銀盤にて逢いましょう


□昔取った杵柄?
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とあるホテルの一番広いラウンジでは、
パシャパシャと一斉にフラッシュがたかれて、ある意味 光の洪水状態だ。
ステージ上には金屏風に見立てたスクリーンを背景に、
各界の麗しい女性たちが着飾って居並んでおり。
トレーニングウェアでは興が冷めるだろうからと思ったわけじゃあないけれど、
華やかなイメージのある競技な上に、
表彰していただいたのがジュエル関係のビジュー何とかという賞だったのでと、
競技用の衣装にやや寄せた、
ビロウドに見える生地の深色カットソーにチュール素材のミディスカート、柔軟素材のアンダーパンツという格好だった。
一応、それなりの財に恵まれた育ちという環境下にあったため、
見繕ってくれた顔ぶれも場に添うた選択をしてくれており。
品のいい装いにまとめてくれたお陰様、こういった華やいだ場へも何とか そぐうたようで、
どうぞと進呈された華やかなティアラもようよう映えたようだった。
生まれつきのそれとはいえ、銀の髪なのへシルバーの細やかな細工物は
保護色となっての溶け入って見えにくいのじゃあ…なんて
聞えよがしな心無い悪態をつくモデル嬢が数人ほどいたれども。
ちりばめられたクリスタルは特殊な石だそうで、しかも今回初お披露目のカットを為されていたがため
虹のように七色の光を燦然と煌めかせており。

 「うわぁ、綺麗だvv」
 「ホント。ほらあの、雪の女王のモチーフにしていいくらい?」

シルバーの土台が色味的に溶け込んでもさして支障はなく、
下手に中途半端な茶髪だったりした日には、その鮮やかさを逆に半減させていたかも知れぬ。
それとありあり判る華やぎなのへ、悪態ついた蓮っ葉なお嬢さん方のほうこそ面目をつぶしたのは自業自得だが、
そんな行儀の悪い顔ぶれが居合わせたのも ちょっぴりしょうがないレセプション。
毎年恒例の華やかな催しで、
ジュエルへの貢献あっての表彰というよりも、
話題の人を持ち出してせいぜいい宣伝してもらおうというバランスなのも恒例なそれであり。
そして今年のニューカマ―として選ばれたのが、フィギュア界の新星、中島敦ちゃんだったりしたからだ。
スポーツ界のヒロインが選ばれるのは珍しくはないが、
特別賞や数人選ばれようフェアリー何とかという枠が常のはずが、
若手の女優やモデルが選ばれる枠と不文律的に決まっていた新人への賞を授かったものだから、
まさかにあの○〇子ちゃんを差し置いて?と、
同じ事務所の顔ぶれが嫌がらせ半分にそんな言いようを仕掛けたらしい。

 「○〇子ちゃんとやらも、フェアリー賞を貰ったのにねぇ。」

与謝野女史が何言ってんだかと鼻で笑ったのは、そういうことじゃあないのが判っていつつの仄めかしだったが、

 「○〇子ちゃん本人はともかく、
  そんな段取りを勝手に想定していたクチがどう出るかが問題なんだがね。」

実を言えば、一般人とは一線を画した世界のお嬢様。
ドラマや虚構の世界じゃあなく、本当に実在する社交界にて
政財界の大御所が親御という雲上人らと膝突き合わせてたっておかしくはない出自でもある存在なれど、
そっちの世界ではではで、人望もありはするが血なまぐさい世界の顔役だという大御所様の古風実直な気性から
派手に顔出しをすることもないままだったため、それが隠密極秘とされよう機微のようなものを築いており。
別に逃げも隠れもしない所存だというに、素性は明かしちゃあならぬと微妙な誤解をされ続けて ウン十年、
曽孫のお嬢さんにまでそのようなややこしいヴェールがかかったまんま
なのにご当人の活躍で有名人になってしまったという順番なのであり。
世間的にはぽっと出の素人一般人、
なので、ややこしい背景も知らないで突っかかってくるお馬鹿が出ぬか、
出たら出たで護衛は何の問題もないけれど、加害者側のそちらが秘密裏に始末されぬかと、
何でかそっちを案じてやらにゃあならない、結構ややこしい身のお嬢様。

 しかも、そのご本人様がまた、
 結構な度合いで天然娘なものだから

というか、本人もまた自身がそういう特別な身であることを意識してはなく。
むしろ最近目覚めたばかりな 別の“特別”な身の上の方へこそ翻弄されてる真っ最中。
そりゃあ劇的な生涯だった“前世”にて、命も魂も振り絞って凄絶な日々を送った存在だったこと。
そんな中で育まれた信頼とか情愛とか、あのその 初恋とかがあったことを思い出し、
思い出したのはそんな世界線で共に生きた人らと“再会”したためで。
癖の強い彼らの癖の強さもひっくるめ、
過酷な戦場にてそれはそれは頼もしくも信頼に耐えうる絆を築いた間柄だった人たちとの“再会”に
胸を鷲掴みにされるよな切なる想いを噛みしめた後だけに、
何が起きても“それがどうした”感覚なのは頼もしいが、
普通一般レベルでの誹謗中傷が全然の全く堪えない、ひまわり娘なところもこの際は頼もしい限りだが、

 無防備が過ぎてのこと、
 身の程知らずが特攻しかけて来るのを
 気づかれぬうちに討ち払うのがなかなかに面倒で。

 『そうかな?
  大御所様からの依頼の中では比較的やさしいレベルの対処だけれど。』
 『太宰は裏社会に首を突っ込みすぎなんだよ。』
 『乱歩さんこそ、そのノウハウも一応は心得ておいでなのに言いますか?』

陣営の内の知能犯、もとい作戦担当の交わす
色々と省略されてるところが恐ろしいやり取りも
これまた聞こえなかった振りを通すのが暗黙の了解な中、
素人のやっかみや何やは この際ただ看過すればいいだけのそれなのであり。
問題なのは、

 「さあ、速攻で撤収するよ。」

こういうことへ付きものな取材などなどをどう振り切るかだったりする。
何もかんも内緒にしちゃあいないがそれでも、どういう素性かはあんまり公言したくはない。
実は極道系なところを突っ込まれても、それがどうかしましたかと開き直れる自信はあって、
むしろ下手に首を突っ込んだお人が自分らより年嵩な層から勝手にどう処断されるかが気の毒なので、
そういう意味合いからの鉄のカーテンをしいているだけなのだが、
イマドキの情報社会はいろんな意味で錯綜しているし、
思いもよらない突発時にも事欠かないのは…この際 誰の運気の巡り合わせか。

 「人虎。」
 「あ、龍、来てくれてたんだ。」

華やかなレセプションはお義理で出たようなもの、
それより大事な“来季に向けてのトレーニング合宿”のお仲間、横浜陣営との合流へと取り急ぐ皆々様で。
会場となったラグジュアリなホテルの正面エントランスじゃあなく、
特別な客層向けの駐車場に手際よく直行した 中島敦嬢とスタッフ様御一同の一団を、
彼らの移動車に寄り添わすようにして待っていたボックスカーがあり。
その外で談笑していた二人の片や、
相変わらずそれで地味だと思っているらしい
ジャケットやスムースデニムのストレートパンツまで黒づくめの装いをシャープに着こなすうら若き貴公子殿へ、
敦が無邪気な笑顔を見せつつ当然の如くに駆け寄っている。
そちらも唐突にフィギュア界に現れた希代の新星とまで呼ばれている若手の筆頭、芥川という青年で。
それは冴えた演技とクールで鋭角な風貌が女性ファンにアイドルレベルで受けまくりの人気を博してもいるけれど、
この彼もまた…と言うよりも今の彼らの記憶を導く引き金、一番最初に目覚めたらしい存在であり、
当時の相棒だった月下獣こと中島敦と再会したくて行動を起こしたことが
現状の和気あいあいな状況を生んだとも言え。

 「来るんなら会場まで来てくれたらよかったのに、龍ならボクの連れで通ったろうし。」
 「そうするとますますのこと脱出が敵わなくなる。」

そっかぁ、そうだよねと素直に認めるスズラン娘の無邪気さはともかく、

 「何でまた芥川くんまで同行させているんだい?」

芸能畑のプレスだって山ほど居合わせてるのに熱愛かと騒がれるよ?と暗に言いたげな、
それにしては責めているようには到底見えない
そりゃあにこやかなお顔で連れのお姉さまへと声を掛けた長身美貌の参謀殿へは、

 「そっちの狐目の名探偵が言ってたんだぜ? いっそのこと公認とした方が面倒はないって。」

そちらさんとて甘い美貌が関係筋に絶大な人気、
素人さんのみならず某有名女子アナや女優さんにまでラブコールを送られておいでなイケメンチーフさんだというに。
そのような相手へも動じず、
ふふんと鼻先でのあしらい半分、にんまりと笑って言葉を返すお姉さまなところが、
ちょっとドヤ顔なのに何だか可愛いと思えてしまう太宰さん。
そんな自分なのへの言い分けか、

 “これがかの有名な惚れた弱みってやつなんだろうな。”

などと、せいぜいい強がっての負け惜しみを、それでも言葉にはできない辺り、
ちょっぴり勝気そうな風貌のこの赤毛の美人さんにどれほど負け負けかも知れるというところかと…。

 「〜〜〜っ。」
 「? どうかしましたか?太宰さん。」

此処、横浜を本拠とする男子フィギュアの新星、芥川龍之介くんをバックアップしているチームとは、
一昨年来からそれはそれは親しく行動を共にさせてもらっている敦っちゃんチームであり。

 「さあ、マスコミに嗅ぎつけられないうちに合宿先へ向かおうぜ。」

地元民としての土地勘や抜け道情報を駆使し、
尾行されないようにという万全を期したうえで、
ひとまずこちらでの宿舎にしているホテルまで送ってってくれるらしく。
他のスタッフらが乗り込んだマイクロバスを先導するべく、
お迎え班の横浜ナンバーのボックスカーがそれはなめらかに出発したのであった。



to be continued.






 *何かだらだらと書いてたら字数が結構いったので半分に分けます。
  おかしいな、こんな理屈まるけになるよな話でもないはずなのにな。
  ただの通常運転か?(笑)



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