たち先に帰ってていいよな。」
「こんなところで顔を差されても…。」

あの美麗な貴公子様とお仲間の…と、要らんところで顔が差してはとんでもない。
お仲間たちがこそこそと立ち去ってゆく中、
ひとり豪気な気を吐いたのが、

「何をやっとんだ、太宰。」

さすがに…こちらも目立つわけにはいかぬ身ゆえ、
怒髪天なの表すような大声は上げなんだものの。
細い眉尻を撥ね上げつつ、
衆目の中での破天荒は止せとの声を掛ければ、

「おや。これは気がつかなんだ。」

あんまり小さいものだから見えなかった、
引率もほっぽいて敦くんと帰ってしまったかと思ったよ中也、と。
相変わらずの憎まれ口をきく。
それを聞いた中也が黙っているはずはない…のを察したのが敦で、
うううう〜〜〜と、唸り始めたのへの先手を打ち、

「あ、あのッ。
 そのまま帰られると、芥川がどこぞかで頭を打ちかねませんよ?」

せめて。そんな派手な体勢のままで去ろうというのだけは防ごうと、
下ろしてやってと持ってこうとしたらしく。
ごくごく普通に二人並んで帰るというなら中也の憤怒も収まらぬかと
せめてもの知恵を振り絞った敦の一言へ、

「そういやそうだね。」

何せ、私ったら背が高いものだからと、
やっぱりいちいち引っ掛かる物言いなのはやめなかった太宰が、
それでも肩の上の愛しい人と顔を見合わせて、

「じゃあ“姫抱き”で帰ろっか?」
「ちょっと待て。」

とんでもないと中也が堅い声を出したと同時、
言われた片やも片やで、
腕を載せていた頼もしい肩に両手をついて身を浮かせ、
そのままその痩躯を太宰の胸板へと添わせつつ
すべりおりたのが待ち構えていた腕の中…というから。

「…何でお前、そんなに慣れてんだ、芥川#」

お父さんが泣くからそれ以上は止めてと、
何が問題か判らぬらしく、キョトンとしている黒衣の青年へ、
胸の内にて抗議しちゃった敦くんだったのは言うまでもなかったり。




すったもんだした挙句、
指名手配犯の芥川が目立っちゃあいかんのではと
遠征陣営の中堅どころの人がこっそりと助言して。
それで “じゃあ人目がなくなってからね♪”などと恐ろしいことを言い置いたのを最後に、
お騒がせ元幹部は情人を連れて嬉しそうに帰ってゆき。

「…しっかし、抱き上げられたいって思うものかね。」

今時はいろいろな愛の形もあることだし、
それを踏まえてか 男のクセにとまでは言わないけれど。
自分は絶対ヤだと思ってそうなのがありあり判る口調な中也であるのへ、
こちらはこっそり ふふと笑ってしまった敦で。
綺麗な風貌と裏腹に、それはそれは男らしい気質の彼にしてみれば、
誰かに抱き上げられるなぞ遺憾の極み、
自身の背が低いことへの当てつけや嫌がらせにしか思えないのかもしれない。

 “…なんてこと、言えるわけないしなぁ。”

というわけで、是とも否ともいわぬまま、
遠征は屁でもなかったが、ほんの数分の太宰との顔合わせで
いきおいぐったり疲れたらしい中也の歩調に合わせ、
すぐお隣をのんびりと歩いておれば、

「……留守番のご褒美は抱っこがいいか?」
「え?」

自分同様に笑い飛ばさなんだ敦だったことへ、何かしら思い当たった彼なのか、

「ただし、ウチへ帰ってからだからな。」

別に怒ってはいない声。
自分は自分で敦は敦だと思うたか、
甘えられるのは嫌いじゃなし、
いくらでも甘やかしてやるという所存な中也なのはいつものことだ。
ただ、照れくさいので後でなという含み、
ありありとまとわせた言いようをする彼なのをこそ、
可愛いなぁと感じて相好を崩す敦であり。

「腹減ったな、何か食って帰るか?」
「あ、僕カレー作りましたよ?」
「おお、敦のカレーか、久し振りだな。」

一気に機嫌を直したらしく、
照れ隠しの斜めな視線までが吹っ飛んで。
なあなあピザチーズのっけてくれるか?あれって目からうろこでさと、
先に敦がやってあげたトッピングをリクエストまでする無邪気さよ。
ヨコハマの街に桜色の風が吹いた、
そんな気がした春の長閑な昼下がりの一幕だった。




  〜Fine〜  17.4.7.






*原作様では随分と前から、
 某氏の企てた策謀の末とはいえ、
 探偵社とポートマフィアの熾烈な直接抗争が続いているそうで。
 アニメしか知らなんだので、
 白鯨落としが終わった時点を土台とし、
 お話を書き散らかしている当方です、申し訳ありません。

*で、今話は後半の帰還したところだけを書きたかったわけで。
 いいのかこんな連中が裏社会を制覇していて。(笑)


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ