銀盤にて逢いましょう


□いわゆる腹の探り合い?
1ページ/1ページ



それこそ昔っから目立つ容姿だとはよく言われてた。
今時分、ちょっとスレてりゃあ
髪だって 赤どころか青じゃピンクじゃと突飛な色に染める奴は多いし、
瞳の色だってカラコン使えばどうにでもなる。
アブナイことでは群を抜く土地、
ヨコハマの“租界”でゴロ巻いてた一団の幹部だったのだから、
半端な半グレどころじゃあない身。
突飛な格好の輩なんて他にも たんといたし、
赤い髪に青い目なんて、特に珍しいこっちゃなかったが、
それ以外に微妙な揮発性でも はみ出していたものか、
それとも年齢不相応の化け物臭でも醸していたか。
特に意識して肩を張らずとも、一線引かれて別格扱いされてたし。
ポートマフィアという組織に入ってすぐ、
はみ出すことをわきまえねばならなくなっても
やはり微妙に目立っていたらしく。
異能が利かない相棒と喧々諤々がなり合いつつ、
そのついでに数多の組織を殲滅してきた戦果 (戦禍?) のせいだろうか?
それでも組織の善き駒として、任務優先、的確な働きを積み、
紆余曲折もあれこれあった末の今、五大幹部の一隅を担っている訳で。

 「…太宰さんを見かけませんでしたか?」

異能の力を請われ、それを発揮する現場や執行時刻は場末や夜更けが多いが、
人を誑かす…もとえ、転がせる愛想や何やを買われて昼間の交渉なぞにも派遣されることが増えた。
そんな中、あの青鯖野郎の名をかつてよりは公然と出してもいい環境になってもいて。
彼奴がマフィアから逐電してから数年、
表の世界に堂々と籍を置いてたと明かされてからも数年。
何やかやと外つ国から押し寄せた勢力とのすったもんだの関係もあって、
内務省特務課とつながりの深い武装探偵社と共闘なんてものを結んでた。
異能なんていう人知を超えた途轍もない力を持つ手合いとの競り合いに、
手慣れた者があたるのが最善だろうということで、裏社会の事情に通じた者がいることも好条件とみなされ、
いちいち剣突を食わせ合いつつも、打ち合わせなど不要なくらいにテキパキと、
難敵をからげちゃあ成果を上げていたものだったが、
そんな喧嘩腰の態度を一番間近で見ていたろうこの芥川から
あまりの唐突にそんな風に訊かれたことが意外で。
不意を突かれたこともあってか、
ついつい眉を寄せ不機嫌極まりないという顔で “ああ"?”と訊き返していた中也だ。
さすがに、長く太宰と中也の傍にいた身でもあるせいか、そんな不興の意は通じたか、
何故にそんなことを訊いたかの裏付けが続く。

 「人虎や探偵社の者らが探しているようで。」

口許へ手をやるでなくのすらすらと、咳き込みもせずに紡がれた一文へ、

 「人虎? …ああ、あの虎の丁稚か。」

一瞬怪訝そうに眉を寄せたがすぐさま通じて、
今度は何が可笑しいか、くつくつと楽しげに笑い返す。

「その虎の坊主が言ってたぞ。」

あいつ、いつだってふらふらと社から出掛けて行っちゃあ
入水だ首っつりだと騒ぎを起こしたり、よく判らないものやら事態やらを拾って来て騒ぎんなるって。
そんな奴なのだから、同じ伝でどっかで糸が切れた凧よろしくふらふらしてるだけじゃねぇのかと、
帽子の胴を包み込むように触れたそのまま、手で頭へぎゅうと押し込めば、

「…人虎と話す機会などあったのですか?」

今度はフリフリ付きの袖口に見合わぬ結構いかつい手を口許へ当てつつ、
そんなことを訊いたので、

「たまにな。
 目立つ奴だし人懐っこくてこっちを全然怖がらねぇしよ。」

どこかで見かけたことはあったらしく、こっちの素性は知ってたからか。
初見の折はおっかなくてか少しほど緊張もしていたが、
何だよ怖がんなよと撫で繰り回したらすぐに懐いたぜと、
愉快そうに付け足せば、

 「……左様で。」

何でか溜息をついた芥川。
太宰は知らねともう一度応じるとそうですかと去って行ったが、
途中からは元師匠はどうでもいいよな調子だった。

「…なんて聞かれたが、手前、社の方に話し通してねぇのかよ。」

途中で立ち寄った食料品店であれこれ買ったクラフト紙の袋を
腰高なカウンター代わりのユニットの上へと置きつつ、
その向こうに据えられた寝台で身を起こしていた相手へと訊けば。
頬をほりほりと人差し指の先で掻いて見せつつ、

「う〜ん。
 どうせ何かあれば乱歩さんがあっという間に此処を割り出すだろうからねぇ。」

怪しい取引か何か、ついつい深追いして反撃食らい、ちょっとした怪我をした。
まだ依頼を受けたことでなし、せいぜい自分の手の内にて
どっかで使えないかなという程度の“ひも付き事案”みたいなもの。
よって事情を聞かれるのも何だからと、
手持ちのセーフハウスで養生することにしたものの、
間の悪いことには食材も飲み物も何にもないので買い物頼むと中也へ頼った太宰であり。
手短に依頼され、虫のいいこと言ってんじゃねぇと一旦は撥ね退けつつも、
ついつい気になって…結局はインスタントの飯やパスタ、簡単に作れよう冷凍食品などを買い込み、
指定されたフラットまで運んでいる辺り、
面倒見がいいというか、そこまで把握されているというかの大幹部殿。
一応は太宰の身内のネタだからと、そんな話をされたこと伝えれば、

「芥川くんが敦くん経由でそんなことをねぇ。」

案じられていることよりもそっちの方向へ感心している、包帯の増えた美丈夫さんの言いようへ、
中也も中也で可笑しいよなぁとくつくつ笑い、

「いくら共闘が多くたって関係ねえとばかり、
 俺ら以上に殺伐としたやり取りしてる連中なのにな。」

双方ともに何とはなく、気づいたものがあったようで、

「ってことは、キミ、芥川くんから嫉妬されてんじゃない?」
「そうなんのかなぁ。」

話の流れからとうに察していように惚けるものだから、
太宰も少々呆れたか、形の良い眉を寄せて、

「面白がるんじゃないよ? あの子思いつめるタイプだしね。」
「だからって、いきなり素っ気なくすんのも妙だろが。」

そうと続けたのは敦への態度の話だろう。
怖がったのもいっときで、美味いケーキを食わせてやんよと誘えば、
警戒のポーズは取りつつも案外素直について来たし、
エリス嬢がお気に入りのショートケーキの専門店で
宝石みたいな目を零れ落ちそうなほど見開いて感動してからは、

 「すっかりと懐いてくれてんのによ。」

何てのか、構いたくなるとこがあるよな、あの虎の子はと。
会話をしつつ、それは手際よくも外套脱いでの手を洗い、
冷蔵庫と戸棚を漁ってなけなしの調味料を揃え、
買ってきた中から野菜とパスタを取り出すと、
ベーコンを炒める傍らで手際よく野菜をカットし始める中也であり。
そこまで手を付けておきながら、

 「…ああそうだ。
  手前、胃とか傷めてて食い物受け付けねぇって状態じゃあないんだよな。」

食べ物ないよ買って来てと言いつけたくらいだし、なんて、
そりゃあ美味しそうな匂いをさせといてから訊くのが、
随分と酷だよねぇと、太宰からの苦笑を誘ったものだった。




 “………なんてこともあったよね。”

あの頃は同じ男同士であったので。
直接的な情愛というよりも、何でだか気になる存在、
反発しつつも他の輩には盗られたくない、
不思議と独占していたい手合いという感触だったのだろうけど。
それでも単なる友愛よりは濃密だったか、
こうして不思議な“再会”を為しての、
もっと密に絆を深めていいぞという立場を用意されてもおり。

 「だあ、邪魔だってんだよ。」
 「良いじゃない。もう包丁使ってないでしょう?」

キッチンに立ち、何やら軽いランチでもと用意している中也の背後にくっ付いて、
大きな鍋でパスタを茹でるフィアンセの薄い肩や背へと貼りつき、
かつてよりさらに身長差があるというに、
少しも苦にせず馴染んでいる長身の君であり。

 中也柔らかい〜♪
 …そこは胸だからな。//////
 此処も柔らかいよ、昔はカッチカチだったじゃない。
 腹がふにゃふにゃだとでも言いたいか#

喧嘩しているつもりにしては、
双方ともに微妙に嬉しそうなのは此処だけの話。
男女として引き合わせてくれたのが人ならぬ誰ぞの悪戯だとして、
意地を張るよな理由が もしかして多少はあったとしても
ちょっとバタバタした再会後の修羅場で氷解しており。
こんなに甘えたな奴だったかな、
こんなに甘えさせてくれるような奴だったっけと、
意外に思うのもほんのいっとき。

 「ところで、芥川くんって恋愛経験あるのかな?」
 「ねぇんじゃね? そっちこそ人虎の敦は 生え抜きの箱入りなんだっけな。」
 「これはやっぱり周りが誘導してやんないと進まないのかなぁ。」
 「とか言って面白がってねぇだろうな。」
 「さてね。」

かつて同様に、それぞれの連れの黒と白の若いのの
恋の行方なぞ案じてやったりする二人だったりするのである。





     〜 Fine 〜    19.09.02.





 *芥敦、太中のCPで…ということで、
  銀盤繋がり、回想録としましたが。
  甘えたな太宰さんを書くのが楽しくてしょうがないですvv
  



次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ