パレードが始まる前に

□パレードが始まる前に 2
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 「で、何か訊き込めたのかな?」

集積場から離れること3ブロックほど。
最寄りの駅までの途中にあった、
誰が使うのか子供向けの遊具も居残った公園のベンチで、
敦は同じ社の先輩社員と落ち合っている。

 「はい。この辺りでの不穏な動きというのは、
  他所の土地から入り込んでいる小規模な組織の構成員たちの小競り合いだったらしく。
  でもそれって、6番埠頭にこっそり設けられていた○○会の足場での
  何か取り引きを隠蔽するための陽動だったかもしれないと。」

先程 聞いたばかりの話を伝えれば、
おお、なかなかしっかり訊き込めているじゃないかと、
にっこり笑ってくれて、

「ちょっぴり危険な土地柄ではあったけど、
 敦くんもそろそろこういうところで応用を利かせつつの行動がとれなきゃあねぇ。」

何と言ってもまだまだ10代、しかも素人の新人であったことに加え、
彼自身に組合(ギルド)なるところが懸賞金をかけていたりして、
これまでは危険な案件はなかなか任せられなかったものの。
気遣っても振りかかった災禍の数々を立派に乗り越えて逞しくなった少年へ、
マフィアとの間に不文律ものながらも“停戦”が結ばれている今なら…と、
ちょっと冒険して来てもらったようなもの。
顔だけなら女性で通りそうなほどにやさしい見かけと裏腹、
結構スパルタな仕儀を今回は大胆にも構えた教育係の太宰だったようで。

「ま、ここいらは荷役の逞しい人や
 ちょっぴりポートマフィアにかかわりのある人が多いってだけで、
 都心の繁華街の真夜中に比べれば、
 昼間の明るいうちならまだ見通せるだけ安心なんだけど。」

なんて。
危ないんだか安心なんだか微妙な言い回しをする。

「でも 6番埠頭とか○○会とか結構具体的な話を拾えたんだねぇ。」

そっちは実を云えばこちらへもタレコミがあったので、結果として確かな代物。
軍警の皆さんと駆けつけて、
密輸らしいトカレフって拳銃の取り引きを押さえられたんだがねと。
ちゃんと実のあったネタだったことを褒め、
頼もしい手で…相変わらず肘から手首まで包帯付きだったが、
敦の銀髪の乗った頭をぐりぐりと撫でてくれて。

「は、はい。
 それが、こちらを束ねているらしい
 ポートマフィアの構成員さんに聞いた話だったんで。」
「…さん付けは要らないんじゃないかな、うん。」

自分だってまだ22のくせに、いやに年長さんぽい口調で
若い人は敬語や謙譲語の使い分けが下手だねぇと、
それでも笑って冗談めかしつつ合いの手を入れた太宰だったものの、

「おでこ、怪我してない?」
「あ、えっとぉ…」

色白な少年の不ぞろいな前髪の端っこから、
朝方にはなかった擦り傷が見えたらしく。
報告してないこと、あるんじゃないの?と身を乗り出した、
優しい笑顔の先輩へ。
このまま黙ってなんていられるはずがないことくらい
よぉく判っている虎の子くんが
それでも少しずつを語ったその末、

「げぇぇぇ、中也に会ったぁ?」

そこまでの行儀の良い口調が一転、
それこそ行儀の悪いイマドキの若い人の
蓮っ葉な物言いもかくやという言い回しが飛び出して。
今そこにその存在がいるかのように、
そしてそれが他でもない脅威であるぞよと言わんばかりに、
その身を大きくのけぞらせまでする拒否反応の物凄さよ。
そうかと思えば、その上背のある身をするすると引き戻すと、
今度はいかにもナイショ話だよという構え。
背中を丸めまでして敦の耳元へ囁いたのが、

「小さい癖に口の悪い、短気ものだったろう。」

脅されたり殴られたり蹴られたりしてないかい?と
形の良い眉をひそめて案じてくれたものの、

「いえ、それは親切にしてくださいましたよ?」

小さな定食屋さんでゴロツキに絡まれて昏倒してしまった敦だったの、
あの事務所まで運んだのは別の人たちかもしれないが、
始終朗らかに応対してくれたし、
あの芥川が噛みつきかかったのを制してもくれて。

「さっきの6番埠頭の話も。」
「そっか、彼らが口にしたのか。」



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